\n"; ?> JVC - 首都ハルツームの大規模デモ - スーダン日記
2013年9月29日

首都ハルツームの大規模デモ

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2013年9月30日 更新

黒い煙が、猛然と空に立ち昇っています。1本、2本、そして3本。

「タイヤを焼いているんだわ」
一緒にいたJVCスタッフのモナが言いました。今日は9月25日。私たちは、ハルツーム市内中心部で政府関係者との会合を終えて、ちょうど事務所まで戻ってきたところです。

「ついに始まったか・・」

煙までの距離は、ここから数百メートル、1キロ程度でしょうか。何が起きているのか見えませんが、政府に抗議する住民がタイヤを燃やし道路を封鎖しているのは間違いありません。既に、大通りの交通量は目に見えて減っています。

人々の怒りに火をつけたのは、政府によるガソリンなど燃料価格への補助金カットです。

2011年の南スーダン分離独立によって石油収入の大半を失ったスーダン政府は、「国民の反発が強いからやめた方がよい」という与党内の反対すら振り切って補助金カットを断行。9月22日にガソリン価格は1ガロン(約4リットル)当たり12スーダンポンド(以下ポンド。1ポンドは約18円)から21ポンド、一気に倍近くに跳ね上がりました。ディーゼルや家庭で使うプロパンガスも同様。翌日にはバス料金も40~50%の値上げが実施されました。

ハルツームの公共交通機関の主役はバス。というか、バスが唯一の足といってよいでしょう。小型タクシーや三輪タクシーもありますが、バスに比べて料金は数倍以上です。

郊外からバスで通勤するモナによれば、値上げによってバスの運行に大きな混乱が出ています。燃料が高価なため運行を取りやめるバス、運行本数が少なくなりバス停に取り残される乗客、新しい料金の支払いを拒否する乗客と運転手とのトラブル・・・。

立ち昇る煙を見ながら事務所に戻った私は、さっそく情報を得るためインターネットにアクセスして・・・あ、いえ、インターネットへのアクセスができません。何度やってもダメです。もしや?

あちこちに電話してみて分かったのは、やはりスーダン全土でインターネットが遮断されているようです。抗議行動の広がりを断とうということなのでしょう(その後、スーダン政府は一貫して関与を否定)。

ネットはダメでも、情報は国連の安全部局から携帯電話のショートメッセージで続々と入ってきます。市の内外、数多くの地区で住民により道路が封鎖、占拠され、ガソリンスタンドへの襲撃も行われているようです。

外を見ると、バスはほとんど走っていません。
「バスも住民に襲われるのが怖いのよ」
とモナ。周りの商店もシャッターを閉め始めています。

市内の小中学校は臨時休校となり、JVC事務所の隣にある女子中学校からは制服姿の生徒が次々に帰宅していきます。クルマで迎えに来ている親もいます。
「モナ、今日はもう帰った方がいい」
幸い、ハルツーム中心部から自家用車でモナと同じ方角に帰る親戚が見つかりました。JVC事務所まで来てもらい、同乗してモナは帰っていきました。
私は、この事務所が住居兼用です。

一夜明けて9月26日、朝の町は静まっています。学校は引き続き休校、多くの会社、団体が今日は職員を自宅待機にしているようです。JVCも、もちろんです。

事務所の周りを少し歩いてみました。しばらく行くと、バス通りのアスファルトの上にタイヤを燃やした黒焦げの跡が生々しく残っています。タイヤだけではありません。木の枝、家のガラクタ、様々なものを持ち出して住民は道路を封鎖したようです。ガラスの破片が飛び散っていました。

午後になってインターネット回線が回復。
情報を追っていくと、抗議活動はハルツームの郊外にいくほど激しく行われています。 元々は住宅など少なかったハルツームの郊外に多くの人が住むようになったのは1980年代頃。政府は当時の南北内戦による国内避難民(南部スーダンから逃れてきた人々)のための居住区をこの地区に設置しました。その地域には南コルドファン州やダルフール地方から出てきた人たちも多く住むようになります。つまり、スーダンの開発から疎外された地方の出身者、様々な社会的差別など「二級市民」扱いをされてきた人々が、一大居住区を形成することになったのです。

国の周縁部から出て来た人は、ハルツームでもやはり都市の周縁部に追いやられたわけです。そこでは電気や水道などの社会インフラは十分に整備されず、ハルツーム市内に出るにはバスで1時間、渋滞時にはそれ以上かかることも珍しくありません。バス料金も大きな負担になります。ガソリン代が上がって大きく影響を受けるのは、自家用車を持つ高額所得者や中産階級よりも、実はこのような人たちです。

南コルドファン出身の知り合いに電話してみました。ハルツーム周縁部のひとつ、青ナイル川を渡った東側のハジ・ユスフ地区に住むアルヌールさんです。
「おお、タカキか。そっちの状況は、どうだ?」
「今は落ち着いていますよ。そちらは、どうですか」
「家でじっとしているよ。外も変わりはない。でも、昨日は大勢が集まってバスに火を付けて、警察や銀行を襲ったり・・警官隊との衝突で11人が亡くなったらしい」
「そうですか・・」

治安部隊が抗議行動の鎮圧に実弾を使用していることは、多くの目撃証言があります。既に百数十人が犠牲になったという報道も流れています。
「これだけ皆が怒っているのは、今回の補助金カットだけが原因じゃない。ここに住んでいるような人たちが、これまでどれだけ我慢させられてきたのか・・。銀行を襲っているのだって、何もカネが目当てなんじゃない。みんな、銀行は政府の奴らが経営しているって知ってるんだ」

電話を終えてしばらくすると、にわかに外が騒がしくなりました。

窓をわずかに開けて様子をうかがうと、目の前の4車線の通りを群集が埋め尽くしています。スローガンを叫びながら、ゆっくりと行進しています。

昨年の6月にも反政府デモが相次ぎましたが、その中心は学生・若者でした。しかし、いま窓から見えるデモ隊は、確かに若者は多いものの、ジャラビーヤ(上下一体になった白のガウン)を来た年配の男性から学齢期の子どもがいそうな女性まで、実に様々な人たちが参加しています。

デモ隊の姿が見えなくなると、しばらくして遠くから射撃音が聞こえてきました。治安部隊が介入したようです。音から察するに、実弾ではなく催涙弾でしょうか。いや、それは私の期待だけなのか・・。

売店に行っても、写真付きで状況を伝える新聞は皆無。写真は、抗議行動を「破壊行為」と非難する大臣の談話を掲載した英字紙。「死者179名」と報じたテレビ局は閉鎖された。売店に行っても、写真付きで状況を伝える新聞は皆無。写真は、抗議行動を「破壊行為」と非難する大臣の談話を掲載した英字紙。「死者179名」と報じたテレビ局は閉鎖された。

【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井(首都ハルツームに駐在)が執筆したものです。

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