\n"; ?> JVC - 「北」と「南」の相互不信 - スーダン日記

「北」と「南」の相互不信

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2010年8月11日 更新

今年度からの活動地はスーダン中央の南コルドファン州ですが、今のところは事業開始に向けた手続きのため首都ハルツームに滞在したり、昨年度までJVCが運営していた車両整備工場の様子を見にジュバに行ったりと、カドグリ(南コルドファン州都)、ハルツーム、ジュバの三つの町を往来する生活が続いています。

このうちハルツーム、カドグリはいわゆる「北部スーダン」、ジュバは「南部スーダン」に属しています。アラブ系人口が相対的に多くイスラームの影響が濃い北部と、アフリカ系住民を中心にクリスチャンが多数を占める南部は「まるで別の国」と言われるほどに文化、生活習慣が違うのですが、私にとってはどの町にいても違和感がありません。それよりも気掛かりなのは、北部の人と南部の人がお互いに相手を悪く言う、ということです。

特に、北部にいると南部の悪口をよく耳にします。
カドグリでの友人との会話の中で、私がジュバに住んでいたため南部の話題になることがあります。その時、彼らから「南部はどうしようもない」といった発言がよく出てきます。なぜ、どうしようもないのか?

その一。南部人は粗暴で、民族グループ間抗争が止まらない。もし独立したって、内戦を始めて国が破綻するだろう。
その二。汚職がひどすぎる。南部自治政府の政治家、官僚は私利私欲しか考えていない。もし独立したって、国家運営なんかできないだろう。

南コルドファン州より南北境界線方面を望む。牧畜民たちはこの平原を抜けて季節により北部と南部とを往復してきた。南コルドファン州より南北境界線方面を望む。牧畜民たちはこの平原を抜けて季節により北部と南部とを往復してきた。

南部に行ったこともない人からこのような発言が出てくることも多く、新聞記事や人づての話で、南部の悪いイメージが出来上がってしまったようです。
 南部人は粗暴?いえいえ、そんなことはありません。私が知る限り、ごく普通の人々です。民族グループ間の抗争は深刻ですが、地域は限定されていて、しかも、それらの抗争は内戦の時代以降に武器や政治的な対立が持ち込まれた結果として、激化したものなのです。「止まらない」抗争だけに注目すれば「南部はとんでもない」となりますが、武装したグループが戦闘を繰り広げた1990年代以降、教会組織などにより地域ごとの和解が模索され、多くの地域で抗争が「止まった」のも事実です。
 汚職については、確かに政府高官の汚職がひどいという話はよく耳にします。手にしたカネで周辺国(ケニアなど)に豪邸を建てて家族を住ませ、自分の国のことなんか真剣に考えるつもりがない、とはよく聞く話です。しかし、本当のところはよく分からないし、少なくともそんな豪勢な暮らしをしているのは一部高官でしょう。
 友人のひとり、サディクは私にこう言ってきました。「ここは南部と違って居心地がいいだろう。誰かの家を訪ねれば食事をふるまってもらえるし、みな親切で、本当に心の底から歓迎してくれる。別に相手に見返りを求めているわけではない。でも南部の連中は違う。腹の底で何か考えているんだ。」
 確かに、私を温かく迎え入れてくれる北部のホスピタリティには感激しますが、かといって南部の人に同じようなホスピタリティを感じないかと言えば、そんなことはありません。違いを言うなら、北部の人々はこのホスピタリティを「イスラームの教え」から説明することが多く、南部ではそれを「アフリカの文化」と言う人が多い、ということでしょう。遠来の友人としてもてなしてくれる「気持ち」は同じだと思います。

逆に、南部ではどうでしょう。こちらでは、内戦中の実体験や和平後の北部からの嫌がらせ(和平合意に定められた内容の不履行、例えば石油収入の南北での折半が実施されていない、等)に基づく北部不信が根強くあります。
 南部人が「アラブの連中」と言う時、それはアラブ系の人一般に対する不信感というよりも、歴史的に南部人を「二流市民」として扱い、町や村を空爆で焼き払い、「スパイ」として無実のジュバ市民を連行し拷問したスーダン支配層や警察権力等に対して向けられた敵意だと私は理解しています。

2005年から2011年まで、6年という長期の暫定期間が設けられたスーダン南北の和平合意。これは、6年の間に和解を進め、南北が協力して戦争で荒廃した南部の再建にあたり、2011年の南部独立住民投票までに「統一スーダン」という選択を魅力的なものにするためのものでした。
 しかし、実際にはこの5年間、「北部」ハルツーム政権は南部復興には非協力的で、それはもっぱら国際社会の援助、そして他国からの投資をあてにして行われています。加えて、前述の石油収入分配や境界線問題等で南北は鋭く対立し、「和解のための期間」という当初の想定とは全く異なった展開になりました。
 そして人々の間には、相互理解よりも「南部人は粗暴で何もできない奴ら」「北の人間はやっぱりずるい」というイメージばかりが広がり、結果的には南部の多くの人々が独立を希求する事態になっています。

失われた時間は戻っては来ませんが、こうした相互不信が払拭されない限り、たとえ独立が選択されたとしてもその過程で様々な問題が引き起こされるでしょう。思いつくだけでも、未解決の南北境界線問題や、境界線を越えて移動する牧畜民の問題、北側に居住する南部人の市民権問題等々、深刻なものが列挙できます。

「北」と「南」を行き来する私は、自分のできる範囲で、北部の友人には南部の人々のこと、南部の友人には北部の人々のことを話して、少しでもこの不信感を払拭していければ、と思います。


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