(前回記事「卒業生、それぞれの進路」の続きです)
コニョコニョ市場のバス乗り場で「ロロゴ行きのバスはどこ?」と尋ねると、呼び込みのお兄さんが「あっちだよ」と教えてくれます。バスといっても、トヨタハイエースの15人乗り。定員一杯になるまで待ってからの発車です。料金は1スーダンポンド(約40円)。
コニョコニョという不思議な名前の市場は、ジュバ市街の南東、ナイル川の近くに位置しています。ここを発車したバスは、ナイル川を遠く左手に眺めて南に走り、ロロゴ地区へと向かいます。このあたりはジュバでも緑が多い土地で、バナナ、パパイヤ、マンゴーなどの果樹、それにサトウキビ、キャッサバ、メイズ(白トウモロコシ)などが栽培されています。雨季の今は、緑が鮮やかです。
バスに揺られて20分、ジュバの町外れに私の目的地、ロロゴ難民キャンプがありました。
ここは、スーダン国境近くのエチオピア西部から逃れてきた難民のために国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が設置した居住地です。狭い敷地にトタンや土壁の家々がひしめいていますが、多くの家は建材が足りないためか屋根や壁を「UNHCR」のビニールシートで覆って雨風を防いでいます。この難民キャンプから昨年1年間、オケロとオバングの2名が私たちの整備工場に研修に通ってきていました。彼らが卒業後の今どうしているかを尋ねるのが、今回の訪問の目的です。
ひょっこり現れた外国人の私を見つけて、子供たちが興味津々に集まってきました。彼らと挨拶や握手を交わしながら居住地の中に入り、小さな雑貨屋を見つけて主人にオケロの家を知っているか尋ねてみました。「ああ、自動車整備士のオケロか。家はこの裏だよ」
「整備士の卵」のオケロですが、このあたりでは「整備士」で通っているようです。
オケロは従兄の家族と同居していました。竹製の垣根に囲まれた敷地は、スーダンの家々はどこでもそうですがきれいに掃き掃除がされていて、片隅の花壇には赤い花が可憐に咲いています。敷地内には4棟の家があり、そのうちのひとつがオケロの部屋です。骨組み以外は、すべて「UNHCR」のビニールシート製の部屋です。
Tシャツにジーンズ姿のオケロは私の突然の訪問に少し驚いたようでしたが、すぐに部屋に招き入れてくれました。
「久しぶりだね。どうしてる?」と尋ねると「まだ仕事が見つからないんだ」彼はそう切り出しました。
卒業後すぐ、ドイツの援助機関の募集に応募したのですが採用されず、その後の何ヶ月かは彼が応募できるような求人案内を見かけることもなかったそうです。エチオピア難民の彼にとって、ここスーダンでの就職はやはり容易ではありません。
「で、毎日何をしているの?」と聞くと「コニョコニョ市場で荷物運びのアルバイトだよ」
市場のバス乗り場周辺には、「荷物運び業」の若者がたくさんいます。手押し車を持って、荷物の多い客がバスから降りようとすると先を争って駆け寄り、荷物を運んで幾らかの金を稼ぐ商売です。
「でも、手押し車はどうやって手に入れたの?」
「それは、1日5ポンド払って市場で貸してもらえるんだ」
なるほど、そういう仕組みとは知りませんでした。
「この難民キャンプの若者は、みんなどんな仕事をしているの?」と聞いてみると、彼と同じ荷物運びや、建設工事、ドライバー、といった答えが返ってきました。「母親と弟や妹たちが故郷のガンベラにいるけれど、生活のためのお金を少しでも稼がないと、故郷には帰れないよ」と言う彼。実際、彼らが「難民」としてスーダンに逃れてきたのか、「出稼ぎ」に来ているのか、難民を保護する立場の国連難民高等弁務官事務所にとっても判断が難しいようです。
いずれにせよ、せっかく1年間の車両整備研修を受けたのですから、オケロにはぜひ車両関係の仕事に就いて欲しいところです。「最近やっと整備士の募集を見つけて、昨日履歴書を出してきた」というので、それに期待しましょう。
「ところで、オバングはどうしている?」もう一人のエチオピア難民の卒業生について尋ねて見ました。「あいつは警察に入ったよ。今はトレーニングを受けている」
これには私が驚きました。エチオピア難民が、どうしてスーダンの警察官になれるのか?普通なら考えにくい話です。
それについてオケロに尋ねても、明確な答えは返ってきませんでした。

話をしている間に、オケロの従兄が部屋に入ってきました。彼の職業はアーティストで、商店の看板や広告の絵を書いているそうです。「オレの書いた絵があるから、みてくれよ」と言って持ってきてくれた絵は、薄い紙に色鉛筆で描かれたものでした。個性的なタッチ、しかしテーマは深刻なものばかり。家庭内暴力、レイプ、子育てを放棄する母親、村を襲撃する兵士・・・。
写真の中で彼が持っている絵は、その中の1枚、村の家々が放火され、村人が兵士に銃を突きつけられている場面です。「これは、故郷の村で実際に起きたこと?」と尋ねると、「これはね、南スーダンのどこでも起きたことさ。オレたちの村で起きたことは・・こんなもんじゃなかったね」
彼らが故郷に帰れる日が来ることを願って、難民キャンプを後にしました。
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