ガザで栄養失調の子どもの治療に取り組んでいるNGO「人間の大地」は、それぞれの地域が自主的にお母さんや子どもの健康を保ち、促進していけるよう応援しています。この日はガザ市内の2つの地域での取り組みを見せてもらいました。
まずは、トゥッファーハ地域のあるお宅にお邪魔しました。民家の一階のスペースに、女性たちが15人ほど集まっていました。聞けばすべて妊婦さんとのこと。この日は妊婦さんの健康を保つための食事についての講習がありました。講習を行うのは、スマイヤさん。「人間の大地」でトレーニングを受けたボランティアさんです。スマイヤさんが、どのような食べ物が体にいいか、どのような採り方をすれば吸収がよいか、調理する時の注意点などを丁寧に女性たちに説明していきます。また、隣接する調理場を使って、実際に妊婦さんにとって栄養価の高い食事が調理されていました。すべての女性たちがその実習に参加します。この調理実習で使われる野菜や鶏肉は、基本的に「人間の大地」から提供されていますが、できるだけ女性たち自身も家庭から持参するようにしているそうです。「こういった講習、食材、場所、すべてにおいて、自主的な参加を促しているの。地域の中で助け合えるという環境は、こういった教育の効果を高めるのよ」と「人間の大地」の担当、サラさんは言いました。また、この日は“妊婦さん講習”でしたが、地域内ではボランティアさんたちが幼稚園での栄養教育なども行っているそうです。

スマイヤさんは、今年、「タウジヒ」と呼ばれる高校卒業試験を受けました。彼女は5人の子どものお母さんでもありますが、高校卒業前に結婚したため、卒業試験を受けなかったそうです。「どうして今、タウジヒを受けようと思ったの?」と聞くと、「大学に行って勉強したいの。学ぶのも、こうやって教えるのも大好き。自分の住んでいる社会に貢献するのをとても幸せだと思っている」と誇らしげな笑顔で教えてくれました。「人間の大地」でトレーニングを受け、今はボランティアとして無給で働いているのですが、この“仕事”が彼女にどれだけの希望を与えたか、それはお金では計り知れないものなのかもしれません。
調理実習に参加していたインティサールさんも、トレーニングを受けたボランティアの1人です。旦那さんは、2002年以前はイスラエルで働いていましたが、ガザが壁で囲まれて以来失業したままです。今は、国連が提供する数ヶ月間の道路掃除のみが家族の唯一の収入源だそうです。9人の子どものうち3人が大学に通っていますが、学費を払うこともままならず、また日々の食べ物を買うお金もありません。そのため「家の窓を売ったの。軍事侵攻の後ガラスの値段は高騰して、高く売れたから」と言います。今日食べるもののために、窓ガラスを売らなければならないというその話は、ガザの失業の深刻さを物語ります。それでもインティサールさんは笑顔で続けます。「お金にはならなくても、こうして地域に貢献する場があることを嬉しく思うわ。自分が何かをしている、という満足感があるの」。
その後、同じくガザ市内、シャジャイヤ地区の健康教育のセッションを見学させてもらいました。「人間の大地」でトレーニングを受けたアビールさんがこの日は主に子どもの貧血について講習をしていました。トレーニングは、講習内容だけでなく、どのように講習を進めたら聴いている人をより積極的に参加させられるかについても学ぶそうです。「なにが貧血の原因となるか」「何が貧血を防止するか」など、短い文章や言葉が書かれた紙を、壁の模造紙に貼り付けていきます。それらの教材はとても工夫してあり、参加している女性たちはとても楽しんでいる様子でした。

アビールさんは高校卒業試験を終える前に結婚し、若くして出産しました。息子さんが今年、高校卒業試験を終えたばかりとのことですが、「来年は私の番なのよ、そのために勉強しているの」と嬉しそうに教えてくれました。彼女もまた、「人間の大地」の地域で活躍するボランティアの仕事を通して、生きがいを見つけた一人です。「最初は自分に出来るか不安だったけれども、学んで実践していくうちに自信が出てきたの。最初は家の外でこういった仕事をすることを快く思わなかった夫も、今では賛成してくれているわ」と言います。「子育ての中で経験してきたこと、学んだことなどは、地域の女性たちの中で共有するべきだわ。そうすれば、個人個人も地域全体も元気になると思う」そうです。

「人間の大地」の地域でのこういった活動は広がり、今では26の地域で2,860人もの地域ボランティアが活躍しています。栄養だけでなく、健康、環境、心理ケアなど、様々な話題について包括的に皆で共有し、学んでいるのです。地域ボランティアの講習をする姿、そして参加する女性たちが楽しんでいて積極的に学ぼうとする姿を見て、感じました。こういった日々の活動は、皆の知識を深めるだけでなく、女性たち自身が自信を得る糧になり、また生きがいにまでつながるのだと。経済的に厳しい状況が続くからこそ、地域の中で助け合い、学びあい、そして励ましあえる、そんな活動を応援することの重要性を感じました。
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