
雨でぬかるんだ道を、JVCスタッフを乗せた赤い小型車が走っていきます。雨季が始まって2ヶ月近い7月半ばにもなれば、カドグリ周辺の未舗装の道はどこもかしこも泥だらけ。JVCがレンタル契約しているクルマは四輪駆動ではないので、車輪が泥にはまらないよう道路の乾いた場所を選んで蛇行しながら注意深く進んでいかなくてはなりません。
そうこうするうち、到着したのが目的地のティロ村。JVCカドグリ事務所からは約20分です。
しかしクルマは村の中には停車せず、さらに数百メートル先へと向かいました。そこには、新しく建設されたばかりの、マッチ箱のようなレンガ造りの小さな家々が並んでいます。
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「今年、JVCはどんな活動を計画していますか?」
話は今年二月までさかのぼります。首都ハルツームの人道支援局(NGO活動を管轄する政府機関)の一室で、南コルドファン州から出張してきていた州人道支援局の局長と私は面会していました。
「今まで活動をしてきたムルタ村、ハジェラナル村は生活再建の目途が付いたと思います。去年は十分な収穫があり、今も野菜づくりで収入を上げています。このあとは住民の皆さんが自身たちでやっていくと思います」
私がそう説明すると、局長もうなずいています。
「ですから、今年は新しい活動地を見つけて移動しようと思っています」
「なら、いい候補地がありますよ」
局長は私の言葉を待っていたかのように、身を乗り出して言いました。
「同じカドグリ近郊の、ティロ村とタフリ村はどうですか」
話を聞いてみると、これら二つの村そのものではなく、村に隣接して設置される避難民向け住居の入居者を支援しないか、というのです。
「いま、州政府と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が協力してティロに230戸、タフリに120戸の住居を建設しています。ここには、カドグリ市街地でテント生活など不自由な暮らしをしている避難民が選ばれて入居する予定です。この人たちを支援してもらえませんか」
「具体的には、どんな支援が必要なのでしょう」
「井戸の建設です。それと、JVCが今までやってきた生計活動への支援も、ぜひお願いします」
紛争による避難民は、私たちが支援対象者の中心に据えている人々です。断る理由はありません。
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クルマを降りて、JVCスタッフのアドランはマッチ箱の家々に向かって歩き始めました。避難民向けの住居です。230戸の家が一定の間隔できれいに並んでいます。しかし、人影はありません。
「やっぱり、まだ誰も入居していないのか」
そう思いながら少し歩くと、レンガを積み上げて作業をしている人たちがいます。トイレを作っているのです。全ての家に1個ずつ、庭先にレンガで囲われた簡易型トイレが設置される予定です。
実のところ、住宅棟は既に完成しているのですが、トイレの建設が追い付いていないのです。そして、トイレがなくては不衛生だと言うことで、避難民の入居はまだ認められていません。

「それにしても、もったいない」
と、アドランは思いました。この避難民向け住居の周囲は農業に適した土壌で、裏庭からすぐに畑作りができます。種子はJVCが支援できます。しかし、雨の降り始めで種蒔きに適したこの時期を逃してしまったら、後から入居したところで耕作シーズンを全て棒に振ることになります。大学で農業を学んだアドランには、それが残念でなりません。
アドランはクルマに戻ると、ティロ本村(避難民向け住居と区別するため、このあとは「本村」と呼びます)まで引き返しました。ほんの2、3分の距離です。
ティロ本村は、4月にカドグリの隣の郡で大きな戦闘があって以降、戦火を逃れた避難民を数多く受け入れています。そうした人々を対象に緊急支援を行った私たちは、村の人ともすっかり顔馴染になりました。
村人に挨拶をしながら、家々の裏手まで歩いてみました。畑が広がり、人々は農作業に忙しそうです。

「こっちよ、こっち」
畑の中からこちらに向かって手を振っている人がいます。何かと思って近づいてみると、緊急支援で防水シートや毛布を受け取った避難民、アラウィヤさんでした。
「ここね、村のリーダーから分けてもらった畑なのよ。種を蒔いて、もう芽が出てきてるでしょ」

家も家財道具も失いながら6人の子どもの手を引いて避難。それから3ヶ月、生活の基盤を築き、もう畑仕事を始めています。その逞しさには驚くばかりです。
アラウィヤさんの周りの畑も、青々とした芽が育ってきています。
ティロ本村に避難した人々は幸いにして、アラウィヤさんのように畑を手にして種蒔きができたようです。
一方で、さきほどの避難民向け住居への入居予定者は、カドグリ市街地など住民・避難民が密集した地区で不自由な生活を送ってきた人が多いと聞いています。農業をするには難しい環境です。
「でも、いま入居することができれば、周りの土地に種蒔きをして、ティロ本村と同じように一面の緑になるのに・・」
やはり、そう思わずにはいられないアドランでした。
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しかし、朗報は意外に早く飛び込んできました。
数日後、アドランからハルツームの私にかかってきた電話は、いつになく声が弾んでいます。
「州政府が、待っていた避難民に対して入居の許可を出しました」
「本当か?トイレは完成したの?」
「全部はでき上がっていませんが、見切り発車したみたいです」
「それじゃ、もう入居は始まっているのか?」
私も、思わず声のトーンが高くなります。
「それを確かめに、今から見に行ってきます」
事務所の前では、もう赤いクルマがエンジンを掛けて待っているようです。
【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井(首都ハルツームに駐在)が執筆したものです。
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