(前回(カドグリ市街戦の夜(2))から続いています。三編にわかれております。まずはカドグリ市街戦の夜(1)からお読みください。)
ハルツームの中心に建つジャマ・アル・カビール(大きなモスク、の意)。礼拝に訪れる人が今日も絶えません。その傍らのお茶屋さんで、ユヌスさんと私は、カドグリの「あの夜」以来の再会を喜び合っていました。
「それで、ユヌスさん、翌朝に別れてからは、どうしたんですか?」
市街戦が始まったのが6月6日夕刻。銃声の中、二人で一晩を明かした後、翌朝9時頃に私はJVC事務所に残り、ユヌスさんはマーケットの中の親戚の家へと向かったのでした。
「親戚の家で二日間じっとしていたけど、2回も民兵がやってきたよ。『カネを出せ』と言われた」
「それで?カネなんて持ってたんですか?」
「持ってないよ。そしたら、民兵が『おまえの家はマーケットの中にあるのに、カネがないはずはない』と言って、親戚と二人で何度も叩かれたさ」
こうした話は、ユヌスさんだけではありません。不運にも民兵の略奪に遭遇した人たちは、多くが暴行を加えられています。
「もう一刻も早くカドグリを出た方がいい、と思って、次の日にハルツームに行くトラックを見つけて逃げてきたよ...ところでタカキ、あのあと、大丈夫だったのか?JVC事務所も略奪されたと聞いたぞ」
「ハハハ、あの後ですか?全然大丈夫じゃないですよ。結局、国連の救援隊の到着が遅れて、その間に民兵が十人くらい乱入してきて全部持っていかれましたよ」
ユヌスさんと別れた後、私は救援隊の到着を待っていましたが、戦車が動き回っていたため救援隊も市内に入ることができませんでした。そしてやっと入ることができたその直前、JVC事務所は民兵の略奪を受けて備品、発電機、私の身の回り品から退避用に用意したバッグまで、全て持ち去られてしまったのです。
「そうか...」
ユヌスさんはえらく落胆した表情を浮かべて、同じ言葉を繰り返すのでした。
「本当にすまないことをした。スーダンの人を支援しに来ているのに、そんなことになってしまうなんて...」
戦闘のあとの探索、破壊、略奪行為
戦闘の最中から政府軍の制圧後にかけて、カドグリでは家屋一軒一軒の探索、破壊、略奪行為が広く行われました。敵であるSPLA-N関係者の住居と分かれば徹底的な破壊、略奪が行われたと言います。しかしSPLA-Nかどうかとは関係なく、一般商店、民家の無差別的な略奪も見られました。JVC事務所の扉を破壊して入ってきた民兵はSPLA-Nを探索する素振りも見せていましたが、一方で我先にと「獲物」の取り合いをしていました。獲物が十分に得られない民兵は隣家のカギを破り、衣服やマットレスを運びだしていました。後日聞いた話では、多くの建物から屋根のトタンや窓枠、鉄扉に至るまでが剥がされ持ち出されたそうです。
私が市内から退避する際、町はずれの道路脇には軍用車両と並んで大型トラックが駐車され、荷台にはベッドや机、テーブル、戸棚などの「獲物」がうず高く積まれていました。これらは政府軍の正規兵ではなく民兵の仕業だと一般に言われます。正規の給与が出ない彼らにとってこれこそが手当であり、政府軍がそうした略奪行為を黙認することで民兵を動員している事実は、よく知られています。
私を乗せた退避用の国連車両が町はずれを通り過ぎると、郊外に向けて、長い避難民の列が続いていました。自宅から家具を持ち出すこともできず、しかし目いっぱいの身の回りの品を旅行鞄や袋に詰め、銃声が響く町を後にして歩く人々。
クルマの中の私は、カドグリでは何もかも失くしてしまったけれど、日本には帰る家があります。しかし、どこまでも続くこの人々は、どこに行けばよいのでしょうか。
緊急支援に向けて
「ユヌスさん」
彼が私に対してあまりにすまなさそうにしているので、申し訳なくなってきました。
「とにかく、私は日本に帰れたんだし、新しいパスポートも作ってスーダンに戻ってきて、もう大丈夫ですよ」
「そうか、それならよかった。それで、JVCはこれからどうするんだ?」
「カドグリに戻りたいけれど...私は外国人だから、今はちょっと行けませんね」
「どうして?自分が連れてってやろうか」
「いやいや」ユヌスさんが真剣に言うのでちょっと可笑しくなりました。
「そういう訳にもいかないんです...スーダン政府が許可してくれないんですよ」
「じゃあ、どうする?」
「自分が行けない代わりに、スーダン人のスタッフを送って緊急支援を始めようと思うんです」
「それはいい。絶対やったほうがいい」ユヌスさんは、大きくうなずきました。
「で、誰を送るんだ?」
「それは、まだ決めていないけど...」
「自分だったらいつでも行くぞ」
「えっ?ユヌスさんが?」
「戦争で困っている人を助けるなら、ぜひ手伝わせてくれ」
これには驚きましたが、ユヌスさんは真剣そのもの。意気込みが伝わってきました。
考えてみれば、元々カドグリの住民で地元に知り合いも多いユヌスさんは適任かも知れません。
「わかりました。これから計画を立てますが、もし手伝ってもらう必要が出てきたら、すぐに電話します」
「いつでも連絡してくれ。待っているぞ」
礼拝の時間が終わりモスクから出てくる人の波に混ざって、私たちは帰宅の途に着きました。
<了>
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