\n"; ?> JVC - 再びリビアを考える - 東京事務所スタッフ日記

再びリビアを考える

イラク事業担当 原 文次郎
2011年9月15日 更新

この8月23日にリビアではNATOを中心とする多国籍軍と連携した反体制派の「暫定国民評議会」が首都トリポリを制圧し、カダフィ政権が崩壊しました。

リビア情勢に対しては、JVCは5月2日の段階で、これまでの経験を踏まえて、「いま改めて、リビアを考える」と題した記事において、「人道危機の回避は外部からの介入によるレジームチェンジでは達成されない」という問題提起をしました。

その後、事態は進み、カダフィ政権は崩壊し新しい状況に入りましたが、問題点は基本的には変わっていないと考え、軍事介入によるリビアの体制変更の問題点を今一度振り返りたいと思います。JVCでは、ここで触れた主要な論点のうち、人道的介入の是非については今後も議論を続け、人道的危機状況に対して市民としてできることの模索を続けて行きます。また、今後も引き続きリビア情勢の推移に注目して行きます。

深刻な人道危機状況の継続

政府軍と反政府軍による軍事衝突が長期化しました。その結果、この半年にわたる軍事衝突の間に生じた犠牲者は50,000人に上ります(1)。そして、カダフィ政権が崩壊した現在においても軍事衝突は継続しており、犠牲者も増え続けています。この状況に対し、多国籍軍の武力介入の目的とされた「リビア政府軍の攻撃を止めさせ、人道状況を改善させる」という目的が達成されたと果たして言えるのでしょうか。人道的な目的を掲げて軍事的な手段を選んだことの是非は、次の3つの点から改めて検証されるべきと考えます。

1)人道危機状況への対応の適切性

まず、今般の多国籍軍による武力介入手段の適切性についての検証が必要です。介入は「空爆」を中心に行われ、また一部には反政府軍への武器の援助も行われたと報道されています。こうした軍事介入は、果たして人道目的の介入として適切な政策選択だったのでしょうか?「誤爆」によると思われる住民への被害の拡大と戦闘の激化、そして混乱状況の長期化が確実になりました。「人道状況の改善」を介入の目的とし、カダフィ大佐の殺害に至らないにせよ、反政府勢力を強力に後押しすることにより戦闘規模は拡大し、一方的なレジームチェンジが行われました。この結果、リビア国内の住民間対立の溝は深まり、これからの新しい「国づくり」に困難を迎えることは必至です。国の立て直しが遅れれば、戦闘被害を受けた住民生活の立て直しも困難を極め、二次被災による更なる人道状況の悪化が懸念されます。総合的に考えた場合、今回の軍事介入が「人道目的」として果たして適切であったか疑問です。

2)人道的軍事介入に関する議論のミスリード

今回の軍事介入は、国際社会による「保護する責任」として正当化されようとしています。しかし、これまでの人道的介入に関する議論でも、軍事的手段は他に取りうる平和的な手段についての検討を尽くした上で取られる「最終手段」であるべきという意見があります。今回の軍事介入も、取り得る手段の検討は十分に行った上なされた決定でしょうか?どのような目的であっても主権を越えて軍事介入を行うのは望ましいことではなく、人道目的であってもその「手段」、そして「終了方法」などについて十分な検討がなされる必要があります。

また、カダフィ政権「崩壊」に際して、これをイラクのサダム・フセイン政権の崩壊になぞらえる議論が出て来ていますが、イラクの混迷は現在も続いており、人道的軍事介入の「成功例」と挙げることは妥当ではありません。リビアへの軍事介入の是非を、カダフィ大佐を追い出し、政権交代を達成したという点だけで評価し、イラクを引き合いに出しながら軍事行動によって多数の一般市民の命が奪われたという事実を軽視して、「成功例」とすることは、介入した側の勝手な論理であるだけでなく、「国際社会の責任」という問題を曖昧にし、今後の政策選択に誤ったシグナルを送ることになります。

3)中東社会の民主化運動をミスリード

チュニジア、エジプトなどで市民による長期独裁政権への異議申し立てに始まったいわゆる「アラブの春」の民主化運動は、現在、いったん旧政権を打倒したものの、民主的な新政権の樹立に向けて難しい問題が山積みです。リビアの場合、これらの市民による民主化要求運動と比べ、反体制派の内部が部族やその他の要因により細分化され複雑であるだけに、よりいっそうの困難が予想されます。加えて、国際社会が、正当性確保の問題を残しつつ、一部の軍事グループへの軍事的支援によって、政権交代を導いたことは問題をより複雑なものにします。実際、旧政権打倒後の新たな政権樹立に関して、リビア内外の利害関係者による諸勢力が対立し混乱を生み出す懸念があります。

英仏などいくつかの国は、イラク戦争の際の戦後占領体制の不備を奇貨として、リビア新体制の支援に「万全の体制で臨む」としています。しかし、軍事的介入により、リビア国内の反体制派を一方的に支持したうえでの強制的な「民主的社会の構築」は生やさしいものではありません。地域の政治や経済、社会文化的背景を尊重しながら、何をするべきか慎重に検討すべきですが、介入の方法として軍事的手段を選択し、多くの犠牲者を生んだことは、民主的な社会の構築と引き替えに正当化できるものではありません

また、中東では軍事介入を政策手段として選択する場合、より一層慎重な判断が求められます。「非人道的な独裁体制のもとで、自由を求めて異議申し立てをした市民が弾圧され、多数の市民が殺傷されている。このような非人道的な状況に対する改善を目的として国際社会は断固たる手段を取る必要がある」という状況はリビアにのみ起きている問題ではなく、例えばシリアなどにも当てはまります。しかしながら、何故、今般、リビアに対して軍事的介入という手段が選択されたのか。軍事介入を選択した判断が、欧米各国の政治的・経済的な利害関係にもとづく、恣意的な判断であったとの疑いを拭い去ることができません。人道的介入が介入目的であるならば、透明性をもって説明責任が果たされるべきです。純粋に人道状況を見極めた上で、これを改善するための最善の手段が選ばれるべきと考えます。

日本政府の政策判断に対する疑問

前回の提言で私たちはリビアへの多国籍軍による軍事介入に早い段階で賛同をした日本政府の政策判断とそれに至るプロセスに疑問を呈しました。その後、日本政府は7月の時点で暫定国民評議会をリビアの「唯一の正当な対話相手」として承認しました。しかし、この承認プロセスについても、また「唯一の正当な対話相手」という表現についても、説明が足りなく、極めて曖昧なままです。日本政府が主体的にどのような根拠に基づいて政策判断を行ったのか、リビア状況が一つの転換点を迎えた今、改めて明確に説明すべきと考えます。


(1) 英国Independent紙報道による反体制組織側発表の数字(8月31日)
http://www.independent.co.uk/news/world/africa/rebel-leaders-put-libya-death-toll-at-50000-2346590.html

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