ティロ避難民向け住居でウォーターヤードの引き渡しが行われた昨年11月、それはちょうど収穫の時期でもありました。この地域では、雨季が終わって乾季が始まる11月から12月にかけて収穫はピークを迎えます。
JVCは、昨年8月上旬に避難民向け住居で種子の支援を行い、その様子はこの「現地だより」でもご紹介しました。はたして、その収穫はどうだったのでしょう?

ウォーターヤードの脇にクルマを停め、レンガ造りの避難民向け住居が立ち並ぶ中を歩いていくと、あちこちの庭先に刈り入れ後の収穫物が山積みになって干してあります。主食穀物のソルガム(モロコシ)のほか、輪切りにされたオクラ、ゴマ、豆類など、その種類も様々。金だらいのような容器に収穫物を入れ、頭に載せて運んでいく女性たちの姿も見えます。
JVCスタッフのアドランとタイーブは、1軒の家の前で足を止めました。以前から顔見知りのアジザさんの家です。
「こんにちは」

マッチ箱のような住居の前には「ラクバ」と呼ばれる、木の枝を支柱に草で葺いた大きな庇(ひさし)が延びています。屋根の上には、収穫後のソルガムの茎、豆をもいだ後の落花生の葉っぱなど、あふれんばかりに色々なものが載っています。こうして乾燥させたあと、頑丈なソルガムの茎は建築資材に使えますし、落花生の葉は家畜の餌として売ることができます。収穫した作物には食用以外にも様々な用途があって、捨てるところはないのです。
家の中から、アジザさんが顔を出しました。細身の体に、白地に赤い花柄が入ったトブ(スーダンの女性の間で一般的な一枚布の着衣)をまとっています。
「JVCです。今日は、収穫の様子を見にきました」
「そうかい。まあ、そこに掛けなさい。近所の人も呼ぼうかね」
ふたりはラクバの中の小さな椅子に座りました。ふと、あたりを見渡したタイーブは、片隅に目が留まりました。

「うわ、アジザさん、これカボチャですか?デカいっすね!」
大きなカボチャが10個以上も並んでいます。
「ははは。そうだよ・・すぐそこの庭で採れたんだよ」
となりの住居との間の庭が畑になっています。
「カボチャを植えた時、種はどこで手に入れたんですか?」
アドランが、大事なことを尋ねました。なぜなら、JVCはカボチャの種子は配布していないのです。
「種かい?去年のカボチャから自分で採っておいたんだよ」
アジザさんは2年前に戦場となった村から避難、カドグリ市内でのテント生活を経て5か月ほど前にここに入居しました。そんな避難生活の中でも、どこかでカボチャを育てていたことになります。

家の前では、オクラとハイビスカスがゴザの上で日干しにされています。オクラはJVCが種子を配布しましたが、ハイビスカスは配布していません。
「ああ、あれはね、種を分けてもらったのさ」
スーダンで「ケレケデ」と呼ばれるハイビスカスは、乾燥させた赤い花がお茶に利用されます。「ハイビスカス・ティー」と言えばお洒落な響きですが、スーダンでは庶民の飲物。特に、暑い日には酸味の効いたケレケデがたまりません。
「料理にも使うのさ。煮込みに入れるんだよ」
「えっ?本当ですか」
この地域で生まれ育ったアドランやタイーブにも、これは少し意外でした。いったい、どんな味なのでしょう?

やがて、ラクバに近所の主婦たちが集まってきました。井戸管理委員会のニダさんもいます。近くに住んでいるのでしょう。
「今日は、収穫の様子をうかがいに来ました。みなさん、畑の刈り入れはもう終わりましたか?」
「ソルガムはみんな刈り取ったよ。今は干してるところだね」

ソルガムは乾燥させてから、棒で叩いて脱穀します。袋に入れて保管するのはその後になるので、まだ収穫が何袋になるかはよく分かりません。とはいえ、皆さんの感触として収穫はどうなのでしょう。
「カラマッカはよく育ったけどね、ワダハメッドはあまりよくなかった」
みんな、うなずいています。「カラマッカ」「ワダハメッド」とは、ソルガムの品種名です。
避難民向け住居への入居が進んだのは昨年7月。JVCはそれを確認してから8月上旬に種子を配布しましたが、配布時期が遅かったため、農業省のアドバイスを受けて生育の早い改良種ソルガムの種子を配布したのでした。その改良種が、ワダハメッドです。
「このあたりはね、水が足りなかったんだよ。でも、あっち側では、ワダハメッドもよく収穫できたみたいだよ」
「このあたり」とは、ウォーターヤードに近い避難民向け住居の北側のこと。「あっち側」と指さすのは、南側の一角です。
彼女たちの話をまとめると、JVCが配布したワダハメッドは、避難民向け住居の南側では良い収穫が上がったが、北側では思うような収穫が得られず、それは「水が足りなかった」からということになります。位置が500メートル違うだけで、生育に差が出たようです。降水量は同じはずですから、土地の高低、土質や水はけの差なのかも知れません。
それに対して、在来種のカラマッカは、どの場所でも安定して収穫が上がったようです。しかし、JVCはカラマッカを配布していないのに(註)、皆さんはどうやって入手したのでしょうか?
「市場で買ったのさ。あんたらがワダハメッドを配る前に、もう種まきを済ませてたんだよ」
ニダさんは、そう言って笑っています。
結果的に、今回は農業省そしてJVCが推奨した改良種の種よりも、農民が自分で調達した在来種の方が安定した収穫をもたらしたようです。
「ほかにね、クルギっていう種もまいたんだよ」
クルギもまた、ソルガム在来種の品種名です。
今回の訪問で聞いた話は、私たちにとって少し意外でした。JVCが配布した種子のほかにも、人々は昨年の収穫から採種したり、市場で買ったり、互いに分け合ったり、様々な方法で種を調達し、色々な作物、そして複数の品種を栽培していました。そのおかげで、安定した収穫を上げていたのです。
しかし、それはある意味、当然かも知れません。どんな種をどれだけ植えるかは1年間の食料事情を左右する大事な選択。援助団体の支援だけに頼るわけにはいきません。支援を役立てながら、あとは自分たちの判断で選択する。それもひとつの知恵でしょうか。
ラクバに集まった主婦たちとの会話は、やがてそれぞれの家族の話題に移っていきました。これはまた、次の機会にご紹介しましょう。
(註)配布時期が遅れた避難民向け住居では生育期間の長いカラマッカは配布していないが、これに先がけて7月に配布した他の地区では、在来種カラマッカと改良種ワダハメッドの両方を配布している。
【おことわり】
JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。
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