菜園づくりの研修が終了し、やがてカレンダーは2月になりました。
その後、菜園での種まきや野菜づくりは、どうなっているでしょうか?
「そろそろ、フォローアップの訪問をしないといけないね」
私たちは、そんな話をしていました。フォローアップとは、研修に参加した人たちの菜園を訪問して、研修で学んだことを生かせているか様子を見たり、灌漑用水の不足や病害虫などの問題が起きていないか相談に乗ったりすることです。もちろん、農業の専門家が訪問しなくてはいけません。JVCスタッフのアドランは農学部出身ですが、ちょっと役不足です。
「誰か、いい人はいないかなあ?」
もちろん、研修を実施した州政府農業省の専門家チームにフォローアップもお願いする手はあります。しかし実のところ、農業省に依頼するとかなり高額の報酬を要求されるのです。
「なんでそんなに報酬が高いんだ?農家に技術指導するのは農業省の仕事じゃないのか?」
JVCスタッフのタイーブなどはブツブツ文句を言っていました。しかし残念ながら、「援助団体からは高額の報酬を取ったほうがよい」という風潮が州政府の中に広がっているようです。そうした風潮に巻き込まれないためにも、JVC独自の農業専門家が欲しいところです。

「カッチョさんはどうかな?」
カッチョ・クンダさん。1年前に実施したJVC菜園研修で、当時農業省の専門家として指導をしてくれました。その後、「定年」というには少し早そうですが、リタイヤして農業省を完全に退職したと耳にしています。今なら、個人の立場でJVCの菜園プロジェクトに協力してくれるかも知れません。
「カッチョさんに頼んでみようと思います」
アドランが、電話でハルツーム事務所の私にそう連絡してきました。
「いい考えだと思うよ。ところで、カッチョさんの連絡先は持ってるの?
「えっ?連絡先?」
「携帯番号とか」
電話口の向こうで、アドランがタイーブに「おい、カッチョさんの携帯番号持っているか?」と尋ねています。
「持ってなかったら、農業省の誰かにこっそり教えてもらったらいいよ」
翌日、アドランとタイーブはカドグリ郊外、丘のふもとのハジェラメック地区にいました。
「すみません、このあたりにカッチョさんという人が住んでいると思うのですが」
結局、農業省の知り合いに尋ねてもカッチョさんの携帯番号は分からず、「ハジェラメックの小学校の裏に住んでいる」ことだけを突き止めたのでした。
しかしカドグリのような小さな町では、誰かの家を探すのはそれほど難しいことではありません。2、3人に尋ねていくと、すぐにカッチョさんの家を見つけることできました。
「カッチョなら、知事の庭園に行っているよ」
洗濯していた奥さんが、そう教えてくれました。
「知事の庭園?」
「ほら、知事公舎の中にあるだろ、あの庭園だよ」
州知事の公舎には広い庭園があり、美しい花壇や果樹園で知られています。どうやら、カッチョさんはそこで仕事をしているようです。

知事の庭園に行ってみました。園内への立ち入りは自由で、誰でも鑑賞できるようになっています。
果樹園の中で、カッチョさんの姿はすぐに見つかりました。
「カッチョさん、お久しぶりです」
「あれ、あんたは、あの時の研修の..」
「JVCのアドランです」
アドランが、今年もJVCが菜園づくりのプロジェクトを行っていること、カッチョさんに専門家として協力して欲しいことを伝えると、
「喜んで協力するよ。今はこうして庭園の世話をしているけど、この仕事はけっこう時間の融通が利くんだ。必要な時にはいつでも連絡してくれ」
ふたつ返事で、話はまとまりました。
アドランが、ハルツームの私に電話してきました。
「というわけで、菜園のフォローアップには、専門家としてカッチョさんが協力してくれることになりました」
「よかったね。ところで、カッチョさんへの謝礼の金額とか、そういう話は出たの?」
農業省の件があったので、私はそのことが頭に引っかかっていました。
「話はしていませんが、心配しなくていいと思います」
「どうして?」
「農業省はもう退職していますから..スーダンの公務員というのは、引退して初めて、カネ目あてではなくて人の役に立つ仕事をするものなんです」
「えっ?」
電話を切ったあと、アドランの最後の言葉が私の耳に残りました。
在職中は派閥抗争や利権漁りに巻き込まれ、いやそんなに大層なものでなくても、自分の地位を利用して小遣い稼ぎに走ったり、上司の顔色ばかり窺ったり...退職して始めて、違ったものが見えてくるということでしょうか。
どうも、スーダンだけの話ではなさそうです。
【おことわり】
JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。
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