さて、今回の養鶏の事業に参加者として“選抜”された10家族ですが、最初にファリッドさんが幼稚園の先生と話し合い、
(1)幼稚園に通う子どもがいる家族
(2)失業などで特に貧しい状態にある家族
(3)ある程度、養鶏の知識や経験がある家族
(4)鶏を飼うスペースがある家族
(5)やる気と責任を持って事業に取り組むことができる家族
等を基準に、選びました。
この10家族にニワトリを飼ってもらい、これから1年弱をかけて、卵はいくつ取れるか、雛は何羽孵化させることができるか等、記録をつけていくのです。「受益者」というよりも、「モニター」のようなものでしょうか。それぞれの家族に、10羽の雌鳥、1羽の雄鶏、そして餌(最初の1袋のみ)が提供されます。多くの家で、以前ニワトリを飼っていたことがある小屋などがあったので、ケージ(網の囲い)が必要な家族は4家族です。
さて、いよいよそのニワトリなどが配布される数日前、この村の幼稚園を会場に、獣医によるトレーニングが行われました。各家族から、一家の大黒柱が参加します。本来ならば、家庭でニワトリの世話をするのは女性なのですが、女性が集まることが文化・慣習的に難しいため、今回は各家族から男性が参加することとなったのです。まずは「家に帰って、実際にニワトリの世話をする人、家族と今日トレーニングで学ぶことを共有してください」と、ノートと筆記具を配布します。

獣医さんによるトレーニングは、「ニワトリは、上手に成長させれば年間で約200個の卵を産むことができます。10羽のニワトリなら、一年で2,000個の卵を産むのです。これを家で半分食べて、半分売ることができたら、どのくらいの価値になりますか?一方、ニワトリを絞めて食べてしまったら、卵をとるために育てている価値と比べて、どのくらいの損をするでしょうか」という問いかけから始まりました。この「問題」は、参加者全員を一気にトレーニングに集中させるきっかけになりました。トレーニングの最初に、参加者に「じゃあこのトレーニングできちんと学んで、しっかり育てよう!」と思わせたのです。
地元産のニワトリの品種の特徴について、餌・水やり方や衛生環境など具体的な養鶏の方法、卵を孵化させる方法、病気の発見の仕方や予防方法など、ビデオや写真も使ってのトレーニング。とても真剣に聞き入り、しっかりノートをとり、時には笑いながら、獣医さんに質問をしながらの、あっという間の3時間でした。トレーニングの後は、実際にニワトリを飼っているという男性も「初めて知ることが多かったよ!」と驚いた様子。

トレーニングの後は、JVCと参加家族でのミーティングです。参加家族には、まずこれは子どもと家族の食事の足しにすることで、家族の栄養状態の改善を目指すこと、そして今後どのようにこの事業を進めていけるかを見るために、生産性などの記録をとっていくこと、の2つが主な目的であることを理解してもらう必要があります。そうでなければ、ニワトリを焼いて食べてしまった!ということも起こってしまう可能性があるからです。この事業の目的や具体的な進め方などを皆が理解し、そして共有することを目的としています。まずは自己紹介から始まり、この養鶏事業をここで始めることになった経緯を話します。トレーニングが終わった後だからでしょうか、皆の顔は「できそうだ」というワクワクした表情です。なので、勢いに任せて私も彼らをちょっと持ち上げてみます。これは記録をつけていき、今後を考えていくための試験的な事業であると説明し、「皆さんは、“あなたたちならできるに違いない”と選ばれた家族なんですよ!」と言うと、ちょっと背筋が伸びたような気も(気のせい?)します。
ガザでは、働き盛りの一家の大黒柱の男性が、封鎖による経済状況の悪化で仕事をしたくても見つからず、家族を養うことができないために欝になってしまう人も多いと聞きます。しかし、この日のトレーニングやミーティングでオヤジたちが見せた真剣な表情や笑顔の、何と可愛らしいことでしょう!なんてことを私みたいな(彼らにとっては)小娘が言ったらオヤジたちに怒られるかもしれませんが、普段、女性たちが集まって話し合ったり何かの活動を頑張る姿はよく見る一方、オヤジたちが集まってやる気を見せている光景はなかなか見られるものではないのです。
さて、事業の目的や、JVC、幼稚園、コーディネーター(ファリッドさん)の役割について説明し、次に記録のとり方についての説明をします。ノートを見開きにして例えば一週間もしくは二週間の欄を作り、毎日採れる卵の数を記録していきます。数を記入してもいいし、ステッカーを貼ってもいいと、星印のステッカーも準備しました。これなら子どもたちも楽しんで参加できるかもしれません。記録の項目は主に、
(1)採れる卵の数
(2)家で食べた卵の数
(3)家族で食べる数以上の卵がとれて、売った場合はその収入
(4)餌やその他、養鶏のために費用がかかったら、その支出
(5)卵を孵化させたら、その数
などです。
そして、これらの記録がきちんとつけられているか、ニワトリに問題が無いかなどを、週一度、ファリッドさんが家庭訪問を行い確認します。また、月に一度は獣医さんが家庭訪問を行い、ニワトリに病気などの症状が無いかを確認することになっています。またその間、それぞれの家族でニワトリを育てながらも、家族間でできるだけ経験や知識を共有していくことも大切です。問題解決のきっかけになるかもしれませんし、責任感を共有したり、また良い意味での「競争意識」も生まれるかもしれません。

トレーニングとミーティングの後、何人かの男性に感想を聞いてみると、皆「トレーニングもとても良かった、楽しみだ」「成功させて増やしていきたい」という声を聞くことができました。実はこの日、テレビカメラ収録が入っていたため、皆少し緊張気味だったのですが(笑)。おうちでニワトリを世話するのはお母さんであっても、オヤジたちにもぜひ一緒に積極的に参加してもらい、たまにはオヤジ同士で集まって、「おーうちのニワトリは卵いっぱい産んでるぞ!」「餌になにをあげてるんだ?」「じゃあうちもそうしようか」などと楽しく“井戸端会議”をしてもらいたいものです。
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