ガザの人々は、完全封鎖という集団懲罰の苦しみの中にいます。この懲罰からは、子どもであろうと、お年寄りであろうと、空爆で足や腕を失った青年であろうと、子どもの将来のためにただ普通に働きたいと願う父親であろうと、夫を空爆で亡くした深い悲しみの中に生きながら小さな希望を求めて抗う女性であろうと、誰一人として逃れることはできません。
私は、2013年11月20日から23日まで、地上・海・空の3方向を、イスラエル軍の戦闘機、軍用ヘリ、戦車、戦艦、監視塔、監視カメラによって完全に管理された、封鎖下のガザ地区に入りました。そこで見たものは、あまりに酷く、180万人の人間性を無差別に奪い去る犯罪行為が、なぜ地中海の真っただ中で続けられているのか、理解できませんでした。イスラエルの「安全保障」のためという理由だけで、これほどの犯罪が許されるのでしょうか。
ガザの人々は、産業を破壊されたために職がなく、ガソリンも不足し、調理用ガスも手に入らず、一晩中停電は続き、勉強も調理もインターネットもテレビ鑑賞もできない夜の暗闇の中で、いつ空爆が来るか分からない恐怖と、遠く砲弾や戦闘機の爆音に怯えながら、それでも自分の、家族の、生まれたばかりの子どもたちが、ただ平穏無事に生き続けてくれることだけを願い、どんな懲罰にも自分の人間らしさだけは奪われないよう、砲弾の音の中で笑顔を作り、ガザを囲い込むコンクリート壁の外へと飛び立つための希望という翼を求め、必死に日々、生を続けています。
こんな状況の中にも、小さな希望はあるかもしれません。私たちがガザのNGOとともに行っている人道支援活動は、子どもたちのヘモグロビンをチェックし、栄養失調の子どもたちを早期発見するとともに、それを補完するために、健康管理のための知識のない女性たちに、最低限必要とされる栄養素や調理方法を教えています。それが、女性たちに新たな「希望」を与えていると私たちは信じています。一緒に働いているガザの女性たちもそれを強く信じ、そうなることを強く願っています。
しかし、私が訪問した家では、パレスチナ最高峰の大学を卒業した技術者の父親に仕事がないために、子どもたちにまともな食事をさせることができず、3歳の娘が栄養失調にかかりました。私たちは、この子に回復してもらいたいと願い、鉄分とビタミンを含んだ栄養剤を持って行きました。でも、それは一時的な対処療法にすぎません。だからこそ、パートナー団体の現地スタッフは、これまでも、彼女の両親に牛乳や野菜など栄養豊富な食事を与えるようにアドバイスしてきました。しかし、父親はこの日、私たちにこう言いました。
「あなたたち以外に、私たちに手を差し伸べてくれる団体はありません。だからとても頼りにしています。でも、料理をしたいけれど料理用ガスがありません。牛乳が健康に良いことは知っていますが、買うお金がありません。子どもたちの将来のことを考えて、妻は母乳育児をしていますが、それでも娘は栄養失調になりました。だから、次に来るときは、調理用ガスと牛乳を持ってきてほしいのです。お願いします。」
私たちの事業に参加しているガザの女性たちは、無給のボランティアであるにもかかわらず、人々のために何かしたいと願い、日々悪路の中を、一軒一軒訪問しています。それが、たとえお金にならなくても、知識と経験を身につけ、自分の価値を証明し、将来の希望にしたいからです。しかし、彼女たちの真剣さは、「経験」「技術」「栄養」「健康」といった援助業界で使いまわされる、安っぽい言葉では決して表現できるものではありません。それは、日々の空爆や砲撃によって特徴づけられた、6年に及ぶ封鎖という集 団懲罰の中で、仕事も資源も希望も夢も、時に最愛の人すらも奪い続けられても、自分の人間性だけは奪われたくないという、強い意志の現れのように感じます。彼女たちは、この事業に参加することで、自分が意志をもつ一人の人間であることを、自分にも他者にも認めてもらい、それによって人間性を自らの体につなぎとめたいと願い、一軒一軒訪問しているのではないかと私は感じました。そのような彼女たちの意志の中には、将来へのかすかな希望も含まれているかもしれません。
しかし、どんな希望も、6年間の封鎖と、数度の大規模空爆の恐怖と、無言で何もしない国際社会の裏切りによって、実現しないままに壊されてきました。それが、ガザの人々にとっての「現実」です。その中で唯一頼れるものは、この事業に関わる彼女たちが強く秘めているような、人々の強い「意志」にあるのではないか。その「意志」は、空爆にも懲罰によっても破壊されることはないんじゃないか、それだけが唯一、彼女たちが確固たるものとして感じ、手に触れることができるものなのではないか。私はそう感じています。
ガザには、新鮮な牛乳が必要です。調理用ガスが必要です。仕事が必要です。仕事を生み出すための産業と資源が必要です。旅行したり、友人や親族を訪ねたり、たまに息抜きしたりするために、ガザから出入りできる自由も必要です。そのためには、封鎖の完全な停止が必要です。封鎖という大きな犯罪を止めさせるには、政府間のレベルでの強い圧力が必要です。政府による強い圧力をもたらすのは、私たちの強い意志です。でも何よりも必要なのは、ガザで生きていく以外に選択肢のない人々の、強い意志です。そしてそれはすでに、ガザの中にあります。だから、ガザの外に生きる私たちは、彼ら/彼女らに、手を差し伸べ、一緒に意志を実現していくことができます。
私たちJVCには、今は、栄養失調予防の事業しか手段がありません。封鎖をやめさせ、牛乳やガスを自由に運び込み、仕事や投資を生みだす開発援助を実施できたら、どれほど良いでしょうか。でも、小さなNGOである私たちには今のところそれはできません。ボランティアの女性たちに給料も払えず、牛乳やガスを運びこむための資金力もなく、日本政府に封鎖をやめるようにイスラエルや米国に圧力をかけてもらうための政治力もありません。それでも、現行の事業をやめません。なぜなら、ガザには皆さんにお見せできるような希望はないかもしれませんが、強い意志だけはあるからです。そして、その180万の強い意志が、私に、こう語りかけてくるからです。
「この事業を通じて、人々は、私たちに感謝し、また来てほしいと言ってくれます。皆、学ぼうという意識が高いので、とてもやりがいがあります。まだこの地域の全ての家庭を訪問できていませんが、これから少しずつ訪問して、この地域の状況を少しでも改善していきたいのです。」(地元NGOの女性スタッフ)
「この活動を通じて、私は自分の住んでいる地域のことを何も知らないことに気がつきました。でも、家庭訪問を続けるうちに次第にこの地域のことを知るようになり、こんな自分でも人々の役に立てるんだということを知りました。それは、私にとっては貴重な経験で、そこから新たな可能性が生まれてくる気がしています。」(女性ボランティア)
「私はこれまで、色々な国籍の人たちと働いてきたけど、あなたたち日本人が、私たちの心に最も近いと感じています。」(地元NGOの女性スタッフ)
今回の訪問の最初は、たまに訪問するだけの私への、ボランティアや受益者の女性たちの真剣な眼差しが、私に何を求めているのか分かりませんでした。でも、ガザに滞在するうち、彼女たちは私の中に、自分たちが生き続けるための希望を探し求めていたのだと、気がつきました。
彼女たちが必要としているのは、お金ではありません。ただお金が欲しいだけなのであれば、家にはガスも電気もないはずなのに、たまに来るだけの私に、ケーキやサンドイッチを作ってくれ、近所で集めた薪でパンを焼き、紅茶やコーヒーを出してくれることはしないでしょう。生きるためにはお金はもちろん必要です。でも、この事業を通じ、彼ら/彼女たちが、日本の私たちに求めているのは、彼ら/彼女たちも人間らしい扱いを受ける権利をもっているという、世界からのメッセージです。日本に暮らす皆さんには、こんなメッセージはきっとありきたりで当たり前すぎると感じるかもしれません。でも、この当たり前が当たり前でなくなってしまっているのが、ガザの今の状況なのです。
だから私は、集団懲罰の中で希望を奪われたガザの人々に、「世界のメッセージ」を届け続けられる今の仕事に、心から感謝し、誇りに感じています。人間性を奪い続ける犯罪行為に抗うガザの人々に、どうかこれからも、救いの手を差し伸べ続けてください。罪のない子どもたちの将来がこれ以上奪われないよう、ガザの人々をどうか助けてください。
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