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2014年11月10日 【 東エルサレム・保健指導

イスラエルは人権を尊重しますが、私たちをそもそも人間とは見なしていません。

パレスチナ現地代表 今野 泰三
2014年11月10日 更新

みなさん、こんにちは。パレスチナでは、本格的な冬が来る前にオリーブの収穫が行われます。私の3歳の娘も、通っている幼稚園が主催する社会科見学で、エルサレム南部の村へオリーブの収穫の様子とオリーブオイルの生産工場を見学に行くことになっています。これまでも子どもたちは幼稚園の社会科見学で近所の雑貨屋さんやクリーニング屋さんに行きましたが、今回はパレスチナならではの社会科見学。娘が羨ましい今日この頃です。

さて、JVCがMRSとともに占領下の東エルサレムで実施中の学校・地域保健事業では、分離壁の両側の東エルサレム全域が活動範囲となっています。その中でも、「C地区」と呼ばれる地域にある村々は、イスラエルの違法入植地に囲まれ、イスラエル政府によって開発と移動が制限されているため、厳しい生活を強いられています。

これらの村々では、住宅はおろか診療所を建設することさえ許されず、救急車も検問所を通過する許可を取らなければなりません。そのため村で急患が出ても、西岸地区の病院から救急車が急行することができません。タクシーや自家用車も、検問所を通過する許可を得た数台に限られているため、救急車の代わりにタクシーを呼んでも何時間も待たされることがあります。

そうした「C地区」のパレスチナ人集落の中でも特に厳しい状況に置かれているのが、ナビー・サムエル村(Nabi Samuel)です。この村はエルサレムを一望できる高台にあり、預言者サムエルの聖者廟があることでも知られる、イスラエル建国前から存在してきた古い村です。

しかし1967年にイスラエル軍が占領し、1970年代にはここが「戦略的要地」で「ユダヤ教にとって重要な聖地」であるという理由で、集落の建物の3分2に及ぶ46戸が破壊され、住民はそこから数百メートル離れた現在の位置に強制的に移動させられました。その後もイスラエル政府は村内で道路を整備したり、住宅を建てたりすることを禁止し、国際NGOが開発事業を実施しようとしても許可を出しません。

こうした事情により、ナビー・サムエル村は現在、病院も仕事も勉強する場所もない、20戸の古い平屋だけの集落となってしまっています。村落人口も1967年には1500人に達していましたが、現在は250人まで減り、その大半は高齢者です。

ナビー・サムエル村の様子。住宅の建設や増築が禁じられているため、20戸ほどの平屋住宅だけの小さな集落となっている。今野撮影ナビー・サムエル村の様子。住宅の建設や増築が禁じられているため、20戸ほどの平屋住宅だけの小さな集落となっている。今野撮影

ナビー・サムエル村を囲うように建設された入植地に住むイスラエル市民は、車で10分程度の距離にあるエルサレムとの間を自由に行き来しています。他方、ナビー・サムエルの村人たちは「西岸地区の身分証明書」しか持っていないためエルサレムに入ることができません。

ナビー・サムエル村の周囲に建設されたイスラエルの違法入植地。今野撮影ナビー・サムエル村の周囲に建設されたイスラエルの違法入植地。今野撮影

さらに、村と西岸地区の間に分離壁と検問所が設置されたため、検問所で特別の登録をしたパレスチナ人以外は村に行くことさえできません。そのため村の結婚式や葬式にも、村人以外は参加できないそうです。こうしたイスラエルの政策を、人権団体や国際NGOは、「民族浄化」「人道に対する罪」だと批判してきました。しかし、いまだにこの政策は続いています。

ナビー・サムエル村で、怪我をした住民の治療を行うMRSの医師と看護士。今野撮影ナビー・サムエル村で、怪我をした住民の治療を行うMRSの医師と看護士。今野撮影

JVCとMRSは、ナビー・サムエル村の住民を対象に、巡回診療と健康教育講習を実施してきました。占領政策によって「住む権利」や「健康に生きる権利」が侵害される状況の中でも、少しでも生活の質を向上させ、住民が健康という手段を使って不当な状況に対処できるようになってもらいたいという願いからです。

村の女性を対象にした健康教育セッションの様子。左の男性はJVC事業の医師。今野撮影村の女性を対象にした健康教育セッションの様子。左の男性はJVC事業の医師。今野撮影
村の子どもたちに歯磨きの方法を教える、JVC事業の保健指導員。今野撮影村の子どもたちに歯磨きの方法を教える、JVC事業の保健指導員。今野撮影

この事業について、住民の1人(60歳代の男性)は次のように話してくれました。

村に病院も診療所もないため、病気や怪我をした場合、遠く(西岸地区中部の)ラマッラーまで行かなければなりません。分離壁の向こう側にある村までは、パレスチナ自治政府が支援する公共バスが2011年から走るようになりましたが、午前中2回、午後2回だけで、片道25シェケル(740円)もかかります。JVCとMRSが実施している巡回診療は、この村で実施された事業の中でも、最も素晴らしい事業だと思います。なぜならこの村には高齢者が多く、慢性病に罹っている人が多いのですが、そうした病気の医薬品と通院には普通たくさんのお金がかかるからです。もっとこの事業が大きくなって、専門医がもっと派遣されるようになることを望んでいます。

かつてナビー・サムエル村のあった場所。フェンスで囲まれてイスラエルの「国立公園」に指定され、奥のモスクの半分はユダヤ教のシナゴーグに転換された。2014年1月、今野撮影かつてナビー・サムエル村のあった場所。フェンスで囲まれてイスラエルの「国立公園」に指定され、奥のモスクの半分はユダヤ教のシナゴーグに転換された。2014年1月、今野撮影

また、この村には、国際弁護士の男性も住んでいます。彼は、ナビー・サムエル村で生まれ育ちましたが、占領政策に反対する活動を行っていたため、イスラエル政府によって1970年代にパレスチナから追放され、ヨルダンで何十年も離散の生活を送っていました。しかし交通事故に遭って全身麻痺になったことで、皮肉にもイスラエル政府から「危険人物」と見なされなくなり、1992年にパレスチナへの帰還が許されたそうです。彼は、次のように述べました。

私は弁護士ですが、教育を受ける権利よりももっと大切なのが、健康に生きる権利だと考えています。この村は孤立しているため、JVCとMRSの巡回診療が始まるまでは、医療サービスを村内で受けることができませんでした。ジュネーブ第4条約で、占領者であるイスラエルには、無料の医療サービスを占領下の住民に提供する義務があるとされているにもかかわらずです。

巡回診療以外にも、JVCとMRSが提供する女性に対する健康教育もとても大切だと思います。彼女たちはこの活動を通じて、どのように一丸となって問題に対処すべきなのか学んでいます。また、イスラエルの人種差別と民族浄化の政策に対して平和的・合法的に抵抗していくためには、物資の提供よりも意識向上の方が大切だからです。

この村はエルサレムを一望できる高台にあるので、イスラエル政府は1967年以降ずっと、我々をここから追い出し、代わりに入植者を住まわせたいと考えてきました。イスラエル政府と軍は、道路や下水を整備することさえ許してくれません。村の道路を整備する計画が2回立ち上がりましたが、いずれもイスラエル政府は許可を与えるのを拒みました。 彼らは、私たちを人間として扱ってくれません。まるで自分が奴隷にされたように感じます。これは、私たちの生活を破壊する人種差別です。でも、私たちはこの村に留まり続けると決めています。なぜなら、イスラエルが私たちにここを去って欲しいと願っているからです。私たちの意志は、彼らの武器よりも強いのです。

この村は巡回診療以外にも多くの事業を必要としています。例えば農業事業、道路整備事業、学校拡張事業などです。でも村の周囲はイスラエル政府が設置した監視カメラで囲まれており、24時間見張られています。そのため、もし許可なしに建物を建てたり増築したりすると、すぐにイスラエル軍が破壊しにやってくるのです。

巡回診療については、MRSとJVCの医療チームが毎月2回来るほか、赤新月社がラマッラーから専門医療器具を搭載した救急車を派遣してくれています。でも、救急車がこの村に来るためには検問所を通らねばならず、その通過許可を得るためには1ヶ月も待たなければなりません。たとえ事前に許可を得ていても、検問所で通過を拒否されることも度々あります。

国連人権理事会とヨルダン政府が介入し、この村の学校の校庭に、教室として使うためのコンテナーが設置されました。でも、それさえも今はイスラエル軍から破壊命令が下っています。他方で、村の入り口には、イスラエル人入植者のための新しい大きな家が建設されたばかりです。また、1993年には、かつてナビー・サムエル村の中心地だったモスクの周囲で、イスラエル政府が発掘作業を開始しました。これにより、モスクの周りにあった樹木、農地、村の墓地の一部が破壊されました。現在、墓地は有刺鉄線で囲まれており、村人がそこに行くには事前に許可を得なければなりません。

イスラエルを民主的な国だと考えるのは誤りです。彼らは、自分たちの「人権」を、私たちに対する武器と暴力でもって守ろうとしているからです。イスラエルは、世界で唯一、パレスチナ人の囚人に対する身体的・心理的な拷問を合法化している国なのです。

ナビー・サムエル村の人権弁護士バラカート氏(左)と今野(右)。2014年1月撮影ナビー・サムエル村の人権弁護士バラカート氏(左)と今野(右)。2014年1月撮影

また、村では健康教育を受けた女性たちにも話を聞きました。JVCとMRSの巡回診療のために自宅の一部屋を貸してくれている女性(60歳代後半)は、次にように感想を話してくれました。

健康教育では、どのようにストレスや緊急事態や糖尿病に対処すればいいか学ぶことができ、また村の他の女性と会う機会にもなるので、とても気に入っています。診療所を建設することができないため、巡回診療のために自宅の一部屋を貸していますが、それによって村内の人々と会って話す良い機会にもなっています。

また、他の女性(40歳代)からも健康教育の感想を聞きました。

健康教育のセッションは、私の人生に新しい風を吹き込んでくれます。だから、セッションに参加する前に、家事を全部終わらせてから来るようにしています。ナビー・サムエル村以外にも、近くの村に住む親族や友人もこのセッションについて聞いて、是非自分の村でも開催して欲しいと言っています。

JVCは、こうした「C地区」の厳しい状況に置かれた村々で、今後も医療保健の活動を続けていきたいと考えています。引き続き、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

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