首都ハルツームに駐在する私の手元に、国連の安全担当局(UNDSS)からの治安情報が毎日Eメールで送られてきます。カドグリに向けた反政府軍の砲撃、そしてカドグリ南郊の政府軍基地からの応戦。そんな報告が日を追って増えています。
「昨日の晩も大きな砲声が聞こえてきた・・・カドグリの町は大丈夫だ。でも、周辺での戦闘はまだ続いているらしい」
JVCスタッフからも、そんな報告が続きます。
砲撃の音がやまないカドグリ。しかしそれでも、地上戦に巻き込まれた村にくらべれば安全なのでしょうか。避難民の流入は、まだまだ止まりません。

JVCが最初に支援物資を配布したクルバ小学校は、避難民の中継所のようになっています。
ここに到着して休息を取った避難民は、自分たちの判断で、或いは州政府の取り計らいで、受け入れ先となるカドグリ市内外の各地区に向かいます。多くの避難民が向かった先は、市の東側3~5キロの郊外に広がるガルドゥッド、ティロのふたつの地区。その理由は、これらの地区には、今回の避難民と同じダンドロ村の出身者が住んでいるからです。
10~20年前のやはり内戦による混乱期に、戦闘を逃れて或いは出稼ぎのためこの土地に移動して、そのまま住みついた人々です。そうした人々が、同郷のよしみで避難民を受け入れてくれるのです。
私たちは、このガルドゥッドやティロ地区でも支援物資の配布を行いました。クルバ小学校を経由せずに避難してきた人たちもいたからです。4月21日までに、配布した総数は200家族分を超えました。

配布を終えて数日後、JVCスタッフは再びティロ地区を訪れました。「シエハ」と呼ばれる地区の住民リーダー、アリーさんに同行をお願いして、避難民家族を訪問してみます。
「お、ここの家だな。そこのラクバの中に避難民の家族がいるよ」
アリーさんが指さした家は、レンガ造りの住居の脇に「ラクバ」と呼ばれる草ぶきの小屋がついています。小屋というより、囲いがついた軒先と言った方がよいかも知れません。その中に、避難民家族がいるのでしょうか?
「入っていってごらん」
そう言われたスタッフのサラが「こんにちは」と入っていくと、壁沿いに子どもを抱いた若いお母さんたちがギッシリと座っています。真ん中でも子どもがはしゃぎ回っています。近所のお母さんたちの集まりでしょうか。

「皆さん、ご近所の方ですか?」
サラが尋ねてみると、みんな首を横に振って笑っています。
「じゃあ、ここの家の人ですか」
すると、奥で火を起こしている女性を指さして
「そこで食事の支度をしているのが、ここの家の人。あとは、みんなダンドロから避難して来たばっかりだよ」
そう、ひとりを除いて全員が避難民だったのです。いったい、何家族いるのでしょう?
話を聞くと、アリーさんがこの家を避難先として紹介してくれたのだそうです。住民リーダーが避難民にホストファミリーをあっせんしている、というわけです。
「みなさん、このラクバに住んでいるのですか?」
「そうだよ。入りきらないから外に寝てるよ」
「そ、そうなんですか?」
このあたりでは外で就寝すること自体は不思議でもなんでもありません。しかし、これから雨季になって、雨が降り始めたら一体どうするのでしょう?
「いま、あっちの空き地に新しくラクバをたくさん作っているから、そのうちに移動できると思うよ」
そしてその時には、JVCが配布した防水シートが役に立ちそうです。
「どうだい?たくさんの家族が一緒にいただろう?」
サラが外に出ると、アリーさんが笑っていました。
「でも、受け入れている家の人は大変ですね」
調理をしていた女性は、不平や不満を言わないのでしょうか。
「そうだな。でも、ワシらは今ではティロに住み付いたけれど、元々はダンドロの人間だ。ダンドロ出身者はみな兄弟姉妹。お互いに助け合わなくてはいかん」

別の家を訪ねました。
ここのラクバに仮住まいのファトゥマさんは、ひとりで避難生活を送っています。
「家族はどうしたんですか?」
「どっか別のところに逃げたみたいだね」
村で戦闘が起きた時、足が不自由なファトゥマさんはひとりで留守番をしていました。近所の人が慌てて彼女の手を引いて一緒に逃げてくれたのですが、途中の避難場所でも、通りがかりのクルマに乗せてもらってカドグリにたどり着いてからも、家族の姿を見ることはなかったと言います。
ここに落ち着いて、JVCから毛布や調理道具は受け取りましたが、それにしても生活に不自由はないのでしょうか。
「近所の人が水を汲んできてくれるんだよ」
そう言って見せてくれた部屋の中には、使い古したポリタンクが山積みになっていました。近所の人がくれたものです。近所の人たちは、井戸に水汲みに出掛けると帰りにファトゥマさんのところに立ち寄って、このポリタンクに少しずつ水を分けてくれるのだそうです。
そのほかにも、時々、様子を見に来ては世話を焼いてくれているようです。

州政府の方針で、カドグリに「避難民キャンプ」は設置されていません。避難民は必ずどこかの地域に入り、地元住民の助けを得て生活をしています。そうした助け合いがあってこそ、私たちのような援助団体の支援も生きてくるのです。
(続く)
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https://www.ngo-jvc.com/jp/notice/2013/05/20130515-sudanemergency.html
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【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井(首都ハルツームに駐在)が執筆したものです。
避難民緊急支援レポート(1)村を襲った突然の戦闘へ
避難民緊急支援レポート(3)木の下での暮らしへ
避難民緊急支援レポート(4)新しい生活、遠ざかる帰還
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