「ジルジル(ルッコラ)がせっかく芽を出したのに、ぜんぶ虫に食われちゃったのよ」
JVCスタッフのアドランがムルタ村の共同菜園を訪れると、畑に出ていたマリアムさんが怒ったように言ってきました。
「アンタ、いったいどうしてくれるのよ」
とは言いませんが、若いアドランは、自分がそんなふうに言われているようなプレッシャーを感じます。
JVCが配布した種を農家が蒔き始めてから、はや1ヶ月以上が経ちました。生育が早いフドラ(モロヘイヤ)やアリグラ(クレソン)は既に収穫が始まっています。しかし、全部の作物が順調に育っているわけではないようです。

アドランがあちこちの畑をのぞきながら話を聞いていくと、ふたつのことが分かりました。
ひとつは、ジルジルが虫に食べ尽くされている畑があること。
ふたつめは、多くの畑でナスの生育が悪いこと。
アドランも大学で農業を勉強したのですが、実地での経験がありませんし、こうした問題について農家に適切な指導をするには役不足です。ここはやはり、地域の農業のことをよく知っている専門家に頼むのが一番。州の農業省に派遣を依頼することしました。実際に畑を見て農家にアドバイスをしてもらうのです。
数日後、アドランは二人の専門家を引き連れて自信満々に再びムルタ村を訪れました。
ひとりは、病虫害の専門家イブラヒムさん。もうひとりは小規模灌漑の技術者、アブドルガディルさんです。ふたりとも農業省で長年の経験を積んだベテランです。
三人がクルマを降りて菜園に入って行くと、すでに多くの農家が水遣りや収穫の作業をしていました。さっそく、マリアムさんの畑を訪問します。
「こんにちは」
マリアムさんは、フドラの収穫をしているところでした。
「はじめまして、農業省のイブラヒムです。フドラやアリグラが、よく育っていますね」
畑には青々とした葉が繁っています。
「はい。毎日少しづつ収穫して、村の中で売っています。余った時にはカドグリの市場にも持って行くんですよ」
「それはいいですね。ところで、あっちの畑はうまく育っていないようですが、何を植えたのですか?」
イブラヒムさんが指差した畑をみると、確かに何かが植えてあるのですが育ちが悪く土がむき出しになっています。
「ジルジルです。葉に虫がついてダメになってしまいました」
「ちょっと見てみましょう」
イブラヒムさんは畑に入ってしばらく観察しながら、「やっぱり農薬を使ったほうがいいかな」と同僚のアブドルガディルさんと話しています。
それを聞いたアドランが、
「農薬は環境によくないし、農家には買うおカネもないので、JVCでは勧めていないのですが」
と言うと、イブラヒムさんは
「なるほど・・・」
と少し考えた後、次のように言いました。
「それでは、マリアムさん、こうしましょう。次に種を蒔くときには、1枚の畑にジルジルだけを蒔くのではなく、ほかの作物と混ぜて植えるのです」
「ああ、それなら、私たちもやることがありますよ。野菜と豆を一緒に植えたり」
マリアムさんも、気付いたようです。
「そうです。そうやって複数の作物を混ぜて植えると、特定の虫が集まりにくくなりますね」

マリアムさんの畑を後にして、フェンスを通り抜けて別の区画に入っていくと、そこはズベイダさんの畑です。
専門家が来ていると聞いて、ズベイダさんは待ちかねていたようでした。
「こっちの畑のナスが育たないんです」
「葉に虫がついているのを見ましたか?」
「そんなことはないんですけど・・」
イブラヒムさんが質問をしていると、畑を観察していたアブドルガディルさんが、
「これは水の問題だよ。水が十分に来ていないんだ」
と大声を出して言いました。

アブドルガディルさんかがみこんで、畑の高低差をチェックしています。
「ズベイダさん、ナスというのはとても乾燥に弱いんです。しかもナスを植えたこの畑は、ほかの畑よりほんの少しだけ高くて、水は流れてきますが十分な量になりません。取り入れ口から、水路の作り方を少し変えたほうがいいですね」
そう言って、ズベイダさんに細かくアドバイスを始めました。
「この畑は、何人で耕しているのですか?」
「私のほかに3人が、ナフィルを作って一緒に耕しています」
ナフィルとはこの地域でよく見かける協働作業グループのことです。お互いに助け合って農作業、時には屋根の葺き替えなどもします。
「だったら、ナフィルのメンバーで一緒に水路の手直しをするとよいですね」
「はい、そうします」

その後、乾季の日差しが照りつける中を3時間、イブラヒムさんとアブドルガディルさんは精力的に歩きまわり、色々なアドバイスをしてくれました。
最後に、菜園で作業をしていた全員が集まって、二人の話を聞きました。
「今日は、皆さんの畑を見ることができてとてもよかったです。また、わからないことがあったら何でも聞いて下さい。農業省の事務所にいつでもいますし、電話番号も渡しておきます」
そう言って電話番号を書いた紙を農家の人たちに残していきました。
なぜかアドランが、そそくさと近づいて電話番号をメモしています。
「オレも、分からないことがあったら何でも聞くんだ」
人に聞くのもいいけれど、もっと自分で勉強しないといけませんね。
【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井が執筆したものです。
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