私は、ガザで家庭の台所を見るのが好きです。なんて言うと、よほどお腹が空いているのかと思われそうですが、実は台所は家庭の経済状況を見るのにとてもよい場所なのです。

7月の終わりから8月の上旬にかけて、JVCが新しく養鶏事業を始めるガザ北部のウム・アル・ナセル村で、参加する家族のうち8家族のおうちにお邪魔しました。家の様子や生活状況、家計について聞き取りをしていて、家族も私との会話に慣れてきたな、と思ったところで、「台所見せてください!」と入り込むのです。台所を見れば、「百聞は一見にしかず」ではないのですが、家族の人たちが語った「生活の困難さ」が一見でわかります。この村の家庭の台所は、整然と並んだ鍋などの調理器具やお皿などはあって綺麗に保たれているのですが、どこもトマト、モロヘイヤなど、あっても2、3種類の野菜しかなく、しかもしなびたものが多いのです。台所に食べ物が全くない家庭もありました。ほとんどの家族が、「お肉(鶏肉)を食べるのは2週間に一度」と言います。野菜を隣町に買いに行くのは1〜2週間に一度です。また、多くの家で「クッキング・ガスを買うお金がない」という声を聞きました。この地域では、砂地で木々を燃やして調理する家も少なくありません。

この村の村役場で聞いた話によれば、約5000人いる人口のうち、就業している人は100人以下とのこと。ここで言う「就業」は、一定の賃金が払われる仕事を意味するので、役所関係の仕事が主です。この村の成人男性は、2002年に分離壁ができるまでは、イスラエルで仕事をしていた人がほとんどでした。聞き取りを行った8軒の家族も同様で、すべての家庭で「以前はイスラエルの農場で働いていたが、封鎖によって仕事に行けなくなった」「ガザの農場で働いていたけれども、その農場が軍事侵攻で破壊されて以来職を失った」という声を聞きました。そういった人々は大抵、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)が提供する3ヶ月間の道路掃除などの仕事による収入(月に260USD=約2万3千円)で生活をなんとか繋いでいます。しかしその仕事のチャンスも2年に一度ほどだそうです。その他に、山羊や牛、鶏などの動物を細々と飼い、家庭で消費する牛乳を作ったりしている人が多いのです。
家庭訪問の途中の道では、馬に荷車をつけて作業をしている男性、サイードさんに会いました。何をしているのかと聞くと、「近くにある入植地跡(ガザにあったユダヤ人入植地は2005年夏にすべて撤退し、建物等も全てその時に壊された)で、瓦礫の中から“ハスマ”(砂利のような石材)を拾っているんだ。再利用のために売ることができるから」と言いました。「今の生活で何が一番困難ですか?」と聞くと、「以前のようにイスラエルに働きに行けなくなったから、子どもを食べさせるための収入を得ることができない。それに、あの汚水貯水池は常に悪臭を放っていて、子どもの健康にも悪い」と、すぐ後ろのフェンスを指差しました。この村の周りには、汚水貯水池がたくさんあります。これは、封鎖により下水処理施設の修復に必要な資材などが入ってこないこと、また下水処理施設を十分に稼動することができるだけの電力に不足していることが原因です。ガザの封鎖は人々の仕事だけでなく、生活環境までも危機に晒しているのです。

この村で唯一のクリニックを持つPMRS(パレスチナ医療救援協会)の医師は言います。「今年の夏、この村の5歳以下の全ての子どもたちの血液検査を行いました。700人ほどだったのですが、その65〜70%が貧血(血中ヘモグロビン値が11%以下)だったのです。これは昨年度の同じ検査よりも悪化しています」。その原因としては、まず経済状況が一向に良くなっていないこと、つまり人々が失業した状態が変わっていないことにあります。そして、封鎖により物資が十分に入ってこないことによる、物価の上昇があるそうです。「イスラエルが封鎖を緩和するといっても、それは私たちにとっては、『少し質のいいジュースを買えるようになる』という変化以上のものはもたらさないのです」と医師は続けます。物資が入ってくるといっても、イスラエルから入ってくる商業物資は値段も高く、収入がない状態の人々には手が届くものではありません。
家庭訪問を行った家の1人、ジュムアさん(27歳・男性)は、以前はベイト・ラヒアの農場で農作業の仕事をしていましたが、その農地が破壊されて以来、仕事を失いました。今は馬を飼っていて、その馬で電化製品などを運ぶ仕事をしていますが、馬への飼料に費やすお金とその仕事による収入は同じくらいで、なかなかお金にはならないそうです。鶏を3羽飼っており、「毎日ではないけれども卵が採れるのを子どもたちは楽しみにしている」と言いました。アフマドさん(40歳・男性)は、以前はイスラエルで仕事をしていて、2002年以降仕事を失った1人。「ガザの将来はない」と笑いながら言いましたが、続けて「子どもたちの将来にとって、今何が一番必要だと思う?」と聞くと、「封鎖が解除され、また仕事に行けるようになること」と言いました。彼は牛を一頭飼っており、将来は子どもが毎日牛乳を飲めるようにしたいと言います。

空っぽの台所を横に生活の困難を語りながらも、それでも子どもに食べさせるために自分たちの手で何とかしようとしている人々。この村には十分な収入を得られるような仕事も、清潔な生活環境もないかもしれませんが、彼らが自分たちなりに何かしら努力していることを語る時、少し恥ずかしそうにしながらもとても誇らしげな表情を見せます。彼らのそんな笑顔が将来、少しでも増えるようになればいいなと願います。
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