大阪の市民団体、パレスチナの平和を考える会の会報誌「ミフターフ」35号(2013年4月刊行)に、今野エルサレム事務所現地代表のインタビューが掲載されました。このインタビューでは、パレスチナの現状や国家承認問題などについて、現場の活動を通して見てきたことを率直に述べています。
3.西岸地区とガザ地区双方にかかわること
(1)11月のガザ攻撃の際には、西岸地区におられたと思いますが、西岸の人々の様子はいかがでしたか?
私は、ガザ攻撃の際にはずっと東エルサレムにいました。なので、東エルサレムの状況しかお伝えすることはできません。
端的に言うと、エルサレムのパレスチナ人は、イスラエルの攻撃に強い怒りを感じる一方で、ガザからエルサレムまでロケットが届いたことにとても興奮し、喜んでいました。ロケットが着弾した翌日、東エルサレム市内の中学校に行ったのですが、生徒も先生もその話題で持ちきりでした。いつもやられっぱなしのパレスチナ人が、遠くエルサレムまでロケットを飛ばすことができたのだ、ということへの喜びや誇りの表れだったようです。私は正直その反応に最初は驚きましたが、彼らのそうした反応を異常と感じるのであれば、それは単に、パレスチナ人の閉塞感や怒りや憤りや無力感といったものを理解できていないだけなのだろうと思います。
また、これは重要なポイントだと思いますが、西岸地区のパレスチナ人は本当にはガザ地区のことを知りません。なぜなら、イスラエルによる占領、特にオスロ合意以降の封鎖政策によって、西岸の多くの人々は西岸からイスラエル領に出ることさえままなりません。そのため、ヨルダン・エジプト経由でトンネルを通っていくほか、ガザに行くことはほぼ不可能となっているからです。では、どこから情報を得ているかと言えば、テレビのニュースや新聞報道といった間接的なソースからです。特にテレビでは、紛争中、攻撃され、殺され、怪我をしたガザの人々の姿が繰り返し写される一方で、ハマースやイスラーム聖戦などの戦闘員のロケットを設置する勇ましい姿が、勇ましい音楽とともに流されていました。
ガザに行くと、人々の温厚さと優しさに心和むのですが、ガザに行ったことにないパレスチナ人の間では、ガザの人々に対するイメージというのは、「イスラエルやアメリカにやられて傷だらけになりながらも、死をも顧みずに勇敢に戦い続ける人々」という肯定的なものと、「田舎者の過激な保守主義者」という否定的なものが混在しているようです。そうした両極端なイメージが独り歩きしてしまうのも、イスラエルの分断政策が生み出した負の側面ですが、パレスチナ人社会の物理的な分断状態がもたらす将来への影響を考える上で、これも大切なポイントかと思います。
(2)西岸地区とガザ地区でのファタハとハマースに対する評判はそれぞれ、いかがでしょうか? 気付いた範囲で、聞かせてください。
上述したように、西岸とガザは長年分断されているため、お互いに少なからず、偏見やステレオタイプがあります。ファタハとハマースのイメージも同様だと思います。ガザに行くとハマースの評判は良くないのに、西岸地区に行くとハマースは大人気なのです。ガザでハマースの人気が下がっているのは、水や電気などのインフラをきちんと提供できていないということと、ハマース以外の組織や個人に対する圧力を強めているということが原因のようです。他方、西岸ではファタハ率いる自治政府が機能不全に陥っているので、その分、占領に「抵抗」し続けているクリーンな政党として、ハマースの人気が上がっているようです。今回の紛争でのガザからの反撃は、東エルサレムや西岸でのパレスチナ人の間での武装闘争機運を高めたと言われていますが、それとともにハマースやイスラーム聖戦の人気を押し上げたようです。
ただ、多くのパレスチナ人が求めているのは、ファタハとハマースのどちらか一方ということではなく、全党派が一丸となって占領に抵抗する、統一されたパレスチナ社会だということを忘れるべきではありません。多くの人々が、自由に生きられる社会を作りたいという強い希望をもっており、それを妨げるような現在の分裂状況を悪と思っていることは間違いありません。他方、今回の紛争の副産物は、党派間の対立から和解と統合に向かう機運ができたということでした。紛争後、ファタハの支持者がガザ地区でパレスチナのオブザーバー国家樹立を祝っていましたし、他方で、ハマースは創設25周年のパレードを西岸各地で開催しました。これまで両者はガザと西岸で醜い潰しあいをしていました。その歴史からすると、これは考えられないことです。しかし、こうした各党派の和解と統合を妨害しようとする勢力は、国際舞台には数多くいると思います。それを乗り越えられるかどうかが、パレスチナ人にとっての勝負どころでしょう。
(3)以上で述べたこと以外で、人々の意識や生活・文化といった点で、両地区を往復して、特に気づいたことはあるでしょうか?
パレスチナの現状を理解する上で大切だと思うのは、国家承認とは直接関係ないところで、多額の国際援助が西岸とガザに流入し続けており、その恩恵を預かれる一部の人間だけが、高給を土地や建物に投資して裕福になっているということです。あまりイメージは湧かないかもしれませんが、ガザにも大金持ちはいて、彼らは高層マンションを建て、国連やNGOなどに賃貸することで多額の収入を得ているようです。このように、国際支援は国家格上げの問題とは別のロジックで自己再生産的に続いており、それが占領と封鎖を前提としている以上、パレスチナ人も占領と封鎖と国際支援ありきで物を考え、その中で生き残る方法あるいは競争に勝ち抜く方法を考えていかざるをえないというのが現状です。パレスチナ人社会を理解する上で、このことは覚えておく必要があるように思います。
(人々の生活から見たパレスチナの今(4)に続く)
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