事務局長の長谷部です。今年、5月から8月にかけて事業運営のために、およそ3ヶ月間カンボジアに駐在していました。こんなに長く滞在するのは、前職の教育支援のNGOで2002年から2003年に2年弱駐在した時以来です。今回はそこで感じたことを書きたいと思います。
様変わりする首都プノンペンと、変わらない農村地域
プノンペンの高層ビル群を見て、おもわず、「え~っ」とJVCドライバーの運転する車の中で声を出してしまいました。昔、同じ場所がどんな様子だったかを知っていたので、その様変わりにとても驚いたのです。その一方、15年前にも活動でさまざまな農村を訪れていましたが、地方の風景や暮らしが今も変わらないことにも同時に驚きました。
近年のカンボジアは高い経済成長率で知られています。また、世界銀行やUNICEFのデータを見る限り「貧困率」は2007年の47.8%から2014年の13.5%に大幅に減少しており、平均寿命も1990年の54.3歳から2012年には71.6歳と上昇。数値上、人々の生活は向上しているように見えます。
ただし、主に農村部に暮らす貧困ライン以下、またはそのラインに近い方々については、家族の急病など有事の際、すぐに貧困層に転落する可能性の人たちが、その人口の約半分もいるのです。皆、ギリギリの生活です。例えば病気の際、高度な医療を受けるには高額な民間の医療機関にかからなければいけませんし、貧困層の約9割が農村に暮らしていますが、昨今の気候変動などによる天候不順のために農作物が十分取れない年もあり、家計は常に危険にさらされています。
農村部の暮らし
JVCはアンコールワットのあるシェムリアップから車で約2時間の、コンポンクダイという村で活動しています。この3ヶ月の駐在中、活動の一環で、村の長老へのインタビューによる情報収集を行いましたが、村の出稼ぎの割合はこの数年4割~6割と、農村で暮らすことが難しい家庭が増えていることが良く分かります。
10代後半~20代の若者のほとんどが出稼ぎにいっているという村もありました。行き先とは、首都プノンペンやシェムリアップだけでなく、隣国タイも多く、出稼ぎする人たちの半分以上が、国境を越えてタイに出ているようです。建設やプランテーションに従事し、現金収入を得る。そのため村には若い人手がなく、人手不足からこれまでの労働集約的な農法もままならず、田植えでは「直播(じかまき)」をする人が多い状況です。
ふと、自分がもしこの村の人だったら?と考えました。自分も、村全体の労働力のことなどは考えずに、自分の家族のことだけ考えて、村に残らずに出稼ぎに出る人にならないだろうか...?もしくはこの状況に嫌気が差し、働く意欲を失ってしまうのではないか?
残念ながら村には、出稼ぎに行く気力もないのか、ほとんど仕事をしないでお酒を一日中飲んだり、カードゲームに熱中する男性もいました。「自分の近い親戚にもああいう人がいた」「近所にああいう人がいるよ」と話してくれる村人もいました。それを聞く自分はなぜか、彼らを責められない感情になっていました。
現在、JVCはさまざまなかたちで、農村部で充分な食料を確保することを村人とともに目指しています。駐在中、農業研修や食品加工研修の準備の話し合いでは、「村を守っていきたい。次の世代に残していきたい」と語る複数のリーダーたちと出会うことができました。彼ら、彼女らの言葉に、非常に胸が熱くなりました。カンボジアの農村部をとりまく急激な変化の中で、村の未来をどうつくっていくかは、これまで以上に大切なことだと改めて感じました。村人たちが主体的につくる未来を、サポートしたいと強く感じます。
独裁化する社会状況
最後に、カンボジア社会の全体について少し述べたいと思います。日本の報道ではなかなか出ていませんが、先週11月16日、カンボジアの最大野党の「救国党」が解散に追い込まれました。来年の選挙に向けた弾圧が強まるなか、現政権から「国家転覆」の罪を着せられ、司法が解党の判決をくだしたのです。救国党は躍進中で、今年の地方選挙では都市部で与党を抑えて勝利、全体では与党である人民党が勝ちましたが、来年の国政選挙では、救国党がもっと伸びていくのでは?とみられている矢先の出来事でした。
9月には、カンボジアで有名な英字新聞が、「税金を適切に支払っていない」という政府側の主張により、廃刊に追い込まれました。(新聞社は適正に経理報告をしていたと述べています。この英字新聞は、政府には不都合な真実も掲載する媒体でもありました)
また、NGOの活動への締め付けも多発しています。カンボジア人ローカルスタッフの長期拘束、活動妨害、ひどい場合には業務停止が続いています。カンボジア人スタッフやローカルNGOは、妨害、弾圧の影響懸念から、できることが限られてしまいます。声をあげることも難しい状況です。日本のNGOがどうカンボジアの市民社会をサポートできるか、ここが正念場だと感じています。外国人だからこそ、できることがあるのではないでしょうか。あわせて、日本政府を含む国際社会の関心、関与が重要だと感じます。日本に帰国し、東京で事務局長の業務に追われる日々ですが、できることを続けていきます。
12月13日に行われる2017年度第2回ODA政策協議会では、日本のカンボジアへのかかわりがとりあげられる予定です。JVCカンボジア事業も、12月から、新しい日本人駐在員を現地に派遣する予定です。現地情報をいち早くキャッチし、カンボジア市民社会のサポートを続けていければと思っています。
■長谷部が登壇したイベント『カンボジア最前線2017』でご一緒したフォトジャーナリスト・高橋智史さんのインタビュー『フォトジャーナリスト高橋智史が告発するカンボジアの独裁』に、カンボジアを取り巻く状況が分かりやすくまとめられています。