\n"; ?> JVC - 南スーダン、ジュバ再訪(2)―車両整備士養成、卒業生との再会 - 南スーダン日記
2016年6月20日

南スーダン、ジュバ再訪(2)
―車両整備士養成、卒業生との再会

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2016年6月30日 æ›´æ–°
前回より続く)

今回のジュバ訪問の目的のひとつは、数年前に私たちの職業訓練に参加した、元避難民の若者たちの近況を訪ねることでした。

20年以上も続いたスーダン内戦が終結し、希望にあふれていた十年前。誰も、ふたたび内戦の日々が来るとは想像していなかったでしょう。当時、難民キャンプから南スーダンに戻ってきた若者たちに職業訓練の機会を提供するため、私たちは自動車整備工場の運営を始めました。2006年のことです。それから2009年末まで、2期の研修コースを実施し、合計32名の卒業生を送り出しました。

2010年から現地の団体に引き継がれた元JVC整備工場には、現在、JVC時代の研修生1名が整備士として働いています。すらっと背の高いノエル。彼は卒業の直前に工場内で事故に遭い、腰に大けがを負って市内の病院に運び込まれました。薄暗い手術室での治療の様子が、今でも強く印象に残っています。
「最近、傷の様子はどうだい?」
「えっ、ああ、腰のこと?大丈夫さ。痛むこともない。そんなこと聞かれなきゃ、忘れているよ」  
とりあえずひと安心です。
「ところでノエル、同期の研修生が今どうしているか、聞かせて欲しいんだけどな」

第2期にあたる彼の同期は18人。ひとりひとり名前を挙げていきましたが、彼が消息を知っているのも約半分ほどです。6年も経つのですから、仕方ありません。
赤十字国際委員会(以下、赤十字)、国連食糧計画(WFP)、「国境なき医師団」などの国際NGO。あちこちの人道支援団体で、卒業生たちが車両整備の仕事についています。整備士ではなく運転手になったり、大学に行って工学を勉強したりという卒業生もいます。
「会ってみたいんだけど、連絡がつくかな」
「うん、でも地方に行っている奴も多いだろうなあ」
人道支援団体の整備士であれは、地方での仕事も多くなります。支援の最前線に多くの車両があるからです。地方では道路状況が悪く、クルマが受けるダメージもジュバとは比較になりません。
「トモールだったら、今はジュバにいると思うな」
 童顔で子どものようだったトモール。電気系統の修理が得意な研修生でした。今は、赤十字の整備士です。
「よし、電話番号を教えてくれよ」

エチオピア料理を食べるトモール(手前)とジャンスク(奥)エチオピア料理を食べるトモール(手前)とジャンスク(奥)

私が宿泊するホテルに姿を見せたトモールは、さすがに大人の顔になっていました。ヒゲを薄くたくわえています。同期の研修仲間だったジャンスクも一緒にやってきました。
「本当に久し振りだね、何年ぶりかな」
卒業して6年になります。その間にトモールは結婚、今では一児の父です。
エチオピア料理を注文すると、まずは6年間の足取りから話は始まりました。
「オレたちふたりとも、あの工場に残ったんだ。最初は見習い、それから整備士になってね。3、4年は働いたかな」 とトモール。
「先に仕事が見つかったのはコイツの方さ」
ジャンスクがトモールを指差しました。
「赤十字の整備士。いいよね。そのあと、オレもWFP(国連食糧計画)に決まったんだ」
「とにかく、国連やNGOの車両整備部門には卒業生がいっぱいいるよ」 二人によると、JVC及びそれを引き継いだ整備工場の職業訓練は、南スーダンでの車両整備士の最大、最良の人材供給源になっているようです。赤十字は専属の整備工場をジュバに持っていますが、12人の整備士のうちなんとトモール含め半数の6人がJVC卒業生。最大派閥を形成しています。
「あの研修が良かったんだよ。実技を毎日やらされるから確実に腕が上がったね。就職試験で、ほかにも『整備士の研修を受けました』っていうヤツはいたけど、オレたちにはとてもかなわないんだ」
一般的な研修コースでは、実技といっても訓練用に用意された1台の車両を繰り返し修理するのが基本です。しかしJVCでは、実際に稼働している整備工場が研修の場でした。毎日入れ替わり入庫してくる数多くの顧客車両を修理しなくてはなりません。整備士の指導のもとに多様な車種、様々なトラブルに対する修理をこなすうちに、否が応でも実力が付きます。

トモールと今井トモールと今井

大皿に載ったエチオピア料理が出てきました。発酵させた穀物の粉を焼いたクレープ状の「インジェラ」を手でちぎり、煮込んだ肉や野菜をつけて食べ始めます。 「しかし、専属の整備士を12人も抱えているなんて、赤十字はクルマを何台持ってるんだ?」
 トモールに尋ねてみました。
「さあ・・何百台も、かな」
確かに、赤十字のマークを付けた白の四輪駆動車を市内のあちこちで見かけます。クルマだけでなく、空港には専用の輸送機が駐機し、このホテルの宿泊客にも多くの赤十字職員を見かけます。赤十字の活動規模の大きさは、そのまま、この国の人道危機の深刻さを表していると言っていいでしょう。
「地方にあるクルマも多いからね。ジュバの整備士は地方にも出張するんだ」
トモール自身、激戦地であるアッパーナイル州やジョングレイ州への出張を重ねています。多くの命が失われ、大量の国内避難民を抱える地域です。
「町はどんな感じだった?」
思わず尋ねると、
「町なんかじゃない、一面焼け野原だよ・・」
ポツリとこぼしていました。

食べ終わると、トモールはスマートフォンを取り出して、少し照れたように、
「ねえ、うちの娘の写真、見る?」
「おおお、もちろん!」
ジャンスクと私が覗き込むと、写真、ではなくて動画が始まりました。 まだ3歳くらいでしょうか、娘さんは、庭でお母さんの手伝いをしています。見よう見まねで、石臼でゴマを挽き始めました。
「おおおお!」
 トモール、とんでもない親バカです。
「それはそうと、ジャンスクはいつ結婚するんだ?」
「相手がいれば、いつでも」
「ウソつけ。ホントはいるんだろ」
仲のよいふたりが笑い転げています。

難民キャンプで生まれ育った若者が技術を身に着け、職に就き、やがて家庭を築く。それは、支援を行った私たちが思い描いていた光景でした。しかし・・
こんなはずじゃなかったのです。 危機的な状況の中での人道支援活動を側面から支える車両整備。それをJVCの卒業生が担っているのは誇るべきことです。しかし、私たちが支援を始めた十年前に思い描いたのは、内戦が終結した平和な社会で、人道支援機関ではなく民間の整備工場で彼らが活躍する姿でした。
幸せそうなトモールの小さな家族。これから成長する子どもにとって、この国にはどんな未来が待っているのでしょうか。

トモールのスマートフォンに電話が入りました。奥さんからのようです。通話を終えると、
「家族が待っているし、そろそろ帰らないといけないんだ。『暗くならないうちに戻りなさい』って言われちゃった」
暗くなると、確かに危険なのです。市内のあちこちで軍の検問を装った武装強盗が出没します。
ジャンスクも帰り支度を始めました。
「今日はありがとう。また、いつか会おうな」
明日は、また車両整備の仕事です。先のことはともかく、今は、目の前にあるものに立ち向かうしかありません。 夕暮れの町に、ふたりの姿が消えていきました。

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