一方、タイシールさんは「激しい雨で土壌が流され、地中に埋まった地雷が出てこないか」と心配していたそうです。翌日、霧がたちこめるマジダル・シャムスを案内してくれました。「この建物の裏手に、地雷原のマークが見えるでしょう」。指差したマークは住宅からほんの数メートルしか離れていない高さ30メートルほどの切り立った崖にありました。その上には、イスラエル軍の監視塔があります。町の真ん中に、地雷原?「自分達がまいた地雷なのに、処理もしようとせず放っておきながら、『立ち入り禁止』地域として村の人達が使用できない状態にしている。ゴラン高原では1967年以来これまでに、66人が地雷の被害に遭い、そのうち16人が亡くなっている」そうです。

そこから後ろを振り返ると、シリア側の国連の監視施設がすぐ目の前に見えます。数十メートル先はシリアで、ここは『叫びの丘』と呼ばれているところ。今でも、この国境を挟んで、マジダル・シャムスの村の人達とシリア側に住むその家族が、拡声器と双眼鏡を手に“会話”する光景が見られます。映画「シリアの花嫁」では、マジダル・シャムスからシリアに嫁いでいく、二度と故郷に戻ってくることができない旅立ちの日の花嫁の姿が描かれていました。「象徴的なストーリー。こういった結婚式は年に3、4回あるかな」といいます。タイシールさんも、「僕が7歳の時から会っていない兄がいる。彼はダマスカスに留学しいていて、そのまま帰ってこられなくなったんだ。母親は二度と彼に会うことができないまま、数年前になくなった」とのこと。
ゴラン高原は水源が豊富なため、農業が盛んです。現在も最も有名なのはリンゴで、マジダル・シャムスの周辺は大きなリンゴ畑が広がっています。道端にも、リンゴやその他の果物、ハチミツを売る売店がたくさん並んでいます。「以前は、せっかく採れたリンゴもシーズンの最後には、捨てざるを得なかった。今は地元の農業組合が中心となって、リンゴ専用の貯蔵施設を作っている」そうです。村の人達にとって、限定された土地を守ることが、最も重要な、イスラエルによる占領に対する抵抗の1つ。今年の4月にも、イスラエル軍の戦車が4台、夜中に農地に入ってきたそうです。村の人達はそのような、農地を破壊し没収する行為を監視する共同体を作り、夜中も交代で見張っていたとのこと。イスラエル軍が入ってくると、監視していた人が連絡を取り合い、10分のうちに2,000人を超える村人が終結し、イスラエル軍を追い出したそうです。

1967年の占領以前は、農業以外にも乳業、ハチミツ、羊毛生産などが行われていましたが、現在、アラブの人たちが使用を許されているのは、もともとあった土地のうちたった6%。その他の土地は、イスラエル軍か、または「入植地」に没収されました。現在30以上の入植地がゴラン高原にあります。また水の使用もイスラエルによって管理、制限されています。村の近くにあるラム湖は、マジダル・シャムスの人にとっても重要な水源ですが、ラム湖も含むゴラン高原の全ての水源の権利はイスラエルにあります。水の価格は、近くにある「入植地」に住んでいる人への売価に比べ、村の人達に対しては3倍以上するとのこと。

また、雨水を溜める農業用の大きな水のタンクも、建設を厳しく制限されています。新しいタンクの建設にはいくつもの許可の取得が必要とされ、それはほぼ「不可能」と言われています。また、その規制が作られる前に作られたタンクには、税金が課されるとのこと。雨水に課税?!と驚く私に、「イスラエルは、占領しているゴラン高原の豊かな水源と土地を、自らの農業・観光資源にしているんだ。もともとの所有者であるアラブ人の使用を制限している一方で、『イスラエルは自然が美しい国です』と観光客を招きいれている」と、私にリンゴを売ってくれた農家の男性は言いました。

40年以上続く抵抗を続けながら、マジダル・シャムスの人々の表情は、とても凛としていました。ゴラン高原とパレスチナ。違った状況ではありますが、“United in Struggle”のスローガンのもと、ともに占領と不正義に対して闘い続けていくことは、どちらにとっても重要なことです。分離壁によって、お互いの行き来は制限されてはいますが、OPGAIの今後の取り組みが楽しみです。
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