\n"; ?> JVC - 2年3ヶ月ぶりのカドグリ(2) - スーダン日記
2013年10月28日

2年3ヶ月ぶりのカドグリ(2)

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2013年10月28日 更新

(前号から続く)

訪問団が州政府庁舎の会議室で待っていると、やがてアダム・アル=ファキ州知事が入ってきました。今年7月に就任した、がっしりとした体躯の新知事です。挨拶を済ませると、知事はこう切り出しました。

「私の仕事は、南コルドファン州に『平和』をもたらすことだ」
そして、
「そのためには、まず人々がお互いを信頼し合うことが大切。私は、政治犯として収監されていた人々を釈放した。州内に政治犯を入れる監獄はもはやない。誰もが安心して暮らせるはずだ」
と続けました。

「政治犯」とは、反政府勢力のメンバー、或いはそれに加担したと見なされてこの2年間に拘禁された人々です。実際に「メンバー」だったのか、「加担した」のか、根拠に乏しいと言われてきました。

知事はさらに、
「平和のためには開発が重要だ。学校も、診療所も、井戸も不足している。だから今後は、たくさんの国際NGOに南コルドファン州で活動をしてもらいたい」
これが、知事が私たちに言いたかったことのようです。そして、今回の訪問を許可した目的でしょう。

政治囚の釈放は、これまで多くの家族が待ち望んでいたことです。そして、これまでのような「政治犯」への弾圧が止まるのであれば、多くの人が安心して暮らせることも確かでしょう。

しかし、肝心の紛争そのものはどうなるのでしょうか。当事者である政府と反政府軍との和平が成立して紛争が終わらない限り、この地域に本当の意味での「平和」は訪れません。それについては、知事からは何の話もありませんでした。

歓迎式での訪問団一行。奥に見えるのは避難民向け住居歓迎式での訪問団一行。奥に見えるのは避難民向け住居

州政府庁舎を後にした訪問団は、郊外のティロ地区へと向かいました。この「現地便り」でもお馴染みの、避難民向け住居を視察するためです。

ソルガム畑を抜けて目的地に到着すると、大きな天幕が張られて歓迎式の準備が整っていました。出迎えなのか見物なのか、子どもから大人まで鈴なりの群集です。

この避難民向け住居は、国連難民高等弁務官事務所と州政府が中心になり、国連機関とNGOが協力して建設、入居者の選定などを行ってきました。JVCは生計支援として種子を配布、そして現在は給水施設の建設を準備しています。

式典会場にて。JVCスタッフのタイーブと今井式典会場にて。JVCスタッフのタイーブと今井

簡単な式典が終わると、待ちかねたように歌えや踊れやの大騒ぎが始まりました。スピーチなんかよりこっちがメインです。訪問団のメンバーも、ここぞとばかりにカメラを向けています。私も写真を撮っていましたが、そのうちに一緒になって踊り始めました。「同じアホなら踊らにゃ・・」というやつでしょうか。歌に合わせてドン、ドン、と足を踏み鳴らすのがコツです。

歌と踊りの主役は女性歌と踊りの主役は女性
華やかな衣装と飾りのついたステッキを振って歌う華やかな衣装と飾りのついたステッキを振って歌う

気が付くと、JVCスタッフのアドランとタイーブの二人が呆れて見ています。
「・・・じゃ、そろそろ行こうか」

歓迎式の後は自由行動です。私たちは、そのまま給水施設の建設用地を見に行くことにしました。

避難民向け住居は、南北に細長い敷地に230戸のレンガ作りの家が並んでいます。敷地の周り、家と家の間、あらゆるところにJVCが種子を支援したソルガムが大きく育って穂を実らせています。

山に向かって北側に少し歩くと、建設用地がありました。既に井戸の掘削は終了し、今は仮設の手押しポンプが取り付けられています。今後、ここに揚水ポンプとタンクを備えた給水施設を設置する予定です。

手押しポンプの周りには、水を汲みに来た子どもたちと、おしゃべりをしているお母さんたちがいました。

トロジから来たお母さんに話を聞くトロジから来たお母さんに話を聞く

私が挨拶をすると、
「あんた、さっきあっちで踊っているの、見たよ」
のひとこと。これには私も苦笑して
「はい、訪問団としてハルツームから来ました。こんど、ここにポンプ付の給水施設を作る予定です」
「おやそうかい」
と反応したのは、少し年配の女性です。

「そいつは助かるね。手押しポンプよりも、そのほうがずっと楽だよ」
「ところで、みなさんご出身はどこの村ですか?」
「トロジさ」
ひときわ背の高い母親が答えてくれました。トロジはカドグリから南へ70キロ、南スーダンとの国境に近い村です。

「トロジで戦争にあって、逃げて来たんだ」
「戦争って、これですか。こう、銃でバババーンって」
私が銃を撃つ仕草をすると、彼女は、違う違うと手を振って、空を指さしました。
「飛行機が飛んできてね、爆弾が落ちてくるのさ」
その様子を身振り手振りで伝えてくれます。

「でね、落ちてきたら、こうやって一目散に山の中に逃げるんだよ」
彼女はいきなり、脇にいた子どもを抱えて振り回すように走り出す格好をしました。いきなり振り回された子どもは目をぐるぐる回しています。
「ははは。それじゃね」
なんともあっけらかんとした紛争体験談です。豪快なお母さんたちは、そのままソルガムの畑の中に消えていきました。

ここの住居に入っている人々の多くは、紛争が始まって間もなく、空爆の対象になった地域から逃れてきました。故郷に帰ることもできず2年間にわたる避難生活をした上で、入居してきました。今後はここに定着するのか、それとも紛争が終われば帰るのか・・それは、分かりません。

JVCカドグリ事務所。スタッフは左からサラ、アドラン、今井JVCカドグリ事務所。スタッフは左からサラ、アドラン、今井

カドグリ訪問の最後に、空港に戻る時間を気にしながらJVC事務所に立ち寄りました。

扉を開けると、私がいない2年の間に壁は塗り直され、新しい家具が入り、戦闘と略奪にあった時の面影はありません。庭に植えたバナナとグアバがすっかり大きくなっているのには驚きました。

唯一、あの時に破壊された金庫だけが、そのまま床の片隅に転がっていました。
「これは永久保存だね」

事務所を出てクルマに乗り込もうとしたその時、路地の向こうから
「タカキ、タカキ」
私を呼ぶ声がします。

一体誰だろうと思って振り向くと、おお懐かしい、近所の食堂のオヤジさんです。カドグリにいた頃には2日に一度は通っていました。今も変わらず営業しているのです。
「こんなに長い間、一体どこに行ってたんだ?」
オヤジさんも2年ぶりに私を見て目を丸くしています。
「あれからずっと、ハルツームにいるんですよ。今日は1日だけ戻ってきたんです」
「なに、1日だけ?それなら、ほれ、メシ食ってけよ」
「いえ、もう空港に戻らないといけないんです。飛行機の時間が・・」
「何言ってんだ、いいじゃないか。メシ食ってけ、食ってけ」
「いや、ごめんなさい、また今度・・・」

また今度、いつ来ることができるのか。こうして、たった6時間のカドグリ訪問は終わったのでした。

【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井(首都ハルツームに駐在)が執筆したものです。

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