
避難民向け住居の入口に、国連のロゴが入った四輪駆動車や州政府の車両が次々に到着しました。クルマを下りた人たちは、ウムダ(住民リーダー)や井戸管理委員会のメンバーと握手をしながら、ウォーターヤードの傍らに張られたテントの中に入っていきます。
11月17日、いよいよ引き渡し式の日がやってきました。
JVCスタッフのアドランは、小さな紙を見ながら何やらブツブツ言っています。
「なんだよ、それ」
同僚のタイーブが尋ねると、
「式典での挨拶の原稿なんだ」
「そうか、練習してんのか。おい、もうすぐ始まるぞ」
テントの中は50人近い参加者でびっしり埋まりました。入りきれずに立っている人もいます。住民のひとりが司会をして、式が始まりました。

まず、住民である避難民を代表してウムダのバクリさんが関係者に感謝の意を表し、続いて井戸管理委員会のブシャラさんの挨拶。そしてアドランの番です。日本政府の支援で建設がされたこと、住民との話し合いを重ねてここまで来たことなどを話して、無事に挨拶を済ませました。
水公社の局長が挨拶に立ちました。
「州内の大半のウォーターヤードは水公社が運営しているが、このウォーターヤードは住民が自分たちの手で管理運営をしていくという。こんなに素晴らしいことはない」
と絶賛しています。
アドランに、隣に座っているタイーブが耳打ちしました。
「なんだよあの局長、オレたちが最初に話しに行った時には『住民が管理運営するなんて無理だ』って言ってたじゃないか」
アドランは、可笑しくなりました。
「まあ、いいじゃないか。気が変わったんだろ」
それにしても、避難民向け住居の生みの親である州政府や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はじめ、挨拶に立ったほとんどの人たちが「住民による運営は素晴らしい」「井戸管理委員会は十分な研修を受けたので、きっとうまくいくだろう」と述べていました。
リップサービスもありますが、住民による運営の大切さを認識してくれているのはありがたいことです。しかし、実際の運営が始まるのはこれから。今はやっとスタート地点に立ったところです。
「引き渡し合意書」に住民代表とJVCが署名をして、正式にウォーターヤードは住民に引き継がれました。ピンクのテープがカットされて、拍手とともに人々が施設の中に入っていきます。共同水栓の蛇口をひねると、勢いよく水が流れ出しました。



フェンスの外側の家畜給水所には、この時を待っていたかのようにウシの群れが押し寄せてきました。いっぱいに水が張られた給水桶に首を突っ込んで水をガブガブ飲んでいます。ヤギやヒツジの姿も見えます。

「オープン当日からウシの群れが来るとは思っていなかったな」
アドランが感心して言うと、タイーブは、
「それはちょっと違うみたいだ。さっき耳にしたんだけど、式を盛り上げるために、『タダで水を飲ませてやるから家畜を連れて来てくれ』って、井戸管理委員会が牧畜民に頼んだらしいぜ」
と裏事情を披露。
サクラ、なんていうコトバがスーダンにあるかどうか分かりませんが、家畜のサクラというわけです。
式典は終わり、こんがりと焼けたヒツジの肉が運ばれてきました。朝のうちに1頭のヒツジがウォーターヤードのために犠牲になり、その血が捧げられたようです。
アドランとタイーブが肉をほおばっていると、ウムダや井戸管理委員会をはじめ、避難民向け住居の人々、住民運営に反対していたはずの水公社の局長、ほかにも多くの人たちが握手を求めに来ました。みんなのうれしそうな笑顔に、二人も苦労が吹き飛ぶ思いです。

歌と踊りが始まりました。「ハカマ」と呼ばれる、女性の歌い手たちです。国連職員も、州政府の人たちも、みんな輪に入ってきました。
「ハカマ」は、歌と踊りで村人たちを鼓舞しながら、村の歴史や内戦中の出来事を歌い継いできました。今また紛争の中で、決して望んだわけではない新生活が、この避難民向け住居で始まりました。ここでの苦労や喜び、そしてひょっとしたらウォーターヤードも、歌い継がれていくのかも知れません。
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【避難民向け住居への給水活動】シリーズは、ひとまずこれで終了します。その後のウォーターヤードの運営については、また掲載致します。
【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井(首都ハルツームに駐在)が執筆したものです。
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