「耕す土地がなくなれば、自分たち農民は暮らしていけない」
そう語るのはチェンマイ県メーフェック区パイフアン村の土地問題グループのリーダー、レック氏である。
今から約15,6年前の経済危機によって、農民は農地を捨て売り払ってしまった。農産物を作っても仲買人に安く買い叩かれ、農業の後継者もいない状況で農業に対する将来への希望が失われてしまった。その状況を絶好のチャンスであると思ったのは海外の資本家であった。チェンマイはリゾート地であり、海外旅行者、永住希望者がたくさん訪れる。土地を買い集めて住宅建設やリゾート建設用の土地にすれば、資本家には多くのお金が入る。また、近年の土地価格の高騰も土地売買の拍車をかけた。
借金を抱えていた農民や子どもの教育費が必要だった農民は土地を次々と手放してしまった。土地を失った農民は一時的には収入があっても、長期間暮らしていくことは困難である。日々食べるものは買って来るようになり、収入は日雇い労働へと変わってしまった。
資本家は土地が売れるまでその土地を何にも活用せず、何年もそのままにしておいた。一方で土地を売ってしまった農民は耕作地が目の前にあるにも関わらず、農作物を作れない状況であった。土地が無ければ暮らしていけない。農地を売ってしまった農民はそのことに気付いたのであった。
そんな状況の中、大学教授などによってその問題の解決方法が模索された。パイフアン村で土地問題解決のための農民グループが出来たのは今から7年前である。村の340世帯中、79世帯が活動に参加している。グループの設立目的は資本家から土地を取り戻すことだ。
土地問題解決グループによる月1回のミーティングこの村では約500ライもの土地を3人の資本家が所有している。グループでは一世帯3ライ、自分の土地を取り戻そうと活動を行っている。このグループの活動に土地銀行というものがある。土地を購入する際に土地価格の半分を政府が支援し、土地銀行が半分貸し出す。土地銀行は農民グループが自ら作ったものである。会員は土地銀行に毎月100バーツの貯金をしている。土地を購入して与えられる土地借地権は99年間である。それ以降は借地権がなくなってしまう。孫の世代まで土地を残すことは現在出来ていない。
また、自分たちの土地を守っていくため、植林活動、環境保護活動も同時に行っている。
レック氏は「一番良い方法は政府が土地を買い取り、農民に安く売ること。その働きかけを行っている。しかし、それだけではだめだ。農業のあり方も同時に考えていかなくてはならない」と言う。レック氏は父親が土地を売ってしまい、この活動に参加するまで自分の土地を所有していなかった。
土地を手放した農民が悪いのか、土地を利益としてしか見ていない資本家が悪いのか、農業を続けていく環境を追いやっているタイ政府、はたまた世界が悪いのか。
このような土地問題を抱えている村はチェンマイ県内にいくつもあった。農産物価格の下落、農民の抱える借金問題など根本的な問題を解決しなければこの問題は解決しないと思う。現在も多くの農民が土地を売っている状況があるからだ。
「土地は売買されるためのものではなく、自分たちの食糧を作っていくためのものでなくてはならないんだよ」と静かに語ったレック氏の言葉が印象的だった。