\n"; ?> JVC - 南スーダン、ジュバ再訪(1)―強盗、狂乱物価、そして自衛隊 - 南スーダン日記
2016年6月19日

南スーダン、ジュバ再訪(1)
―強盗、狂乱物価、そして自衛隊

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2016年6月27日 æ›´æ–°

「気を付けろ。ここはもう、以前のジュバじゃない」
ビタレさんは、真顔で私にそう言いました。
「ひとりで外を歩かないこと。ボダボダにも乗らず、必ずクルマで移動すること」

7年前に住んでいたジュバでは、何もかも自由でした。「何もかも」は言い過ぎですが、昼間であれば自由に歩きまわり、乗り合いバスに揺られ、急ぎの時にはボダボダと呼ばれるオートバイのタクシーをつかまえていました。
しかし、今は違うのです。

昨年6月にジュバを訪問した時のことは、この「スーダン日記」にも書きました(「南スーダンの首都、ジュバを訪問して」(1)~(4))。その時にも治安の不安はありましたが、それから半年、再度訪問した12月には事態は悪化の一途をたどっていました。

「バイクを盗むのに、走っているボダボダの運転手を射殺するなんて、信じられるか?」
私は、以前JVCが支援していた車両整備工場を訪ねていました。現地の団体に引き継がれた工場は今も稼働し続けています。整備士のビタレさんと話していると、いつの間にかサイモン工場長が割り込んできました。
「AK-47(カラシニコフ自動小銃)の銃身の先を切断して、バッグに隠してウロウロしている奴らがいる。街中で、カネを持っていそうな『獲物』を探してるんだ」 銃身を短くしたAK-47が動作するのか分かりませんが、脅迫するには十分です。

「ビタレやサイモンの言う通りだよ」
 事務所に入ると、会話を聞いていたらしいドゥドゥさんが電卓片手に話しかけてきました。
「昨日も夜遅くまで銃声が聞こえていたし、ゆっくり眠れもしないよ」  
何ともやりきれないという表情です。
「となりの奥さんなんか、『家を留守にしたら泥棒に入られる』って、買い物にも出ないんだよ」
ドゥドゥさんの家は郊外の山のふもとですが、治安の悪さは市街地と同じようです。
「でも、買い物なんか行かない方がいいかも知れないね」
「えっ、どうしてです?」
「食料品の値段が毎日のように上がるから、財布の中身が全部なくなっちゃうよ」
思わず苦笑してしまいましたが、笑いごとではありません。主食用のトウモロコシの粉、調理油、おかずの中心を占める豆類、ドゥドゥさんは例を挙げて説明してくれました。値段の上がり方は、まるで倍々ゲームです。
「ここの食堂だって、もうやっていけないよ」
整備工場では職員や研修生から食費を集めて昼食を提供しています。材料費のやり繰りは会計係のドゥドゥさんの担当です。
「研修生から集める食費は、なるべく安くしてあげたいけれど・・でも、これじゃもう無理だね。値上げするかどうか、サイモンに相談しないと」

昼食を取る研修生たち昼食を取る研修生たち
今日の昼食。左は主食の「ポショ」で、トウモロコシの粉をこねて作る。右はおかずの野菜煮込み今日の昼食。左は主食の「ポショ」で、トウモロコシの粉をこねて作る。右はおかずの野菜煮込み

トタン屋根の下の整備スペースでは、整備士の指導のもと、研修生たちが修理のため車体からエンジンを取り外そうとしていました。JVCの時代から続く職業訓練です。エンジンを持ち上げる小型のクレーンは、JVCが支援した機材を今も大切に使っています。

研修生によるエンジン取り外し作業研修生によるエンジン取り外し作業

市内中心部に行く予定があった私は、ビタレさんや工場長のアドバイス通り、タクシーを手配することにしました。
「ヨシ、じゃあ、俺が見つけてやる」
作業服を着たビタレと一緒に、整備工場の門を出ました。すぐ隣の大きな広場はバス発着場で、露店商が連なり、行きかう人々で賑わっています。その中に、客待ちのタクシーも止まっていました。タクシーとはいっても営業登録しているわけではなく、いわゆる白タクです。

ビタレさんが値段の交渉を始めましたが、運転手の要求に彼自身が驚いています。
「おい、ちょっと高すぎないか。市内をちょっと走るだけじゃないか」
「高くはないね。知ってるだろ、少しくらいのカネじゃガソリンが手に入らないんだよ」
どの運転手も値下げ交渉に応じません。ここは、安全を買うと思って彼らの値段に従うほかありません。

2013年に始まった内戦によって、元々脆弱だった南スーダンの経済は危機的な状態に陥っています。石油生産がストップし、外貨不足によって輸入に頼る多くの生活物資は品不足になりました。ガソリンスタンドからガソリンは姿を消し、ヤミ市場で1リットル500円もの高値で取引されています。
現地通貨である南スーダンポンド(以下ポンド)の対ドル為替レートは、前回の訪問時と比べて半分に下落していました。(なお、2016年6月現在では更にその半分になっています。この数年間で、1ドル=3ポンドから38ポンドへと十分の一以下の水準になりました)
「まるで紙屑みたいになっちゃったね」
ポンド札を手にして誰かがボヤいていました。この貨幣価値の下落が、物価騰貴として人々の生活を直撃しています。

「あれは何?何かあったのかな?」 タクシーが走り出すと、バス発着場の外で、商店に何十人もの女性が押し掛けているのが見えます。
「ああ、あれはね、食料品をちょっと安く売る店があるのさ。でも数に限りがあるからね。みんな朝から並んで、取り合いになるんだよ」
 運転手が説明してくれました。
「クリスマス前だからね。買わなきゃならないものは山ほどある。でも値段は高いし、カネはない。強盗ばかり増えて、どうしようもないよ」
歳入の98%を石油に頼っていた国家財政は破綻状態にあり、公務員や兵士への給与の未払いも伝えられています。犯罪の増加につながっているのは間違いないでしょう。

タクシーはやがて独立記念公園の手前を右折し、ジュバ大学に向かう道に入りました。緩やかな坂道を下り、そして再び登り坂になると、前方に国連平和維持部隊(PKO)の白い四輪駆動車が2台、見えてきました。ゆっくり走行しているらしく、タクシーはすぐに追いつきました。
「あれ?」
車体には日の丸のペイント。自衛隊の車両です。 上部に開いた天井からは、PKOのシンボルである青いヘルメットをかぶった自衛官が顔を出して、周囲を警戒しています。どこに向かっているのでしょう。この道路の行く先は、ジュバ大学を抜けて市街地や商業地区。自衛隊の宿営地があるトンピン地区とも、国連の避難民保護施設があるジェベル方面とも全く方向が違います。徐行運転をする車列はまるで市内を「パトロール」しているように見えますが、もちろん私にはどういう「任務」なのか分かりません。
タクシーの運転手は自衛隊車両には目もくれず、たちまち抜き去っていきました。

ジュバの友人や知り合いと話していて、日本の自衛隊が話題になることはまずありません。
「南スーダンの人たちは、自衛隊のことをどう思っているのでしょう」と日本の報道関係の方から尋ねられることがありますが、正直、困ってしまいます。そんなことよりも、ジュバの人たちは自分と家族の身の安全や、日々の生活をどうするかで精一杯に見えます。 昨年8月の和平合意を受けて、ようやく今年4月、大統領派と元副大統領派とによる統一政府が発足しました。しかし依然として両者の溝は深く、前途は多難です。主だった戦闘こそ停止しましたが、人々が安心して暮らせる状況ではありません。経済も好転していません。

生まれたばかりの国に、まだまだ困難な道のりが続きます。

次回は、私たちの職業訓練を受けた卒業生との再会をご報告します)

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