久しぶりにジュバ「国際」空港に降り立って驚きました。手荷物チェックにはX線装置が導入され、到着ロビーには両替店が、そして待合室にはあっと驚く免税店ができていたのです。「そんなこと当たり前じゃないか」と思うなかれ、3年前に私が初めて来た時には入国手続きのカウンターがどこにあるか分からず(係員がノート1冊を持って片隅の机に座っていた)、空港を出てもタクシーもなく(迎えのクルマが来なければ途方にくれた)、出発の際は案内放送もなく(駐機場の飛行機をチェックしていないと乗り過ごした)等々、まるで田舎の空港だったのです。
ケニア航空が6月にナイロビからの運航を開始したのに伴い、空港も様変わりしたようです。今やジュバ―ナイロビ間の航空便は1日4往復以上。3年前には人道支援関係者が多かった乗客も、現在ではビジネスマンが中心。エチオピア航空も、アディスアベバとの便を週3回から毎日に増便して対抗しています。
「ジュバにはビジネスチャンスがある」。
2005年に内戦が終結して以来続いている復興景気ですが、最近はそれが加速しているように見えます。3年前、外国人向けホテルはテントの簡易宿舎しかなく、しかもそれが1泊150ドルもしたので皆が文句を言っていましたが、今は「建物」の体裁を整えたコンクリート製の新しいホテルが次々にオープンしています。レストランも増えました。日本食が食べられる店も2店。土壁に草葺屋根が目立った一般住宅も、ブロック壁にトタン屋根の家が増え、赤や緑の屋根が連なる光景が見られるようになりました。3〜5階建のアパートも目につきます。
すべてが未舗装、デコボコだらけだった道路は、大幅に舗装されました。交差点には噴水ができて夜はライトアップされています(ただし噴き出しているのは泥水)。
その噴水の近くに、巨大な看板がお目見えしました。「銀行口座を開いて給料を貯金しよう」と呼びかけるケニア資本の銀行の宣伝です。今、市内ではケニア資本のふたつの銀行が競うように支店網を広げています。
「東チモール以来、10年ぶりに誕生する独立国家となりそうな南部スーダン。その首都となるジュバは大いに沸き立っている」そんな記事を、欧米のメディアで見かけるようになりました。航空便も、ビジネスマンも、すべて現在のブームに加え「独立後」を当て込んでジュバにやってきているのです。とりわけこの地域の石油収入は注目の的。現在、採掘された石油はパイプラインで北部スーダンを通じて輸送され、紅海に面した港から輸出されていますが、将来はこのルートを変更し、北部を経由せずにすむように(北部に邪魔される心配なしに)ケニアを通じてインド洋へと抜けるパイプラインが計画されています。この建設プロジェクトには日本の商社も有力候補として名乗りを上げています。
しかし、こうした経済ブームの恩恵を、スーダンの人々は受けているのでしょうか?
JVCが口座を持つケニア系銀行のジュバ支店を訪れると、窓口業務を行っているのは主にケニア人。顧客にもケニア人(ビジネスマンやNGOスタッフ)が多いので、行内は英語と同時にスワヒリ語(ケニアの公用語)が飛び交っています。
元JVC整備工場が加入していた保険会社。「JVCの次のプロジェクトは何だい?えっ、村落開発だから保険はいらないって?そう言わずに、何かあったらまた加入してくれよ」と言う担当者も、ケニア人。
急ぎの用事でバイクタクシー(通称「ボダボダ」)に乗れば運転手はウガンダ人。整備工場の門の脇にある露天の食堂。2スーダンポンド(約70円)の昼飯を注文すると、笑顔で大盛りによそってくれるオバちゃんはウガンダ人。行きつけの床屋で「よし、格好良く切ってやるぜ」と言うひょうきんなお兄ちゃんはエチオピア人。そして週末、レストランに出かけるとウェイターはケニア人。
「いったいスーダン人は何をやってるんだ?」と、皆さん疑問に思われることでしょう。知り合いのケニア人運転手は「スーダン人?木陰でおしゃべりしていたり、昼間からビールを飲んだり、働いているのは俺たち外国人で、奴らは何もしていないのさ」と言い放ちます。彼の言い方には偏見が入っているものの、仕事がなく昼間からブラブラしているスーダン人が多いのは紛れもない事実。企業の側でも少しずつスーダン人の雇用を増やしているようですが、内戦終結から5年経った今も、労働市場での外国人の優位は変わりません。
「仕事につけないというよりも、そもそもスーダン人は、ウェイターやウェイトレスのように人にサービスする仕事、汚い仕事、キツイ仕事などをやりたがらないのさ。プライドが高くて『ここは自分たちの国なのに、何故そんな仕事をやらなきゃいけないんだ』と思っている」とは、友人のスーダン人自身の言葉です。そして、実際に働いても不平ばかり口にして仕事ぶりが悪い。だから経営者もスーダン人は雇いたがらない、というのが「定説」です。

しかし私が思うに、都市生活に慣れた出稼ぎケニア人やウガンダ人に対し、半世紀にわたり断続的に続いた内戦を経て農村や避難先から都市に出てきたスーダン人は「人に雇われて働く」ことに慣れていないのです。毎日何時間ものあいだ職場を離れることができず、上司への服従を強制され、自分のペースを保つことができない。JVC整備工場でスタッフや研修生を見てきた私の経験から言えば、そういう環境の中で彼ら、彼女らは非常にストレスを感じているように思います。急激な変化に戸惑うスーダン人に対し、外国人が「怠け者」のレッテルを張っているのではないでしょうか。
来年1月に予定される住民投票に向け、市内では「The final walk to freedom」(「自由への最後の歩み」、つまり独立の可否を決める住民投票のこと)という南部自治政府の宣伝幕が目立つようになりました。独立の方向性は、揺らぎそうにありません。
しかし、「独立」はいったい誰のためなのでしょう?「新首都」の体面を保つために実施されているかのようなジュバの土建事業は、さぞや外国資本を潤していることでしょう。出稼ぎの外国人もますます増えていきます。政府高官には、さまざまな利権が転がり込んでくるでしょう。でも、普通の南部スーダン人にとっては何なのか?
「自治政府が外国人労働者を少し規制して、もっとスーダン人が働ける場を増やせばいいのに」と指摘する援助関係者もいますが、そういう気配はありません。「独立」を強烈に支持しているケニア、ウガンダなど周辺国への配慮があるのか、南部スーダン自治政府には出稼ぎ外国人の流入を制限する気はないようです。
「独立」に向けた熱狂が続くジュバ。しかし、その中で人々の暮らしがどうなっているのか、これからどうなるのか、政府も、南部スーダンの人々も、私たちも、もっと考えてみる必要があるのではないでしょうか。

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