\n"; ?> JVC - 日本国内の有機農業運動の実践を学ぶ 2017年度交流プログラム その3 - 農村からの風便り ~日本・タイ~

日本国内の有機農業運動の実践を学ぶ 2017年度交流プログラム その3

タイ事業担当 下田 寛典
2018年12月28日 更新

埼玉県比企郡小川町を訪問し、三つ目に掲げていた目的は、食とエネルギーを自給する地域循環の取り組みを学んだ。以下は、参加したタイ人の学びと分析である。

日本における農業の機械化・商業化、食料自給率の低下の問題は、これからタイが直面していく問題であり、地域の自立はタイの課題でもある。埼玉県比企郡小川町は、霜里農場の金子美登さんの有機農業に対する哲学・理念が長い時間をかけて広がっていった地域だ。

日本の有機農業の先駆者・金子美登さん日本の有機農業の先駆者・金子美登さん

タイでも先駆的な有機農業の実践者はいるが、実際には関心を持つ外部者が訪問する場所にとどまっていて、地域の中で支持を広げ地域内で同じ志を持つ実践者が増えている例はそれほど見られない。小川町では、金子さんから学んだ人や影響を受けた人たちが、各自の得意分野で発展させ地域を作り上げている。

さて、小川町に接する比企郡ときがわ町にある「とうふ工房わたなべ」の経営者である渡邉さんも金子さんの影響を受けた一人だ。日本の地域は、近代化の流れの中で、大量生産・大量消費のシステムが広がり、それまで地域の中に在った小規模な専門店が壊れて行った。こうした状況について、「それは個人・地域の価値を軽視して数字だけにこだわるようになった結果である」と渡邉さんは分析した。

渡邊さんから講義を受けるタイ参加者渡邊さんから講義を受けるタイ参加者

こうした大量生産・大量消費のシステムに対抗して、「お母さんが家族に作る料理のように、安心して食べられるものを提供するシステムを作り上げるために、地域の中での『直売』という方法を取り戻し、このとうふ工房も変えていった」という。今では、契約する小川町の大豆生産者の大豆を全量買取りし、とうふ作りに活かしている。

小川町の大豆を使った豆腐小川町の大豆を使った豆腐

「とうふ工房わたなべ」では車での移動販売も行っている。これは地域での「冷蔵庫」の役割を担っている。常連さんの家まで販売しに行ったり、豆腐製品だけでなく地元野菜や調味料なども注文があれば届けることができる。この方法は一見、昔のやり方に見えるが、実際には販売を兼ねたマーケティング調査になり、調査を経て販売促進につながり、また、CSR活動(企業の社会貢献活動)をも兼ねる。移動販売はこれらを備えた最新の手段であるといえる。直売というのは、すでにタイで行われているが「消費者に直接届ける」ことから得られる価値は地域にとっても企業にとってもメリットが大きいのだ。

もう1箇所、小川町にある「風の丘ファーム」の田下さんもまた金子さんの影響を受けた新規就農者であり家族経営の農業で生計を立てていたが、経営形態を「会社」とすることを選んだ。同じように新たに就農しようとする人たちの生活保障をして地域の中で志を持った農業者を増やすための法人化だった。

風の丘ファームでの出荷方法を説明する田下さん風の丘ファームでの出荷方法を説明する田下さん

「風の丘ファーム」にある農業機械や保冷庫などはグループのメンバーが使えるようになっている。グループで協働できることはもちろん良いことだが、各自が自分の売り先(収入)を確保しながらも(つまり、各自が自立しながらも)、グループで販売する部分もあるという形にするのが望ましい形態なのだろうと「風の丘ファーム」を訪問し感じた。それは1つの農家の生産物の全量をグループ販売で行なおうとすると管理運営の負担が大きくなるからだ。たとえば一つの農家からは、生産量の3割だけを出荷して、残りは各自で売り先を探すようにすればグループ運営の負担が少なくなる。また、各農家が責任もって残りを売るようになるので、リスクを分散したより安定したシステムにできるだろう。

今回、3週間におよぶ交流プログラムを実施できた。タイの参加者は既にタイ国内で生産者と消費者を繋ぐ独自の活動を立ち上げ運営している実践者だっただけに、自分たちの活動に照らし合わせて、非常に具体的な質問をし、細部まで学ぶことができた。

まとめの分析をするタイの参加者たちまとめの分析をするタイの参加者たち

それぞれの取組みにおける理念や現在に至るまでの経緯まで深く掘り下げて話を伺うことで、自分たちと共通の社会像を目指していることを実感した。組織運営のためには様々な困難・葛藤を伴い、時には妥協しなくてはならない点を含め、常に理念と現実のバランスを取っていく必要性を理解した。タイの社会状況や国民性なども踏まえたうえで、そうした与条件の中で理念をどのような形で実現していくか。タイでの実践は試行錯誤を繰り返しながらこれからもまだまだ続く。

2017年度の交流プログラムのブログはこれにて終了です。

本事業は国際交流基金アジアセンターの助成を受けて実施しました。