
1月中旬、ティロ本村での菜園研修が行われました。地元住民、そしてここに住む避難民、合わせて51名が、会場とあった広場の木の下に集まりました。8割以上が女性の参加者。トブと呼ばれるスーダン女性の色とりどりの服装が鮮やかです。 講師役は、州農業省から派遣された専門家が2名。全体を2つの大きなグループに分け、それぞれに1名の講師がついて研修が始まりました。
午前中は講義の時間。まずは野菜の栄養素について学びます。ふむふむ、なるほど、野菜ってそんなに健康にいいんだ...と思っていたら、講義はあっという間に終わってグループ討論の時間になりました。参加者は数人の小さなグループ毎に輪を作ります。各グループには、オクラ、モロヘイヤなど、ひとつずつの野菜が課題として割り当てられました。
「ここはオクラのグループですね」
講師のハディさんがやってきて言いました。
「これから、皆さんでオクラについて知っていることや育て方について話し合ってもらいます」
「えっ、先生が教えてくれるんじゃないの?」
参加者の一人がおどけたように言いました。
「いえ、みなさんは農家の方々ですから、色々な知識や経験を持っているはずです。それを集めたら、私の知識なんかとても及びません」
ハディさんは笑いながらそう切り返すと、
「でも、分からないことがあったらいつでも呼んでください」
と付け加えました。
「ところで、字が書ける人は、どなたかいますか?」
輪になって座った6人の中で、顔を見合わせながら2人が手を挙げました。
「では、すみませんが、皆さんの発言をこのノートに書き留めてください。あとで発表してもらいます」
そうして、議論が始まりました。
「オクラっていっても、品種がたくさんあるぞ」
「いくつあるかね、インディアン種(インドの種苗会社が生産・輸出、スーダンでも普及)、ハルトミア種(ハルツームの種苗会社が生産)、それに地元のオクラもあるね」
「育て方も、少しずつ違うだろ」
議論がだんだん熱を帯びてきます。
「ではみなさん、話し合いはそこまでにして、これから発表の時間に移ります」
それぞれのグループが輪を解いて、また全体の大きな輪に戻りました。
「では、オクラのグループから、どうぞ」
グループ討議でメモを取っていた男性が、他のメンバーから押し出されるように前に進みました。
「えーと、オクラのグループです。オクラにはいくつか種類がありますが、このあたりでよく栽培されているのはハルトミア種です。ハルトミア種は、比較的涼しい時期が栽培に適しています」
ノートを見ながら、栽培時期の選択や、多くの水分を必要とするため畑の中でも水路の近くなど場所を選んで栽培しなくてはいけない、といったことを発表しました。
「ありがとうございました。では、次のグループ、次はモロヘイヤですか?」
各グループの発表が終わると、午前の部は終了。お楽しみの昼食の時間です。村の主婦たちが調理した肉の煮込みと豆料理を、みんなで囲んでいただきました。

午後、参加者は広場から近くの畑に移動しました。実技研修です。
講師のハディさんは、菜園の一区画の適切な広さを、地面にロープを張って説明しています。
「タテ2メートル、ヨコ3メートル。3メートルは、ロープのこれくらいの長さですね...ちょっと3人ほど、こちらに来てもらえますか」
周りを取り囲んで聞いている参加者から3人の女性が進み出ました。ハディさんの指示に従い、ロープで計測しながら地面に2×3メートルのマス目を木の棒で書いていきます。マス目とマス目の間は少し間隔を空けます。
すぐに6つほどのマス目、つまり菜園の区画が出来上がりました。

「では、この区画を耕して畑を作ってみましょう。みなさん、農具を手に取ってください」
待っていましたとばかり、参加者は用意されたクワやスコップを手に土を起こし始めます。土が十分に柔らかくなったところで、ハディさんが「はい、そこでやめてください」と合図しました。
「では、これから、3種類の畑を作ります。それぞれ、耕し方、土の盛り方が違います」
みんな、ぽかんとして聞いています。3種類の畑って、何でしょう?

「では、まずひとつめの畑。これです」
ハディさんが目の前の畑を指しました。それはただ、耕した土を平らにならしたものです。
「これは、みなさんもよく知っている普通の平らな畑ですね。モロヘイヤやルッコラはここで育てます」
「なんだ、それならオレだって知っているぞ」
参加者の誰かがそんなことをボソボソ言っています。
「次は二番目の畑です。ちょっと手伝ってもらえますか」
そういって近くに立っていた参加者と一緒にスコップで、畝のような三角の土の盛り上がりを何本も作っていきます。

「はい、できました。これはサラバットと呼ばれる畑です。オクラを育てるのに向いています」
そう言って、オクラの種まきの仕方を教えてくれました。
「畝の斜面の部分に、少し間隔をおいて指で小さな穴を開けて3粒ずつ種をまいていきます。それ以上まく必要はありませんよ」
「先生、質問があります」
「はい、どうぞ」
「畝のてっぺんに種をまいてはいけないのですか?」
「ダメです。てっぺんにまくと水が行き渡りません。傾斜している少し下の方にまいてください。そのほうが土の中に水分が保たれるのです」

「では、最後に三番目の畑です」
ハディさんは区画の真ん中に土を盛り上げ、その上を平らにしていきます。日本風に言うなら、まるで相撲の土俵を作っているようです。
「これは、マスタバと呼ばれる畑です」
ハディさんの説明に、参加者の中には「こんな畑、初めて見たわ」と少し戸惑った表情を浮かべている人もいます。
「先生、マスタバというのは、どんな作物に向いているのですか?」
ひとりの質問に、ほかの人たちも皆うなずいています。
「はい、それを説明しなくてはいけませんね。ティブシ、アジュール(どちらもウリの一種)とか、スイカとか、地面に蔓を這わせていく作物に向いています」

3種類の畑のあとは、作物ごとの種まきの仕方、灌漑法、堆肥の作り方などを学んで、午後3時に実技研修は終わりました。そのあと、研修参加者はJVCから種子や農具の配布を受けます。
研修の感想を尋ねてみました。
「3種類の畑のうち、ふたつは知っていたけど、マスタバは知らなかった。こんど作ってみる」
「今まではワタシは種を多くまきすぎていたね。それが分かってよかったよ」
みなそれぞれに何かを得たようです。受け取ったクワやスコップを抱えて満足げに帰宅していきました。

1週間後、ティロ本村を訪ねてみました。
ハンドポンプ井戸のすぐ脇、柵に囲われた菜園で見覚えのある男性が作業をしていました。研修の時にはグループ討論の発表を担当、講師にも熱心に質問していた男性です。赤いクルマから降りてきたJVCスタッフを見つけると、手招きをしています。
「ほら、あれを見てくれ。サラバットを作ってみたぞ」
指さす方を見ると、奥の区画にはサラバットの段々が見えています。
「種まきを終えたばかりで、まだオクラの芽は出てこないけどな・・でも、こっちの畑はルッコラの芽が出てきているだろ」
平らな畑では、たくさんの小さい芽が顔を出しています。
「3週間もすれば収穫だよ」
ニヤリと笑って、そう言うのでした。
【おことわり】
JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。
この活動への寄付を受け付けています!
今、日本全国で約2,000人の方がマンスリー募金でご協力くださっています。月500円からの支援に、ぜひご参加ください。
郵便局に備え付けの振込用紙をご利用ください。
口座番号: 00190-9-27495
加入者名: JVC東京事務所
※振込用紙の通信欄に、支援したい活動名や国名をお書きください(「カンボジアの支援」など)。
※手数料のご負担をお願いしております。
JVCは認定NPO法人です。ご寄付により控除を受けられます(1万円の募金で3,200円が還付されます)。所得税控除に加え、東京・神奈川の方は住民税の控除も。詳しくはこちらをご覧ください。
遺産/遺贈寄付も受け付けています。詳しくはこちらのページをご覧ください。