イラクでのJVCの取り組み
JVCは2009年度から、緊急に必要な医薬品や食糧などの提供に留まらず、地域の人々との関わりを深め、地域の人びとによる復興の努力を支援することに重点を置き、イラク中北部のキルクークで地域支援の活動を行っています。キルクークは、クルド人が多数を占めるイラク北部のクルド自治区と、アラブ人が多数を占める地域の境目に位置し、アラブ、クルド、トルコメン、アッシリアなど、多民族の住民が集住する一方、石油資源を巡る利権争いにより、一触即発の対立が起こりかねない地域とされています。JVCは、イラクのローカルNGOのINSAN※をパートナーに、この地域の社会活動支援の一環として、「子どもたちの平和ワークショップ」を行い、子どもたちの交流を通して、大人も含めた地域の人々の交流や対話を促し、相互理解を進めることによって、人々の対立を防ぎ、地域の平和づくりに貢献することを目指して活動を進めています。
※ INSANのホームページはこちら → http://www.insaniraq.org
活動の実績
JVCは、2010年2~3月と2010年9~10月にそれぞれ8週間のワークショップを実施して来ました。第1回ワークショップの参加者は1地区から40名でしたが、第2回ワークショップでは3地区から60名と、その規模も拡大を続けています。
また、2011年3月にはパートナー団体のINSANが、日本の震災被害の話を聞いたキルク-クの人々とともに、日本の被災地の子どもたちに励ましのメッセージを伝えたいとして、自主企画でワークショップを実施するなど、嬉しい話も伝えられました。
なお、イラクから届いたこの写真は、日本の被災地での支援活動に必要な資金を集める募金活動にも役立てられました。
2011年の活動に向けて
私は、現地パートナーとのINSANとの打ち合わせのために6月5日にイラクの隣国のヨルダンに渡航し、ヨルダンの首都アンマンを拠点に、イラク国内で活動しているINSANのスタッフとの打ち合わせを続けて来ました。当初の予定ではINSAN代表のアリーさんにアンマンまで来てもらい打ち合わせを行う予定でしたが、急遽、イラクでの予定が入ってしまい、アンマンに来る日程を調整している間に、アリーさんのヨルダンビザの期限との折り合わせがうまく行かなくなってしまいました。
そこで、私がイラクに行こうとしましたが、今度はなかなかイラクのビザが下りず、この間の打ち合わせはメールと電話によるものでした。イラクでは1日に電気が使える時間が平均して8時間という状況の中で、停電の時間を避けながらのメールや、固定電話もつながらないため、感度の悪い携帯電話が頼みの綱という連絡状況の中での打ち合わせを続けてきました。
困難な状況のなかで
こうして1ヵ月ほど準備を進めてきた結果、2011年の夏休みの時期に合わせて、3度目になる「子どもたちの平和ワークショップ」を始めることが決まりました。
イラク戦争から8年が経過して、今年一杯でイラクからアメリカ軍が撤退するという話が取り沙汰される中、国際社会では、もう既にイラクに対する復興支援は終わったのだ、とする見方が大勢を占めています。人道復興支援を目的として国際機関を通して提供される資金も不足しています。その一方で、まだまだ現地では支援の必要性が残っています。
このように国際社会の認識とイラクの現状にはギャップがあるため、INSANをはじめとして、多くのNGOは活動資金の確保に苦労をしています。そのような中で、今回のワークショップに必要な予算の規模をすりあわせるのも簡単なことではありませんでした。しかし、ようやく6月末に、ワークショップの概要が決まり、覚え書きにもサインすることができました。
イラクから「ワークショップが始まった」との一報が
そして迎えた7月10日、無事にワークショップが始まったとの第一報がありました。ワークショップ初日はイラクでは週の始まりに当たる日曜日で※、この日は52名の子どもたちが参加し、最初のオリエンテーションを行いました。午前9時から間に15分の休憩を挟みながら2時間半に渡りワークショップが続きました。子どもたちはワークショップが始まるのをとても楽しみにしていて待ちかねていたとの報告が届いています。下の写真は、前回のワークショップのものですが、今回のワークショップの様子は、これから届き次第、お届けします。
※ イラクでは、イスラム教の習慣により、金曜日と土曜日がお休みです。
今夏のワークショップの予定
イラクの新学期は9月に始まり、暑い夏を前に5月には終わります。そのため、6月に期末試験を終えて、現在は9月までの長い夏休みに入っています。この期間を利用しての課外授業を行います。
過去2回はアートワークショップとして、子どもたちには絵を描いてもらったり、「平和の町」を象徴する家やモスク、教会、お店、町の門、ブランコや三輪車などの遊具などの模型工作を共同製作したりして、子どもたち同士の交流を進めて来ました。今回は、これまでの参加者の子どもたちや保護者の要望を取り入れ、新たな挑戦が始まります。アート作品の製作だけではなくて、音楽や演劇のワークショップにも取り組みます。そのため、これまで週2回だったワークショップが週3回の開催になります。
今回はこれまでの活動の拠点となっていたラパリーン地区の地域センターを会場にしながら、隣のハリーヤ地区に住む子どもたちも含めて60名の子どもたちを対象に、20回のワークショップを実施します。果たして今年はどんなお話しが現地から飛び込むやら、とても楽しみです。待っているだけではなく、ワークショップの立ち上がりを見越して私も7月中旬以降に活動現場に近いクルド自治区への出張を予定しています。昨年12月にはクルド自治区のアルビルで、ワークショップに参加した子どもたちに会う事ができたので、今年もまた新たな出会いに期待をしています。