\n"; ?> JVC - サラの不安 - スーダン日記
2014年3月31日 【 乾季の菜園づくり

サラの不安

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2014年3月31日 更新

ティロ本村での菜園研修の日が近づいてきました。

サラ(菜園研修中に撮影)サラ(菜園研修中に撮影)

地元住民と避難民を合わせて51人が、州農業省から派遣された講師による1日の野菜作り研修に参加します。午前中は講義、そして午後は畑に出て実技研修。その合間に昼食を取ります。

さて、研修といえばいつも話題騒然となるのが、このお昼ごはん。これまで私たちが実施した研修で昼食を提供した際には、参加者の一部から様々な不平が出てきました。

「どうして、町のレストランから食事を取り寄せないで、村の中で調理するのか?」
「どうして、チキンのモモ焼きがないのか?」
「そんな昼飯しかないなら、オレは研修に参加しないぞ」

実際のところ、各種の研修を実施する援助団体の中には、個別包装されたチキンのモモ焼き入りのお弁当を用意する団体が多くあります。なので、そのような期待感を持つ人もいるのでしょう。人々にとって、チキンはたいそうな「ごちそう」なのです。

日本でごちそうと言えば牛肉で、値段の安い鶏肉はもっと庶民的、手軽な食べ物ということになります。しかしスーダン、いや私の知っている他のアフリカの国でも、それが逆転して、チキンがごちそうになることは珍しくありません。値段も牛肉より鶏肉のほうが高く、何よりも、肉質が固い牛肉に比べて、あの柔らかなチキン、とりわけロテサリー機(串刺しになった丸ごとのチキンがぐるぐる回りながら焼かれる、あの機械)で焼かれるモモ焼きは、都会的な食べ物で皆のあこがれなのです。

しかし、私たちの研修は「ごちそうを提供する」ことが目的ではありませんから、今回の研修でも、ごく普通の、しかし一般家庭で来客をもてなすのと同様の、牛肉の煮込みと豆類、付け合わせの野菜にデザート、といった食事を用意することにしました。

研修中の昼食風景。スーダンでは、大皿に盛った料理をみんなで取り合う研修中の昼食風景。スーダンでは、大皿に盛った料理をみんなで取り合う

JVCが食材を持ち込んで村人に調理をお願いし、お皿やコップなどの食器類も村から提供してもらいます。食材の買い付けなどの準備は、JVCスタッフのサラが担当することになりました。

ところが、
「そんなの無理。村の人は調理なんてしてくれないし、食器だって貸してくれないわ」
とサラが言い出しました。

「だって、村の人はみんな、援助団体は出来上がったごちそうを持ってくると思ってるわ」
「サラ、そんなことないよ。研修は村人とJVCが一緒にやるんだから、村の人たちだって手伝ってくれるよ」

アドランがとりなしますが、
「そうかなあ...」
サラは納得していません。

ある意味、サラが納得できないのも無理からぬことです。食事はおろか、このような短期研修においても研修手当(現金)まで参加者に支給する援助団体もあります。「援助団体が何でもやってくれる」「援助団体は何から何までも提供すべき」という常識や思い込みは、残念なことに援助団体自身が作ってしまったものなのです。

アドランはサラと一緒にティロ本村を訪ね、研修の打ち合わせをしました。今日はシエハ(住民リーダー)のサレさんは忙しく、地区委員会メンバーのアワッドさんが応対してくれました。

時間や場所などの段取りを確認したあと、アドランが
「ところで、研修日の昼食なのですが、JVCが材料を持ち込むので、村の人で調理をしていただけますか」
と尋ねると、アワッドさんは
「あれ?カドグリの町から持ってくるんじゃないの?」

やはり、そう思っていたようです。
アドランが、昼食を提供するのは参加者が昼食時に家に帰ったりせず、研修を効率よく進めるためであって、特別な食事をふるまうことが目的ではないし、その予算もないことを説明しました。

「そうですか、じゃあ、何を用意すればいいですか?」
アドランはサラが作った食材リストを見せて、台所と調理する人の確保、食器類などの確保をお願いしました。
「わかりました。そんなことなら、喜んでやりましょう」

当日の朝になりました。サラはまだ不安そうな顔で、
「村に行って、何も用意されていなかったらどうしよう」
そんなことを言っています。

研修のための椅子やホワイトボードを積み込んだトラックがJVC事務所を出発していきます。サラも、市場で50人以上を見込んで牛肉をどっさり買い込むと、JVCの赤いクルマでティロ本村に向かいました。

研修会場となる広場に到着すると、アワッドさんが待っていました。
「サラさん、調理場はこっちですよ」

案内された場所は、研修会場のすぐそばの家の台所でした。近所の主婦らしき3人の女性が、おしゃべりをしながらかまどに炭を起こしています。かたわらには大小の鍋、それに食器が山のように積み上げられています。

「こんなにたくさん、どうやって集めたんですか?」
「えっ?この食器かい?近所の家を1軒1軒回ったのさ。このくらい、すぐに集まっちゃうよ」

主婦のひとりが笑いながら答えました。

やっと安心したのか、サラにも笑顔が戻ってきました。そして、手に持った袋をまだ開けていないのに気付きました。

「あっ、これ、今朝市場で買ってきた牛肉です」
「はいよ。これで材料もそろったね。作り始めようか」

向こう側の広場に参加者が集まってきました。そろそろ研修が始まるようです。

【おことわり】
JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。

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