
春満開の3月初旬、ヨルダン側西岸地区北部のサルフィートに行ってきました。この日は、サルフィートにあるファルハ村でパレスチナ医療救援協会(Palestinian Medical Relief Society=PMRS)の巡回診療が行われます。サルフィートはオリーブの産地として有名です。傾斜のきつい丘陵地いっぱい、見渡す限りオリーブの畑が広がります。斜面に段々に作られた石垣の合間を、先週まで降り続いた雨が小川となって流れていて、太陽の光にキラキラと反射しています。このような光景が見られるのは、短い春の間だけです。

ラマッラーからサルフィートまでは、イスラエルによってユダヤ人入植者のために作られた道路を通っていきます。両側には、その道路に面する村の入り口がふさがれた光景が多く見られます。“アウトポスト”(前哨入植地)には、大型バスで入植者が入っていきました。同行したPMRSの医師は「住宅分譲説明会みたいなものかな」と言います。この辺りの入植地も拡大を続けていて、新たに入植地に住みにやってくる人も多いそうです。ファルハ村に行くために通る村の入り口も塞がれていて、別の入り口から入りました。目の前には入植地が広がり、監視塔が立っています。

ファルハ村のすぐ北側には、アリエルという大きな入植地があるのですが、グリーン・ライン(1967年までの停戦ライン)から大きく内側に西岸の土地をえぐるように食い込んでおり、村の人曰く、「この辺りの豊かな水資源を奪うために、イスラエルはこの地を奪っていった」そうです。村の人々に、入植地拡大や入植者による被害はないかと聞くと、入植地からパレスチナの村々に垂れ流しになっている工場廃水の問題について、何人もが懸念を示しました。ファルハ村も、この辺りの村と同様に、オリーブの生産で多くの家族が生計を立てている地域です。近隣の村では直接、入植地拡大による土地の没収などが起こっているそうで、ファルハ村はそのような差し迫った危険はないものの、土地が汚染されることに人々は不安を感じているようでした。
村では、モスクの施設を使ったPMRSの医療チームによる診療がすでに始まっていました。この村には月に2回、医療チームが訪れて診療や医薬品の処方を行っています。この日は、貧血の検査、2人の医師による診療が行われていました。また、診療の場所まで来る事ができない、例えば家で具合が悪い人や歩くことが困難なお年寄りの家には、医療チームが医療品を持って直接訪問します。

子どもが熱を出したため診療に訪れていたジャナアさんには、6人の子どもがいます。ご主人は何をしているのかと聞くと、「パレスチナの企業に勤めているの。イルハムディッラー(神のお陰です)」と言います。一ヶ月の収入は2,000シェケル(=約5万円)。6人の子どもを育てるには十分ではありません。この日、3つの薬を処方されていましたが、PMRSの巡回診療ではひとつの薬につき3シェケルを支払うことになっています。病院に行って薬局に処方箋を持っていけば、ひとつ30シェケルする薬もあります。経済状況の厳しい村の人たちにとって、村のことも家族のことも知っている医師の診療を受けることができ、また安価で薬を処方され、その場できちんと薬の説明も受けられるPMRSの巡回診療は、とても頼りにされています。一度の巡回診療に、平均で50人、多い時で100人もの人々が訪れるそうです。

その後、医療チームの看護師さんたちが、村の小学校に歯科衛生の講義に行くと聞き、連れて行ってもらいました。歯ブラシの寄付があったのですが、子どもたちに歯ブラシを配布するだけでなく、歯の健康について正しい知識をつけてもらおう、ということです。人形を使いながら、「どうして歯を磨くの?」「いつ歯を磨くの?」「どんな食べ物が歯に良くないの?」など子どもたちに質問をしていきます。子どもたちは元気に手を上げて答えます。「どんな食べ物が歯に良くないの?」「チョコレート!」「どんな食べ物が歯にいいの?」「チョコレート!」という答えには、看護師さんたちも笑います。先生たちは、「歯を磨くという習慣は、あまりパレスチナの子どもにないの。でもお菓子は大好きなんだもの!」と笑いながら、医療チームの特別講義に感謝していました。西岸の公立校では、教育省や保健省による健康教育の授業などが行われていません。PMRSのこのような「出前授業」は、子どもたちが小さい頃から自分の健康を自分で守り、促進していくためにとても重要なのです。
春の穏やかな日差しの下、どこまでも広がるオリーブの木々の美しい光景と対照的に、その中に立つ入植地やイスラエル軍の監視塔、西岸内部の封鎖の状況、そしてそのような中も淡々と村での暮らしを続けている人々や元気な子どもたち・・・それらを一度に目にすると、パレスチナに3年近く滞在していても、何ともいえない不思議な気分になることがあります。どの光景も、知ってほしいパレスチナ。こういった全ての光景を伝えていくことは、パレスチナの人々、生活に日々触れている私たちのひとつの責任なのだと思います。

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