乾いた大地が広がる12月の南コルドファン州。最後に雨が降ってから、すでに1か月以上が経っています。雨季には緑に覆われていた山々も、すっかり茶色に変わりました。
ここでは、1年のうち約半分、12月から5月は全く雨の降らない乾季。天水で農業を行う人々にとっては、いわゆる農閑期にあたります。

農閑期だからといって「ヒマ」なわけではないのは、たぶん日本のお百姓さんと同じでしょう。その間、村の人々はマンゴーやグアバなどの果実を取ったり、森で樹液や蜂蜜を集めたり、木の皮をはいでその繊維から縄を結ったり、炭を焼いたり、カヤを集めて家の屋根を葺き替えたり、薪拾いをしたり...やることは山のようにあります。そうそう、狩りも忘れてはいけません。ウサギなどの小動物、時にはハリネズミも捕えます。
とはいえ、それは紛争が始まる前のこと。紛争後のいま、3万人以上の避難民が流入して人口が膨れ上がったカドグリ周辺の村々では事情は違います。地元住民や避難民にとって、貴重な現金収入源である薪拾い、炭焼き、カヤ集めをするための森や草地といった資源は限られています。しかも、カドグリの外側には軍の警戒線が敷かれているため、遠くの森へ行くことはできなくなりました。 中には、カドグリの町に出て日払いの仕事をする人もいます。しかし避難民の多くは女性と子どもだけの世帯。小さな子どもを残して毎日働きに出ることは容易ではありません。そもそも毎日仕事が見つかる保証もありません。
そこで、私たちが目を付けたのは菜園づくりです。
もともと、カドグリ周辺には乾季に灌漑をしながら野菜を栽培している地域がいくつかあります。私たちは昨年、そうした地域のひとつであるムルタ地区で、地元住民と避難民との共同菜園づくりを支援しました。育てた野菜は家庭の食卓にのぼり、また現金収入源になりました。町での日払いの仕事ほどの収入にはなりませんが、お母さんたちにとっては家の近くで子どもの世話をしながら畑仕事ができるという利点があります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――「おい、こっちの道でいいのか?」
「間違いない、ここから丘の裏側に回り込むんだ」
JVCスタッフのアドランとタイーブが向かっている先は、ウム=バタアと呼ばれる地区の中にある、アサマ西集落。カドグリ中心部から南東に幹線道路を4キロほど走り、右手に見える丘の裏側です。
菜園プロジェクトを始めるにあたって、まずは実施する地区を選ばなくてはなりません。昨年度のムルタ地区では一定の成果があがったので、今年は同じカドグリ周辺で別の地区に移動します。
農地があること、灌漑用水があること、地元住民や避難民が野菜作りに関心があること、こうしたことが条件になりますが、特に灌漑用水が重要です。昨年度は溜池の水を使いましたが、どの地区にも十分な数の溜池があるわけではありません。
私たちは事前に集めた情報をもとに、幾つかの候補地を訪ねてみることにしました。そのひとつが、アサマ西集落。乾季にも野菜づくりが行われているとの情報がありました。
集落の中心にクルマを停めてシエハ(住民リーダー)の家を訪ね、「この集落の菜園を見せていただきたいのですが」と事情を説明すると、シエハ自らが率先して案内してくれました。
話に聞く通り、丘のふもとに広がる集落にはいくつもの菜園がありました。収穫を終えたオクラの茎が残る畑で、新しい葉物野菜が芽を出しています。

「おい、ハディジャ」
畑仕事をしていた農家の主婦に、シエハが声を掛けました。
「日本の援助団体の人が来て、話を聞きたいって言ってるぞ」
「あら、まあ」
ハディジャさんは作業の手を止めてJVCスタッフの方に向き直りました。
「こんにちは、JVCから来たアドランです。野菜作りについて少し話を聞かせてください」
ハディジャさんの話では、今育てているのはルッコラ、モロヘイヤなど4種類の野菜、それにトウガラシ。種子は全てカドグリの町で買いました。育てた野菜は毎週1回カドグリの市場で売り、100スーダンポンドの収入になるそうです。
「すごいな、月に400ポンドじゃないか。大した収入だぞ」
後ろで話を聞いているタイーブがつぶやいています。
「畑の水は、どこから引いているのですか?」
アドランが肝心の質問をしました。
「手押しポンプ井戸から引いてるよ」
「えっ?手押しポンプ?」

溜池から引いていると思っていたアドランは、少し驚きました。畑の広さは20×10メートルくらい。この広さの畑に手押しポンプ井戸で灌漑ができるのでしょうか?
「その井戸、どこにあるのですか?」
「あっちの木の下だよ」
ハディジャさんが案内してくれました。なんと、井戸で汲み上げた水がそのまま水路を通って畑に流れていくようになっています。
「うわ、これはいい仕組みですね」
「でも、こんなふうに水が引けるのはここの井戸だけだよ」
確かにここは、井戸の設置場所が畑よりも高いので、そのまま水が流れるようになっています。どこでも使える方法ではありません。
「向こうの井戸を使っている人たちは、ポリタンクで水を汲んで畑に撒いているよ」
「えっ、向こうの井戸って、どこにあるのですか?」
ハディジャさんに場所を教えてもらい、そちらに向かいました。
歩いて数分、教えてもらった井戸に来てみると、ポリタンクが井戸端に並んでいます。

水汲みをしていた主婦、ハリマさんに話を聞きました。
「そうだよ。ポリタンクで汲んで畑に運ぶのさ。そしたら、水撒きはコップを使ってこうしてやるんだよ」
ハリマさんは身振り手振りで、右手に持ったコップの水を左手の平で受けて調整しながら作物に垂らす方法を教えてくれました。水の節約になるのでしょう。
周りを見渡すと、井戸を取り囲むようにいくつもの菜園があります。

「みんな、オクラやダイコンを育てているね。あと、レモンやグアバの木もたくさんあるよ」
あたりには木々が茂り、涼しげな空気が漂っていました。
事務所に戻ったスタッフから撮影した写真をハルツーム事務所に送ってもらい、私も電話で参加しながらアサマ西地区について議論しました。
「すぐに菜園の支援を始めましょうか」
「ちょっと待って。菜園の用地は、今よりも広げることができるのだろうか?」
「それは難しいと思います。あの地区の人たちは菜園づくりに熱心で、井戸の周りはもうすでに畑でいっぱいです」
私たちのプロジェクトの目的は、生計手段としての乾季の菜園作りを「これまでやっていない」地元住民や避難民の間に広げていくことです。アサマ西地区では、すでに菜園は生計手段として立派に確立されており、土地の余裕もない中でJVCが介入する必要はないように思われました。
「でも、手押しポンプ井戸だけであんなに立派な菜園ができるとは思わなかったね。訪問してよかったよ」
「はい。あれなら、ほかの地区でもできると思います」
スタッフは、次の候補地に向かうことになりました。
【おことわり】
JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。
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