スーダン日記
「菜園を作るって、そりゃあいい考えだ」
シエハ(住民リーダー)のサレさんが声を張り上げました。

カドグリ郊外、私たちがウォーターヤードを設置した避難民向け住居の手前に位置する、ティロ本村。この「現地だより」でも、これまでに何度か登場した場所です。菜園づくりプロジェクトの候補地として、12月中旬にJVCスタッフが訪問して住民リーダーたちと話し合いを持ちました。
「今は、みんな乾季に薪拾いをしたりカヤを集めたりしているけど、それだけじゃダメだ。住民も増えているし、何か新しいことを始めなきゃいかん。分かっているか」
サレさんは力説しています。会合には、ほかに地区委員会(地方政府が任命した行政の末端組織)のメンバー、そしてこの地区で生活を送っている避難民も集まりました。
避難民グループのリーダー、ユスフさんは
「避難前に住んでいた元の村には菜園がたくさんあった。野菜作りのことなら、ワシらのグループに任せておけ」
と自信ありげです。
乾いた大地が広がる12月の南コルドファン州。最後に雨が降ってから、すでに1か月以上が経っています。雨季には緑に覆われていた山々も、すっかり茶色に変わりました。
ここでは、1年のうち約半分、12月から5月は全く雨の降らない乾季。天水で農業を行う人々にとっては、いわゆる農閑期にあたります。

農閑期だからといって「ヒマ」なわけではないのは、たぶん日本のお百姓さんと同じでしょう。その間、村の人々はマンゴーやグアバなどの果実を取ったり、森で樹液や蜂蜜を集めたり、木の皮をはいでその繊維から縄を結ったり、炭を焼いたり、カヤを集めて家の屋根を葺き替えたり、薪拾いをしたり...やることは山のようにあります。そうそう、狩りも忘れてはいけません。ウサギなどの小動物、時にはハリネズミも捕えます。
「現地便り」2月9日号(「アジザさんのラクバ~避難民向け住居の収穫」)の読者から、次のようなご質問をいただきました。
「避難民の方が自分で種子を購入したと書いてありますが、どうやって現金収入を得ているのでしょうか?」
ご質問の「現地便り」では、昨年8月にJVCが配布した種子以外にも、避難民の皆さんが市場に行って自分のおカネで購入した種で作物を育ててきた様子を書いています。
避難生活を送りながら、どうやって収入をあげているのでしょう?ごもっともな疑問です。


赤、青、黄色...色とりどりのトブ(スーダンの女性の間で一般的な一枚布の着衣)をまとって、避難民向け住居の主婦たちがアジザさんの家のラクバに集まっています。「ラクバ」とは、家の前に大きく張り出した草ぶきの軒先。その下は、一家のだんらんの場であり、台所であり、作業場であり、夜にはここで就寝し、昼にはご近所のおしゃべりの場になります。森から切り出した木で作った手作りのベッドは、おしゃべりの時間には格好の長椅子です。
ティロ避難民向け住居でウォーターヤードの引き渡しが行われた昨年11月、それはちょうど収穫の時期でもありました。この地域では、雨季が終わって乾季が始まる11月から12月にかけて収穫はピークを迎えます。
JVCは、昨年8月上旬に避難民向け住居で種子の支援を行い、その様子はこの「現地だより」でもご紹介しました。はたして、その収穫はどうだったのでしょう?

ウォーターヤードの脇にクルマを停め、レンガ造りの避難民向け住居が立ち並ぶ中を歩いていくと、あちこちの庭先に刈り入れ後の収穫物が山積みになって干してあります。主食穀物のソルガム(モロコシ)のほか、輪切りにされたオクラ、ゴマ、豆類など、その種類も様々。金だらいのような容器に収穫物を入れ、頭に載せて運んでいく女性たちの姿も見えます。
JVCスタッフのアドランとタイーブは、1軒の家の前で足を止めました。以前から顔見知りのアジザさんの家です。
「カドグリなんて、もう行きたくないわ」
JVCハルツーム事務所スタッフのモナが、友人のインティサルさんから電話を受けたのは、新しい年が始まってすぐのことでした。
スーダン現地NGOのハルツーム事務所で働いているインティサルさんは、昨年の10月から、カドグリに長期間の出張をしていました。住民向けに保健・衛生の研修を行い、1月に終了してハルツームに戻る予定だったそうです。
「でも、ほら、あなたも知っているでしょ、12月にあったあの砲撃」
「ええ、もちろん知っているわ」

避難民向け住居の入口に、国連のロゴが入った四輪駆動車や州政府の車両が次々に到着しました。クルマを下りた人たちは、ウムダ(住民リーダー)や井戸管理委員会のメンバーと握手をしながら、ウォーターヤードの傍らに張られたテントの中に入っていきます。
11月17日、いよいよ引き渡し式の日がやってきました。
JVCスタッフのアドランは、小さな紙を見ながら何やらブツブツ言っています。
「なんだよ、それ」
同僚のタイーブが尋ねると、
「式典での挨拶の原稿なんだ」
「そうか、練習してんのか。おい、もうすぐ始まるぞ」
テントの中は50人近い参加者でびっしり埋まりました。入りきれずに立っている人もいます。住民のひとりが司会をして、式が始まりました。
一面のソルガム畑は、収穫の時期を迎えて刈り取りが進んでいました。
ほんの2週間前まで背の高いソルガムに視界が遮られていましたが、今ではここ避難民向け住居から、ティロ本村や、用水池のある丘までをずっと見渡すことができます。遠くの方に、牧畜民の白いドーム型のテントもちらほらと見えています。

11月12日、いつもと同じ木陰の集会所にJVCスタッフが到着すると、井戸管理委員会のメンバーも集まってきました。
ズベルさんは、今日もノートを手にしてやってきました。読み書きが得意なので、委員会の記録係になっているのです。会合が始まるまでの間、前の週に行われたはずの住民集会について話を聞いてみました。
「ズベルさん、住民集会はどうでしたか?」
「とってもよかったよ。大成功だ」

「工事が終わったから、確認にきてくれないか」
ウォーターヤードの施工業者からJVCスタッフに電話が入ったのは11月上旬。いつもの赤いクルマを飛ばして駆けつけると、建設現場には既に井戸管理委員会のメンバーも集まっていました。
給水塔や共同水栓の工事は10月に完了しているので、今回残っていたのは周囲のフェンス、発電機用の機械室、それに家畜給水所の設置でした。
「本当に、来るのかよ」
「毎朝8時頃にはここに集まるって聞いたんだ。もう少し待ってみよう」
モスクの脇に停めたクルマの中で、JVCスタッフのタイーブとアドランはあたりの様子をうかがっています。ここは、ティロ地区の避難民向け住居に程近いティロ本村。時刻は8時を10分ほどまわっています。
「そろそろ来ると思うんだけどなあ」
アドランは、待ちきれない様子で外に出て遠くを眺めています。タイーブはクルマの中で半分居眠り。今日はいつもより早起きをしてここにきたので、寝足りないのかも知れません。