洪水発生から3ヶ月。現在の人びとの生活は?
9月から発生した大洪水で、JVCの活動地でも多くの農民が被害を受けました。これまでに、多くの方々からご支援を頂き、白米の支援や牛を雨から守るためのテントの支援を実施することができました。その結果、農家の人々の健康状態や大切な牛を守ることができました。
12月に入り、洪水は収束しました。しかし、洪水の傷跡は多くの村に残り、道路などが崩れて日常生活に支障をきたしているほか、稲が被害を受け、コメを全く収穫できなかった農家も多数あります。そのため、次のコメの収穫期(2012年12月ごろ)までの食糧と牛の餌となる稲わらをどう確保するのかが、大きな課題です。
12月下旬に現地の様子を視察しました。訪れた村は、国道6号線から10㎞ほど入った、トンレサップ湖に近いペアック・スピア村です。洪水の影響で村の道路は流され、家屋も床上まで浸水した様子が伺えました。一見すると、村の人びとは平静を取り戻したようですが、村の人に話を聞くと、男性を中心に出稼ぎに出る人も増えているということでした。しかし、出稼ぎはで得られる仕事は、低賃金で危険な作業であることも多く、場合によっては仕事を得られないこともあります。
乾季米の栽培に挑戦する。
この村ペアック・スペア村には約200世帯の農民が暮らしています。JVCは以前からこの村で「幼苗一本植え」を含む農業の研修を行なってきました。今回の洪水で、村のほとんどの田んぼでコメを収穫することができませんでしたが、この村の約80世帯の農民が、水が引いた田んぼで乾季米の栽培に取り組んでいました。洪水のため、白米だけではなく種籾の価格も高騰し、なかなか手に入りづらい状況ですが、「幼苗一本植え」であれば、種籾の量を通常の田植えの5~10分の1に節約することができます。こうして、何とか種籾を確保することができました。
一方で、問題となるのが水です。井戸や灌漑施設から水を引っ張るにもポンプや燃料代が必要ですし、そもそも、乾季に入ると、井戸や灌漑施設もあっという間に涸れてしまいます。しかし、この課題も、村の人は見事に解決していました。なんと、洪水の水を堰き止めて利用していたのです。そして、洪水の水を堰き止めるために、牛の雨避けのためにJVCが支援したビニールシートを利用して堰を作っていました。
そして、これから。
温暖化が進んでいる今、洪水や干ばつといった自然災害は、残念ながらこれからも発生するでしょう。そして、それはより頻繁に、大規模に発生すると考えられます。こうした自然災害は、カンボジアの農民の暮らしに大きな影響を与えることになると思います。そのため、こうした災害にどう備え、対応していくのかを考えなくてはいけません。
カンボジアの人びとはこれまで素晴らしい知恵や技術を培ってきました。しかし、自然環境そして社会環境が急速に変化する中で、それらの知恵や技術だけでは対応しきれなくなってきていることも確かです。今回の洪水による被害を、幼苗一本植えという新しい稲作栽培の技術を用いて乗り越えようとする農民が多くいたことが、そのことを物語っています。
JVCでは、そこで暮らす人びとの知恵や技術を大切にしながら、今までにはなかった技術を紹介することで、村の人びとがより多様な知恵や技術を身につけ、様々な困難に対応できるように支援を続けています。今回、村の人がビニールシートを活用して堰を作りましたが、村の人びとは私たちが驚くような発想や技術を持っています。電気がないと暮らしていくことができない私たち日本人と比較しても、そこに森と川があれば生きていくことができる知恵や技術を持っています。
こうした農民の知恵と技術をいかし、農民が豊かな暮らしを続けていくためには、これまでには想像もしなかった干ばつや洪水にも対処していかなくてはなりません。そして、こうした自然災害による被害を最小限にとどめるためにも、稲作以外にも野菜栽培、果物栽培、家畜飼育、農産物加工などで農業生産を多様化していく必要があり、JVCとしても農民の支援を続けて生きたいと思います。