「カドグリなんて、もう行きたくないわ」
JVCハルツーム事務所スタッフのモナが、友人のインティサルさんから電話を受けたのは、新しい年が始まってすぐのことでした。
スーダン現地NGOのハルツーム事務所で働いているインティサルさんは、昨年の10月から、カドグリに長期間の出張をしていました。住民向けに保健・衛生の研修を行い、1月に終了してハルツームに戻る予定だったそうです。
「でも、ほら、あなたも知っているでしょ、12月にあったあの砲撃」
「ええ、もちろん知っているわ」
12月14日、16日、17日と立て続けにカドグリを襲った砲撃は、約半年ぶりのものでした。何キロも離れた反政府軍の陣地から1日に数発の砲弾が発射され、うち一部は市街地に着弾しました。
「私はね、職場の同僚と一緒に、近くにあったユニセフの頑丈な建物の中に避難したの。子供たちもたくさん避難してきていたわ。砲弾がさく裂する大きな音に、みんなおびえていた」
砲撃のあと、インティサルさんが実施していた研修事業は、予算を少し残したままで打ち切りが決まったそうです。彼女も、予定よりも早くハルツームに戻ってきました。
JVCのスタッフも、砲撃の後は活動を見合わせて待機。慎重に様子をうかがいながら、徐々に活動を再開しました。
乾季が始まって間もない12月、スーダンの大統領や政府軍司令官は、「この乾季(約半年間)の間に、大攻勢をかけて各地の反政府軍を一掃し、平和をもたらす」と宣言。まずは南コルドファン州と青ナイル州の反政府軍を「片付け」て、次いでもうひとつの紛争地であるダルフールに転じる、としていました。
確かに、大きな戦闘が準備されたようです。私たちの活動地の周りでも、軍の徴兵を受けて家族のもとを離れる人々を見かけるようになりました。やがて、カドグリの上空を南の方角-反政府軍支配地域-に向かって飛行する爆撃機が増え、村々への空爆と、本格的な地上戦が始まりました。
反政府軍は「村に残る住民を爆撃するのは反人道的行為だ」と政府軍の空爆を非難し、その報復として州都カドグリを砲撃。政府はそれを「一般市民を標的にした無差別攻撃だ」と逆に非難しています。お互いに非難し合いながらエスカレートする暴力。反政府軍の砲撃を沈黙させるため、カドグリ上空を南に向かって飛ぶ攻撃用ヘリコプターの数は以前にも増して多くなっていったそうです。
1月、ハルツームの新聞には政府軍勝利の文字が躍り、反政府軍を撃破していく記事が掲載されました。しかし実際には、政府軍は部分的に反政府軍を後退させているものの、その拠点には近づけていないようです。
インターネット上のニュースでは、低空で飛行する攻撃ヘリの音にカドグリの子どもたちはおびえ、学校にも行かなくなっている様子が報道されています。「乾季大攻勢」がもたらしたものは、平和ではありませんでした。
子どもたちは、いちばん敏感なのかもしれません。しかし、大人たちはどうなのでしょう。
「モナ、私が驚いたのはね、砲撃があって、上空を爆撃機が飛び回っていて、でもカドグリの人たちはみんな平気そうな顔をして毎日を送っているのよ。どうしてそんなことができるの?」
電話口で、インティサルさんはそう尋ねてきたそうです。
「それは・・もう2年以上もそうしてきたし、そこで生活していくしかないから・・」
「そうなの?でも私にはあそこには住めないわ・・・ねえ、それって、私の感覚がおかしいの?それとも、あの人たちがおかしいの?」
【おことわり】
JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。
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