【セミナー概要】
2013年2月28日、講演者にUNAC(モザンビーク全国農民連携)代表のアウグアスト・マフィゴ氏、アドボカシー&連携担当のヴィセンテ・アドリアーノ氏、森林問題担当のレネ・ダ・ソウザ・マショコ氏が招かれ、東京大学において日本アフリカ学会関東支部例会によるオープン・セミナーが開催されました。モザンビーク農民組織の方による「生」の声により、近年アフリカ開発によって最も大きな課題の一つである「農業投資」と「土地争奪」の現状が伝えられました。
【モザンビーク農業事情、UNAC設立経緯】
まず始めに、モザンビークの農業事情とUNAC組織についての説明がなされました。現在、モザンビークでは人口の7割が農村部に暮らし、自給的農業を営み、国内総生産の3割を生み出しているそうです。食料が豊富に生産され、それらはメイズ、米、フェイジャオン豆、葉物野菜、根菜類です。伝統的な換金作物は、タバコ、カシューナッツ、綿花、ゴマなどです。1987年、社会主義から市場経済への移行による政治経済の変化に対応するために、モザンビークの小農による運動によってUNACは誕生しました。現在、7.8万人以上の農民が国レベルで加盟し、その64%を女性が占めています。
【プロサバンナ事業とは】
次に、モザンビークで今行われているプロサバンナ事業についての詳しい内容に移りました。2009年から、日本政府はODAにより「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム」という約1400万ヘクタール(日本の耕地面積の3倍)に及ぶ巨大農業開発事業を進めています。2012年10月、UNACはこの事業に抗議の声明をあげました。声明には「我々農民は、透明性が低く、プロセスのすべてにおいて市民社会組織、特に農民組織を排除することに特徴づけられるモザンビークでのプロサバンナの立案と実施の手法を非難する」と明記されています。
【農業投資と土地争奪】
「三角協力」と呼ばれるこの事業は1970年代、日本がブラジルで行った大規模農業開発をモデルに、日本とブラジルが連携して、同様のプロジェクトを行うというものです。日本政府はブラジルの農業開発を、「不毛の大地が輸出用大豆の大産地になった」という枕詞で、ブラジル国内と世界の食料安定供給に貢献したと謳っています。土壌改良の技術協力、企業との連携、農地造成や生産費の資金提供などをODAによって行いました。しかし日本政府が「不毛の地」といったその土地には、その土地によって生かされている多くの人々が存在しました。そうした地元の先住民の方々は、この開発により土地を奪われ、森林伐採や日本の援助によって入ってきた化学肥料により彼らの生活手段でもあった尊い土地の自然環境を破壊されました。
これらの大土地所有者となった入植者の大半は、日系やヨーロッパ系の移民またはその子孫です。農作物の収穫量は増加し、それを輸出することにより国家としての収入は増えましたが、安価な農場労働力として使われることを余儀なくされ生活が苦しくなった多くの農民がいます。大規模な単一作物栽培は食料輸出量を増やすと同時に食料輸入への道も開きました。また生産作物の大半は、遺伝子組み換えによるものでした。依然として、ブラジル国民の三分の一が栄養不良状態にあります。
【モザンビーク小農の現状】
モザンビークの農民は、同じことが繰り返されることを恐れているのです。ブラジル側のプロサバンナ事業関与の目的が、モザンビークの土地であることは明らかで、土地不足によって失業しているブラジル人の若者に、モザンビークで大規模なプランテーション農業を営ませることを目的としています。モザンビークは国家計画において、2009年の貧困率54.7%を、2014年までに42%に減らすことを宣言しています。そのために国家としても農業部門開発戦略計画を掲げています。
しかし、国民を食べさせている1600万人にも上る小農(国の耕地面積の9割を使ってきた)支援のための政策は存在しません。一方、何千世帯もの農民たちの土地が、アグリビジネスや商業的植林による無責任な投資によって危機に苦しんでいます。その結果、農村コミュニティにおける食料安全保障上の問題の増大、惨めな暮らし、農村から町への人口流出、労働者への転落が生じています。
【持続可能な農業を求めて】
最後に、彼らの理想とする小農を中心とする持続可能な農業について、そしてそのために日本に臨む支援・開発について、彼らが守るために闘っている土地の環境への影響を中心にお話されました。2004年、モザンビークで「環境保護のために行動を起こし、環境に関する意思決定に参加する」ために「環境のための正義」という名のNGOが設立されました。大規模農業による悪影響として、森林伐採、地域の気候の変化、雨量の不安定化、地球温暖化促進を述べています。本来、モザンビークでは土地は政府に所有権があり、売却できません。
しかし、実際には土地市場は拡大しており、土地を売買する人が増えているため、経済的に力を持つ人が意思決定をしています。食料主権、土地の権利とは生存権であり、生きる権利そのもとであるという言葉が印象的でした。UNACは食料主権を「ある国が自らの国民のため、基本的な食料を適切で十分なやり方で生産するキャパシティ」と捉えています。
【「誰」のための開発なのか~講演から考えたこと~】
講演は終始モザンビークの人々の土地への想いに溢れるものでした。時間の都合上、質疑応答は3名の限られた方のみで行われました。研究者やNGO、実際に事業等に取り組むJICAなどの実務者から、私のような一般市民や学生までと幅広い層による多くの方々で会場は埋めつくされました。質問者の中には事業関係者の方もいらっしゃり、ポルトガル語で直接講演者の方と意見を交えていました。農民団体の方々の紳士的な対応が印象的でした。
私は無意識のうちに「支援の在り方」というフィルターを通してお話を伺っていました。ゆえに当初、日本政府への抗議や批判を中心としたお話を思い描いていましたが、モザンビークの人々のお話の流儀は「彼らの生活そのもの」について彼らの生活においてその土地の自然がどれ程大切で、尊いものであるかというものでした。通訳の方を通してですが、それでも当事者の方の声を直接伺うことの大きさと重みを感じ、また権利のために闘っていると誇りをもっているようにも感じました。
そんなモザンビークの方々の話を伺い、日本人としての自分についても考えさせられました。自分は日本政府が行っている事業に批判的な視点をもち、きちんと実情を知ろうとする意欲を持ち続けているのか、また疑問を感じた際に、今の日本が声を大にして政府への批判をすることができるのか。海外で起きている問題を理解するためには、日本国内の問題にも立ち止まり目を向けることが必要で、そうしなければ現地の人々の気持ちを汲み取ることなんてできないのだと思います。現在、日本にも震災により生活が破壊された多くの方々がいます。まずはそういった方々の暮らしについて考え、理解しようと努めない限りモザンビークの人々の、本当の声を聴くことはできないのではないかと思います。
今、この事業の起動転換を図らないとブラジルがそうしたように、モザンビーク自身が第二のモザンビークのような国を生み出してしまう可能性があるのではないかとも思いました。誰のための開発なのか、その土地で暮らす人々の声と真摯に向き合うことの重要性を教えてくださった貴重な時間でした。
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