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2012年11月30日 【 その他・未分類

オリーブの木に植えつけられた心の傷

国連でのパレスチナ国家承認は何をもたらすのか
パレスチナ現地代表 今野 泰三
2012年12月 5日 更新

2012年11日29日、国際連合総会にて、パレスチナが国連の「オブザーバー機構」から「オブザーバー国家」へと格上げされることが承認されました。賛成138カ国(フランス、イタリア、中国など)、反対9カ国(イスラエル、米国、カナダなど)、棄権41カ国(英国、ドイツなど)でした。日本政府は、今回の決議では賛成票を投じました。

今回の紛争で空爆を受けたガザの建物(2012年11月 金子撮影)今回の紛争で空爆を受けたガザの建物(2012年11月 金子撮影)

ガザ地区でもガザ紛争の開始(現地時間11月8日)以降、これまで対立関係にあった2大党派のハマースとファタハが協調姿勢の方向に歩み寄っており、昨日(11月29日)もガザ市ではファタハなどの支持者が集まって国家承認への支持を表明するデモを開催していました。これまでガザ地区ではファタハの政治運動は厳しく制限されていましたが、昨日はファタハの支持者たちが満載のバスに乗ってうれしそうにファタハの旗を振りながらデモに向かっていました。

来日したこともあるパレスチナ人権センターのラジ・スラーニさんは昨日、今回のガザ紛争はイスラエルの政治・軍事・諜報面での失敗であると同時に、ガザ地区でのファタハ、ハマース、イスラーム聖戦運動など各党派の和解を進めるきっかけになったことから、紛争が始まった11月8日は「大きな歴史の転換点として記憶されるだろう」とおっしゃっていました。

エルサレム旧市街の違法入植地(2008年11月、今野撮影)エルサレム旧市街の違法入植地(2008年11月、今野撮影)

しかし今回の国連総会での承認によって、イスラエルによる占領が終わるわけではありません。イスラエル政府が「既成事実はなくならない」と表明しているように、過去40年にわたって築き上げられたイスラエルの違法入植地と、分離壁・検問所・入植者用道路による隔離・分断と、西岸地区・ガザ地区を封鎖・管理するイスラエルの占領政策と、西岸地区・ガザ地区のイスラエルへの経済的依存関係は続きます。

パレスチナ難民が現在イスラエルになっている場所へ帰還する権利の問題も棚上げのままです。

1948年にイスラエル軍によって破壊され、放置されたパレスチナ人の村。住民は難民となって世界中に離散している。(イスラエル領内のスーバ村跡、2012年3月、今野撮影)1948年にイスラエル軍によって破壊され、放置されたパレスチナ人の村。住民は難民となって世界中に離散している。(イスラエル領内のスーバ村跡、2012年3月、今野撮影)
ベツレヘムの難民キャンプ。1948年に現在イスラエル領内となっている村から追放された人々が暮らしている。(2007年8月、今野撮影)ベツレヘムの難民キャンプ。1948年に現在イスラエル領内となっている村から追放された人々が暮らしている。(2007年8月、今野撮影)

国連総会でのパレスチナ国家の承認直後には、パレスチナ人への懲罰として新たな入植地を建設するというイスラエル政府の発表もありました。

ヨルダン川西岸地区を南北に分断し、エルサレム(写真手前)を囲い込んでいるイスラエル入植地(写真奥)。国連に国家承認を申請したパレスチナ人への懲罰として、イスラエル政府は写真中央の土地に新たに入植地を建設すると発表。(2008年7月、今野撮影)ヨルダン川西岸地区を南北に分断し、エルサレム(写真手前)を囲い込んでいるイスラエル入植地(写真奥)。国連に国家承認を申請したパレスチナ人への懲罰として、イスラエル政府は写真中央の土地に新たに入植地を建設すると発表。(2008年7月、今野撮影)

また、多くの欧米諸国は、国際刑事裁判所(ICC)で正義の実現を求めるパレスチナ人の闘いを「和平」の名のもとに阻もうとしています。日本政府も、パレスチナ人の民族自決権を認める一方で、外務省ウェブサイトでこうした動きを以下のように牽制しています。

「この決議を利用して,イスラエルとの直接交渉に悪影響を与えたり,阻害するような行動は許されない。イスラエルもまた,入植地建設の凍結を含め,和平交渉再開に向けた環境整備に努めるべきである。」

「交渉再開に否定的な影響をもたらす可能性のある国際機関への新規加入等については慎重な対応が求められる。」

これは、イスラエル側に入植地建設の凍結のみを求める一方、既存の入植地や、分離壁、検問所、緩衝地帯、土地収奪、裁判を伴わない暗殺・拘束・監禁、ガザの完全封鎖、自由な経済活動の妨害、国境の独占的管理などの問題には触れず、あくまで現状の力関係の中でイスラエルと交渉すべきという立場だと理解されます。

ヨルダン川西岸地区のなかに建設され、エルサレムを分離する「壁」。左がエルサレム側、右が西岸地区側。国際司法裁判所の勧告的意見では、西岸地区内に「壁」を建設するのは国際法違反とされた。(2007年8月、今野撮影)ヨルダン川西岸地区のなかに建設され、エルサレムを分離する「壁」。左がエルサレム側、右が西岸地区側。国際司法裁判所の勧告的意見では、西岸地区内に「壁」を建設するのは国際法違反とされた。(2007年8月、今野撮影)
停戦ライン(写真左、森が終わっているところ)から西岸地区内に食い込んで建設された「壁」(写真右)。国際司法裁判所の勧告的意見では、西岸地区内に「壁」を建設するのは国際法違反とされた。(2010年7月、今野撮影)停戦ライン(写真左、森が終わっているところ)から西岸地区内に食い込んで建設された「壁」(写真右)。国際司法裁判所の勧告的意見では、西岸地区内に「壁」を建設するのは国際法違反とされた。(2010年7月、今野撮影)

しかし、国際関係の力学から見た「和平交渉」という政治的局面と、法に対する違反行為(すなわち犯罪)は、本来は別次元で議論されるべき問題です。また、多くのパレスチナ人が求めているのは、イスラエルとの圧倒的な力関係の差を反映し、占領を既成事実化するようなオスロ合意(後述)の焼き直しではありません。彼らが求めているのは、これまでなされてきた違法行為と不正義が国際社会の場できちんと裁かれることと、民族自決権が実現されて国際社会の正式の一員として受け入れられること、そして法と正義に基づく平和と安全がもたらされることです。

よって国際社会は、パレスチナ人を再びイスラエルとの直接交渉という狭い枠組みに押し込める前に、自決権・独立・自由の早期実現を阻む諸要因を取り除く方向に動いていく必要があります。より具体的には、占領下で抑圧された人々の権利と尊厳を取り戻し、将来的にも同様の人権侵害が行われないようにするため、国家間の「内政不干渉の原則」や国家間の「和平交渉」という国際社会の限界を乗り越えていく必要があります。

そのためには、パレスチナと日本、さらには占領に反対するイスラエルや諸外国の市民が互いに顔を合わせる機会をもっと増やし、市民社会を基盤とする正義と平和の実現のために協力しあいながら、自国政府に働きかけていかなければなりません。加えて、イスラエルが占領する西岸地区とガザ地区はイスラエルの「国内」ではありません。よってイスラエル政府は、国際人道法で決められた占領に関する諸原則に沿って、占領下の人々の権利・財産・利益を守る義務があります。これを国際社会が追求し、促し、それに反する行為が行われた場合はその責任を問うことは権利であり、義務でもあります。

イスラエルが併合したエルサレム市内のパレスチナ人居住地区。分離壁で囲まれたこの地区内ではゴミ収集が行われておらず、生ゴミが道路に放置されている。(シュアファート難民キャンプ、2012年3月、今野撮影)イスラエルが併合したエルサレム市内のパレスチナ人居住地区。分離壁で囲まれたこの地区内ではゴミ収集が行われておらず、生ゴミが道路に放置されている。(シュアファート難民キャンプ、2012年3月、今野撮影)

2008-09年と今回のガザ紛争の傷はまだまだ癒えておらず、今回の国家承認が正義と法の実現に向かわなければ、戦いと殺戮の中で毎日爆撃音と戦闘機におびえながら育ったパレスチナの子どもたちは、国際社会では暴力を使っても処罰を受けることはないということを学び、今回のような武力行使こそが自分たちの主張を押し通す有効な手段であると考えるようになるかもしれません。こうした子どもたちが新たな紛争の主体となっていき、法と正義ではなく、これまで以上に空爆やロケット攻撃などの暴力が世界を支配するようになれば、それはいつか、日本の私たちにも降りかかってくるでしょう。

日本の私たちは、暴力による問題解決以外の方法が出てきており、パレスチナ各党派が1967年の軍事境界線とした国家建設に向けて和解の兆しを示している今だからこそ、日本政府をはじめとした主要各国に対して、パレスチナ国家の実現を阻む諸要因を取り除き、真のパレスチナ国家の建設と国際刑事裁判所での裁判実現を目指して動くように、働きかけていかなければならないと思います。

オスロ合意・・・1993年から始まったイスラエル国家とパレスチナ解放機構(PLO)の間での和平交渉。イスラエルとパレスチナという2国家間での平和の実現という到達点が設定されていたが、エルサレムの帰属、イスラエル入植地、国境線、難民帰還など重要な問題が棚上げにされたまま、イスラエルによる入植地拡大や封鎖政策は継続され、第2次インティファーダの勃発で頓挫した。にもかかわらず現在も、イスラエルとパレスチナ自治区の不平等な関係はこの合意に規定されたままである。この枠組みの中で、イスラエル入植者は治外法権を享受し、イスラエル政府は国境線および西岸地区の60%以上の土地を管理し、水資源を独占し、それ以外のパレスチナ自治区への軍事侵攻も許されている。こうした問題が多々あるにもかかわらず、国際社会は「二国家解決案」という旗印のもと、パレスチナ人にオスロ合意の枠組みを保持することを求め続けている。

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