日本と中東の間のあるべき関係性とは?
昨年夏のガザ攻撃、シリア内戦、「イスラム国(IS)」を巡る戦線拡大、イランの核問題など、今日私達に届く中東情勢のニュースは、不穏なものばかりです。そんな、中東情勢の中で、安倍内閣は、集団的自衛権の拡大解釈をはじめ、武力行使に関する取り決めを緩和する動きを見せています。 br>
こうした中、日本も、アメリカの対中東政策に巻き込まれ、アラブ世界と対立していくのでしょうか。5/12に開催された本イベントでは、イラクやアフガニスタンでの支援に長年携わってきた弊団体の代表理事の谷山博史と、2012年からパレスチナに駐在する現地代表の今野泰三が、パレスチナをメインに中東の現状を報告し、中東地域での「テロとの戦い」や人道支援が抱える問題やその解決策について、現場で考えてきたことを報告しました。
今野講演「傷つけられたアラブの尊厳・米国の限界・身売りする日本と下請けにされるNGO」
今野は、現地で見聞きした情報を踏まえながら、中東情勢について解説しました。概要は以下の通りです。
アラブと米国、そして日本の関係
アラブ世界はこれまで、英仏米の身勝手な政策に巻き込まれ、分割され、支配されてきました。その中で、イスラエルの建国は認められる一方、パレスチナの独立は否定されてきました。そうした度重なる理不尽な政策により、アラブの尊厳は傷つけられ、反欧米の民衆感情が高まり、一部は過激化する状況が生まれました。 br>
米国による「上からの民主化」政策は、選挙を行っても米国と地元の政府が望まないイスラム主義政党が勝利するため、結局は部分的・形だけの民主化になり、民衆の不満は高まる結果になりました。米国の確固たるイスラエル支持の姿勢と「テロに対する戦い」の失敗は、中東における米国の影響力を低下させ、今や米国は同盟国の支援なしでは対中東政策を進められないという限界に直面しています。そのような中で、日本は、対東アジア政策で米国からの見返りを求める対価として、米国の対中東政策に身売りする政策を推し進めています。
NGO活動への影響
この状況下で、NGOの活動にも大きく影響が及ぶことが懸念されます。その1つ目は、困っている人々を助けたいという善意で活動している市民団体・NGOが、人道・中立・公正・独立という人道支援の原則に沿わない政治的な支援の下請けにされてしまう懸念です。それは結果的に、NGOの行動の自由を制約し、NGO職員の身の危険を増すことにもなりかねません。第2に、中東で働くNGOの職員が、中東に自衛隊を派遣する際の言い訳に利用されてしまうという懸念です。つまり、自衛隊の派遣が実際は米国の要請に従った派兵であるにもかかわらず、「NGO職員の安全を守るため」という理由付けがなされ、結果的にNGO職員の身が危険にさらされるという事態が想定されます。今野は、こうした状況がある中、日本のNGOは、軍事的・政治的な目論みを持った支援の下請けにされないよう、細心の注意を払って行動しなければならないと強調しました。
現地の声
今野は講演中、現地で聞き取った人々の声を紹介しました。
「私は、戦争後、ガザの人々が国際援助団体からモノをもらっていることに本当に嫌気が差しています。私達は自分たちで何でもできます。恩寵にすがってモノを貰う必要はありません。」 br>
「私達は、国際社会の善意を押し付けられるだけの、かわいそうな人々ではありません。私達に必要なのは、自分たちの意志で実現する力であり、そのためのエンパワーメントの事業です。」
モノがないならそれを与えれば状況は改善されるという支援側の思い込みは、逆説的に、助けたいと思っている人々の自立心や尊厳を損なう危険性を大いに孕んでいます。そのため、JVCは可能な限りモノをあげない支援を行っていると今野は説明しました。そして日本人スタッフの重要な役割は、事業に自主的に関わるパレスチナ人と友達になり、彼らの活動を賞賛するとともに、彼らの声を集め、記録し、日本に伝え続けることであり、それを通じて国境や「国益の対立」を越えた市民のつながりを作っていくことだと結論付けました。
谷山講演「アメリカのグローバル戦略に巻き込まれる日本」
アメリカの対テロ政策に巻き込まれる形で、日本の様々な対外戦略が改定されています。集団的自衛権行使容認の閣議決定をはじめ、秘密保護法の成立、武器輸出3原則の撤廃、そして日米防衛協力において、自衛隊の海外展開は地理的限定が取り払われ、平時と戦時の切れ目なく協力することが取り決められました。 br>
このような対テロ政策が日本においても進められる中で、谷山は、そもそも「テロ」とは何なのかという根本的な疑問を提起し講演を終えました。
会場からの声
講演に来ていただいた皆様からは、「政府の下請けにならないための対処法は?」「パレスチナの若者は何を表現したいのか?」などの質問がありました。それに対し、谷山は「もっと市民から支えられる団体になることが必要」、今野は「パレスチナの若者の間で絶望感が広がっている。大学を出ても職がない。家や家庭がいつ壊されるか分からない。パレスチナの若者は、もっと世界にこの不当な状況を知ってほしい、国際社会は自分たちを見放してきたという自覚を持ってほしい、と思っている」と答えました。
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