2013年避難民緊急支援レポートの記事一覧

4月後半からの1か月間にJVCは600世帯以上に生活用品を配布、カドグリに到着した避難民の大半を支援することができました。
物資を受け取った避難民は、その後どんな生活を送っているのでしょうか?
JVCスタッフは、多くの避難民が生活しているティロ地区へと向かいました。
JVC事務所から北東に向かい、丘陵地帯を左手に見ながらクルマで15分。丘陵の東側に位置しているのがティロ地区です。ちなみに、この「現地便り」でお馴染みのムルタ村からは丘陵を挟んで反対側にあたります。

広場にクルマを停めて、家々の間を歩いてみます。避難民は一ヶ所に固まって生活しているのではなく、あちこちに散らばって空き家や軒先を借りて生活をしているはずです。
すぐに、JVCが配布した防水シートとゴザで作った仮囲いの小屋が目に留まりました。避難民の住居に違いありません。小屋の脇には、森から集めてきた薪が積まれています。
その避難民たちは、木の下で暮らしていました。
カドグリ郊外での生活用品配布を一段落させたJVCスタッフのもとに、「シエリ地区にたくさんの避難民がいる」との情報が入ってきました。シエリとは、カドグリから北に15キロ、紛争が起きる前には首都ハルツームへの定期便も運行されていたカドグリ空港の近くです。
さっそく、避難民の状況を確認に向かいます。
スタッフを乗せた赤い小型車は、幹線道路を折れてシエリ地区へと入りました。道路はなく、地面に残されたタイヤの跡をたどって進んでいくと、乾燥した大地に大きな木がまばらに繁っている場所に出ました。

「あれ、人が住んでいるよ」
気が付くと、あちこちの木陰にベッドや戸棚などの家財道具が山積みになっています。ヤギが寝そべり、遠くにはウシの群れも見えます。クルマを見つけて子どもたちが飛び出してきました。
「ちょっとクルマを停めて、話を聞いてみよう」
外に出ると、直射日光と熱風で身体が焼けるようです。あわてて木陰に入ると、そこは避難民家族の生活の場です。

「あっ、突然おじゃましてすみません。JVCという日本の援助団体です」
そう言って、その場にいるひとりひとりと握手を交わすのがスーダン流の挨拶です。使い古されたベッドには年配の女性が座り、その周りには赤ん坊を抱いた若いお母さん、そして子どもたちが突然の来訪者を見つめています。
「村から避難してきた人がいると聞いてきました。みなさんは、どちらから来たのですか?」
「カラカラヤだよ」
「町はずれの小学校に避難民が押し寄せている」
JVCカドグリ事務所にその情報が入ったのは4月17日の午後。スタッフはさっそく現場であるクルバ小学校へと向かいました。

カドグリの町から幹線道路を北に向かってクルマで5分、この「現地便り」でお馴染みのムルタ村に行く途中に、クルバ地区があります。
小学校の校庭には、既にスーダン赤新月社(註:赤十字社と同様の人道援助機関だがイスラム諸国ではこの名称となる)の車両が止まっていました。その向こう側、校舎の軒下には灼熱の日差しを避けて避難民らしき人々が折り重なるように座り込んでいます。何百人いるのでしょうか。トブと呼ばれる一枚布の上着をまとった母親と、子どもたちの姿が目につきます。
首都ハルツームに駐在する私の手元に、国連の安全担当局(UNDSS)からの治安情報が毎日Eメールで送られてきます。カドグリに向けた反政府軍の砲撃、そしてカドグリ南郊の政府軍基地からの応戦。そんな報告が日を追って増えています。
「昨日の晩も大きな砲声が聞こえてきた・・・カドグリの町は大丈夫だ。でも、周辺での戦闘はまだ続いているらしい」
JVCスタッフからも、そんな報告が続きます。
砲撃の音がやまないカドグリ。しかしそれでも、地上戦に巻き込まれた村にくらべれば安全なのでしょうか。避難民の流入は、まだまだ止まりません。

JVCが最初に支援物資を配布したクルバ小学校は、避難民の中継所のようになっています。
ここに到着して休息を取った避難民は、自分たちの判断で、或いは州政府の取り計らいで、受け入れ先となるカドグリ市内外の各地区に向かいます。多くの避難民が向かった先は、市の東側3~5キロの郊外に広がるガルドゥッド、ティロのふたつの地区。その理由は、これらの地区には、今回の避難民と同じダンドロ村の出身者が住んでいるからです。
10~20年前のやはり内戦による混乱期に、戦闘を逃れて或いは出稼ぎのためこの土地に移動して、そのまま住みついた人々です。そうした人々が、同郷のよしみで避難民を受け入れてくれるのです。
夕暮れ時、まだまだ暑いハルツームの町を歩いていた私の携帯に、カドグリ事務所のスタッフ、ユヌスから電話が入りました。
「砲撃だ。カドグリの町をめがけて撃っている。さっきから4発くらい爆発した」
「本当か?どのへんに着弾しているんだ?」
「JVC事務所からは東の方角、近くはないが・・・でも市街地に落ちているようだ。このあたりでも、みんな家に逃げ込んでいる」
ユヌスの声は緊張こそしていますが、取り乱しているわけではりません。数キロ先からのロケット砲による反政府軍の攻撃は、今回が初めてではないのです。
「わかった、事務所にいるのはユヌスさんだけ?」
「そうだ、あとの二人はもう帰宅した」
「二人が無事かどうか、一応電話で確認して。それから、ユヌスさんは外には出ず、しばらくは事務所で待機してください」