「水をどうにかして欲しい」
「隣のティロ本村にある井戸まで汲みにいくのは遠い」
カドグリ郊外、ティロ地区の避難民向け住居では、7月末までに230戸への入居がほぼ完了しました。人々の暮らしが始まれば、まず問題になるのは生活用水の確保です。
計画では、国連が手押しポンプ井戸を2基、JVCが揚水機付きの井戸を1基建設することになっていました。このうち手押しポンプ2基は8月から9月にかけて完成し、住民は遠くまで出かけなくても水を利用することができるようになりました。
しかし、11月から乾季が始まると水の需要がぐっと増えます。そのために、より供給能力が大きい揚水機付き井戸の完成が待たれています。
「揚水機付き井戸」といっても、皆さんにはピンとこないと思います。
まずは、写真をご覧ください。

これは現在カドグリ周辺で稼働している揚水機付き井戸です。JVCが設置したものではありませんが仕組みは同じです。
掘削した井戸に電動ポンプを設置。発電機で起こした電気でポンプを稼働させ、給水塔まで水を汲み上げます。そこから給水所まで配管をして、蛇口をひねると水が出てきます。電動ポンプを使って大量の地下水を汲み上げることが可能で、人間の生活用水だけではなく、郊外や村落部では牧畜民が飼育する何百頭、何千頭もの家畜への給水にも使われます。また、町の住宅地においては、ロバにドラム缶付き台車を引かせた「水売り」の人々が、揚水機付き井戸でドラム缶に水を入れて、そこから住宅地を巡回して水を小売りしています。
この揚水機付き井戸(と付属する給水設備)は、スーダンでは通称「ウォーターヤード」と呼ばれています。この「現地便り」でも、このあとは「ウォーターヤード」と呼ばせていただくことにします。
JVCは8月から、ティロ地区の避難民向け住居にウォーターヤードの建設・設置準備を始めました。「現地だより」では、これから数回にわたって、このウォーターヤードの準備から完成までの紆余曲折をご報告します。
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「ウォーターヤードのことなら、任せなさい」
8月、JVCスタッフのアドランが南コルドファン州の水公社(Water Corporation)を訪ねると、出てきた局長は自身満々にそう言いました。水公社というのは、日本で言えば水道局にあたる公的機関で、スーダンの各州において給水事業を管轄しています。
「JVCが新しいウォーターヤードを作るのは、我々にとっても良い知らせだ。知っていると思うが、州内のウォーターヤードのほとんどは水公社が運営している。だから経験の蓄積があるし、知らないことは何もない。工事中にも、問題が起きたらいつでも相談に来なさい」
「はい」
アドランがうなずくと、
「ところで、完成したウォーターヤードは、誰が運営するんだ?」
「それは、まだ決まっていません」
「二通りのやり方があるぞ。ひとつは、完成したウォーターヤードを水公社に引き継いで運営を任せるやり方。もうひとつは、そのまま住民が自分たちで運営するやり方だ」
「はい」
「おススメは、水公社に任せるやり方だ」
「そ、そうですか?」
住民が運営すると考えていたアドランは、ちょっと意外に思いました。
「そうだ。水公社が運営すれば、発電機の燃料代や設備の修繕費、ポンプの操作員の手当など、何から何まで水公社が責任を持つ」
「でも、住民は利用するのにおカネを払わなければいけないのでは」
「その通り。ポリタンク(15リットル入り)5個の水を汲むのに1スーダンポンドの料金を徴収する」
「住民が運営した場合には?」
「水公社は技術的な助言・指導はするけれども、運転資金などすべての責任は住民が負うことになる。ウォーターヤードを利用する牧畜民やロバの水売りから料金を回収して運転費用をまかなうことができれば、住民に対しては水を無料で提供できるかも知れない」
「それはいいですね」
「とは言ってもな、いいかアドラン。実際には住民による運営は失敗するケースがほとんどだぞ。みんな最初は『自分たちで運営できる』と言うが、そんなに簡単ではない。カドグリの周りでも最近、住民が運営に行き詰まって『やっぱり水公社に譲ります』と泣きついてきた地区がある。やっぱり、水公社に任せるのがイチバンだ」
水公社での説明は、アドランには少しがっかりでした。確かに水公社に運営を任せれば安心なのかも知れませんが、住民はおカネを払って利用しなくてはなりません。
「でも、住民はポリタンク5個あたり1スーダンポンドも払って利用するのかな?」
そう思ったアドランたちJVCスタッフは、カドグリ周辺のウォーターヤードの様子をその目で確かめに行くことにしました。


【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井(首都ハルツームに駐在)が執筆したものです。
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