皆さんこんにちは、2018年度広報インターンの藤井です。本日は、2月18日に開催された院内集会「国連小農宣言・家族農業の10年」のイベントレポートをお送りします。
まず最初に、この院内集会のキーワードである「国連小農宣言」と「家族農業の10年」についてざっくりご紹介します。
「国連小農宣言」と「家族農業の10年」とは
◇国連小農宣言
2018年12月に「小農と農村で働く人々の権利に関する国連宣言」(以下小農宣言)が採択されました。これは、小農の価値や役割を再評価した宣言で、賛成121・反対8・棄権54で採択されたものです。主な構図としては、農業国である途上国やその理念に賛同する途上国が賛成側、農業を大規模に行いたい先進国が反対側に回っています。日本は棄権票を投じました。
◇家族農業の10年
そもそも「家族農業」とは、農業の運営から管理までの大部分を1戸の家族で営んでいる農業のことを指します。現在世界の食糧の約8割が家族農業による政策で賄われており、世界の食糧生産において重要な役割を果たしています。しかし、近年の農業の大規模化に伴い小農の生活は脅かされています。このような現状をふまえ、国連は2014年、その年を「国際家族農業年」と位置付けることで家族農業の重要性を再認識させ、さらにそれを延長する形で2019年~2028年までの10年間を「家族農業の10年」とすることを決定しました。
このような国連宣言が採択され、かつ本年から「家族農業の10年」が始まるということで、今年は世界各地で小農についての再評価の機運が高まることが予想されます。世界で小農・家族農業が改めて脚光を浴びる2019年の今だからこそ、小農中心に農村が形作られてきた日本で、改めてその意義を考え政府に取り組みを求めようという趣旨で催されたのが、今回の院内集会でした。
第1部 農民と農民団体からの提起と取り組みの紹介
第1部では、実際に農業に携わっている方から問題提起と各自の取り組みの紹介が行われました。皆さんが共通して述べていたのが、家族農業の重要性です。昨今行われている大規模農業化は、確かに生産性や利潤追求の観点からは理にかなったものに思われます。しかし、農業は産業としての側面だけでなく、コミュニティや家族の絆を作り上げる、暮らしの拠点としての役割も担っているのです。そのため、実態に即した農業や開発を行っていかないと、お金ではない「見えないもの」が失われてしまう、そして現在儚くも失われていっているのだ、という声が上がっていました。
第2部 政府関係者との対話
第2部では外務省と農林水産省の方をお招きし、パネルディスカッションが行われました。
一番の論点となったのが、小農宣言に関しての日本の投票行動です。政府は小農宣言の採択において棄権票を投じています。これはなぜなのでしょうか。 本院内集会で行われた外務省の説明によると、理由は大きく分けて2つあるとのことです。1つ目は、国連での議論がまだ収斂しておらず、合意形成するには機を熟していないため。もう1つは、小農に特化して保護すべきという認識は政府としてなく、既存の人権条約などの枠組みで保護できるのではないかと考えているため、とのことでした。
また、外務省からの説明で強調されていたのが、「本宣言は総会決議のため、法的拘束力を有しておらず、守る義務は発生しない。」という点です。もちろん、併せて「法的拘束力はなくとも、本宣言を尊重していく用意はある。」との説明はありましたが、フロアからは「義務じゃないから守る必要はないということか」と多くの非難が寄せられていました。
農林水産省からは、農家が実際に直面している問題に関してより詳しく教えてほしいという旨の言葉もありました。これに対し、農家のほうから問題をリストアップしたものを渡すという提案がなされたり、お互いこれからもこういった対話の機会を設けていく旨の合意もなされました。
院内集会を終えて
日本の農家は現在様々な問題を抱えています。農業だけでは生活が立ち行かないという問題、後継者問題、温暖化によって生産高に影響が出ているという問題...。多くの問題を抱えている中、世界的に小農や家族農業が再評価されている現状は、農家さんたちにとって希望の光となっているように感じました。しかし同時に、我が国が小農宣言に棄権票を投じ、かつ集会においても宣言に法的義務が発生しないことを幾度も強調されたことを受け、不安や憤りを感じているようにも見受けられました。
私は小農の権利を保護することや家族農業を維持していくことは、必ずしも大規模農業化に逆行する動きではないと思います。利潤や効率を追求し大規模化していく「産業としての農」は、自然を守りコミュニティを形成する「生活としての農」を侵食しない範囲でできると思います。この両方の農をどのように両立させていくか、今後深く考えていく必要があるのではないでしょうか。
「農」というのは、私たちが生きる上で必要な「食べること」に直結するものです。だからこそ、本宣言や諸問題を農業の文脈だけで考えてはいけないと思います。今後も農家と政府の間で対話が継続的に行われるとのことなので、その動向に注視していきたいと思います。
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