\n"; ?> JVC - イラク・ブリーフィング創刊号発行 - イラク・ヨルダン現地情報

イラク・ブリーフィング創刊号発行

イラク事業担当 原 文次郎
2006年5月25日 更新

2003年のイラク戦争から3年が経過しましたが、残念ながらイラクの人々の生活実感は復興からほど遠い状況にあります。そのようなイラクの人々の思いと現状に関する情報を日本の皆さんにお届けし、イラクの現状に対する理解を深めて頂くと共に日本の私たちが今後どのようにイラクに関わるべきかを考える材料として頂くために、メールマガジン「イラク・ブリーフィング」を創刊しました。今後もイラク・ブリーフィングの内容をHP上にも掲載して行きます。

イラク・ブリーフィング 創刊号 〜正式政権発足特集号〜

            No.001 2006.05.25
     発行:日本国際ボランティアセンター(JVC)イラクチーム

<はじめに>
イラクの動きと市民の声をお届けするメールマガジン「イラク・ブリーフィング」の第1号をお届けします。

2003年の「イラク戦争」から3年が経過し、ようやくイラクでは本格政権が発足しました。しかし、2005年12月の議会選挙後、5ヶ月を経過した後の正式発足であり、また、内務相、国防相などの治安をつかさどる主要閣僚人事を先送りしています。この人事にも象徴されるように、治安状況の改善をはじめとする懸案の解決はこれからの課題となっています。悪化する治安の問題は、イラクの人々の生活を危機的な状況に落とし込む懸念材料であり、復興への足がかりを遠ざけています。

イラクの治安の悪化と人道的な危機、そして遅れる復興の問題を私たちは日本からどう見てどう関わるべきなのか。私たちイラクで人道支援を進めるNGOの視点から考える材料を提供していくためにイラク・ブリーフィングを発行します。

■INDEX■
【1】イラクからの声 〜正式政権発足の日、市民はこう語った〜
【2】ニュースピックアップ 〜最近の動きから〜
     (1)政治プロセス
     (2)治安関係
     (3)復興関係、日本の関与
     (4)保健・医療分野
【3】JVCのイラクでの支援活動

【1】イラクからの声(イラクの人々の声を直接拾い、お届けします)

5月20日 バグダッドの住民アリさん(仮名:50歳代)――イラク正式政権発足の当日

「正式政権発足のその日ですが、バグダッド市内のサドルシティでは爆破事件が発生し、バグダッド市内南部のドーラ地区では戦闘が続いています。」
(注:サドルシティ=シーア派を中心とする貧困層の居住地域。ドーラ地区=シーア派とスンニ派の人々が混在して居住する地域)

「ドーラ地区での戦闘は昼夜を問わず続いています。日中の戦闘はシーア派とスンニ派の武器を持つ者同士の争いに見えますが、その正体はわかりません。

夜間の戦闘はテロリストと思しき勢力とイラクの治安維持部隊の間の戦闘なのでしょう。いずれにしても、この地区に米軍は足を踏み入れることができず、戦闘に介入できなくなっています。今や、ハイファ通りの治安の方がドーラ地区よりまだましと言えるほどです。」
(注:ハイファ通り=バグダッド市中心部で米国大使館のあるグリーンゾーンからも比較的近い地域の通り。この地区の周辺にはスンニ派の住民が多く、武装勢力の拠点になっているとして掃討作戦を展開しようとする米軍との間でしばしば戦闘が繰り広げられた。香田さんの遺体の発見された地区もこの通りに近い。)

「バグダッド市内の電力事情は相変わらず悪く、5時間に渡って停電の後、やっと1時間通電という具合です。その1時間にしてもたびたび電気が切れてはまたつながるという状態でした。電力供給がないと水汲みのポンプが動かないので、水の供給も止まっています。そこで、手で水汲みをしなくてはなりません。

清浄な飲み水はボトル入りで売っていますが、それを買い求めるお金がないので、水道の水を使うしかありません。しかし、水質が悪いせいか体調が良くないです。」

「今日も誘拐されていたUAE(アラブ首長国連邦)の外交官が解放されたとのニュースが伝わってきています。悪いニュースばかりではありません。正式政権発足によって、今後状況が好転することを期待しています。」

<解説> (JVCイラク担当 原文次郎)
アリさんは比較的楽天的な性格なので、「正式政権発足によって、今後状況が好転することを期待します」と言っているものの、積極的に今の政権に期待すると言うよりも、悪いニュースばかりで他にないので、仕方なく少しでも良い兆候があればそれに期待せざるを得ないという様子を彼の発言から感じます。

【2】ニュースピックアップ

(1)政治プロセス

正式政府が発足 未決定3閣僚、首相ら暫定兼務(毎日新聞、5月21日)

イラク連邦議会は20日、新首相に指名されたマリキ氏が提出した閣僚名簿を承認し、03年4月の旧フセイン政権崩壊以降初の正式政府が発足した。新内閣は 各宗派・民族が幅広く参加した「挙国一致」の布陣で、国民融和と治安改善を優先課題として新生イラクの建設に着手する。これで暫定政府、移行政府を経たイラクの政治プロセスは完了したことになる。

正式政府発足 挙国一致、名ばかり 各派の利益先行、治安回復見通しなく(毎日新聞、5月21日)

20日、発足したイラク正式政府は、各宗派・民族が参加する「挙国一致内閣」を目指したため、それぞれの利害が絡み合う微妙なバランスの上に成り立っている。また、最重要課題である治安問題にも不安を残し、新生イラクの前途は多難だ。

治安閣僚の選出難航か イラク新首相、協議継続(共同通信、5月21日)

イラク正統政府のマリキ新首相は、先送りした内相と国防相人事について21日以降も各派との協議を続け「宗派にとらわれず、特定政党に属さない候補」を人選、「1週間以内の選出」を目指す。しかし、イスラム教スンニ派は国防相ポストを強く要求して譲らず、選出は難航しそうだ。

■イラク新政権の全閣僚の名簿については、以下を参照
Who's who in Iraq's new cabinet (BBC News 5月20日 英文)

<解説> (JVCイラク担当 原文次郎)
正式政府の閣僚ポストは首相、副首相を含め40。兼務があるため37人(うち女性4人)。党派別の内訳は、統一イラク連合(UNC、シーア派)=18人、クルド同盟=6人、イラク合意戦線(スンニ派)=5人、国民イラクリスト(アラウィ元首相のグループ、世俗派)=5人、その他=3人(キリスト教徒2人、トルクメン1人)内務相を首相のマリキ氏が、国防相を副首相のサラーム・ゾバイ氏がそれぞれ暫定的に兼任。この両ポストの人事は1週間以内に確定させることになった。

JVCの活動に関係するところでは、保健相のポストに移行政権に引き続きシーア派が充てられ、アル・アリシマーリ氏となった。シーア派が保健省のトップをはじめとする中枢を占めたこの体制によって、抜本的な政策の変更と改善を期待するのは難しいだろう。保健省だけの問題ではないが、サダム政権下でスンニ派が重用される中で、シーア派の人々は長年に渡って行政職から排除されて来た。行政経験に乏しいシーア派が中枢を占める行政機関では、これまでも行政の停滞が見られて来た。また、省庁の中枢を特定の党派に占められることは、その党派の特定の利害に行政が影響を受けやすいことを意味する。ここに行政の腐敗の余地も生じることになる。

NGO側から見て、今後の注目点は、イラクのNGO登録(暫定政府までは計画復興省の管轄。現在は市民社会省の管轄への過渡期)が市民社会の健全な発展に寄与する形で執り行われるかどうかにかかっている。たとえば、現在の市民社会省が提示するNGO法の素案が、サダム政権時代の市民団体を取り締まる法律と大差ないことがNGOから見て問題とされている。

(2)治安関係

イラク避難民10万人 身元不明遺体、首都で毎日50体(朝日新聞、5月13日)

As death toll mounts, middle class flees Iraq(International Herald Tribune/The New York Times 5月19日)

A neglected linchpin: Iraqi police(International Herald Tribune / The New York Times 5月21日)

2003年のアメリカ合衆国の侵攻後、混沌状態に陥ったイラクでは、国防省はたった十数名ほどのアドバイザーの下でイラク警察の建て直しの努力を始めた。

<解説> (JVCイラク担当 原文次郎)
イラクの民間人の推定死亡者数は5月23日時点のイラクボディカウントによれば、37,848名から42,216名の間になる。

同じくイラクボディカウントの3月1日時点の推計で、年度ごとの1日当たりの死者数では1年目=20名、2年目=31名、3年目=36名と、年を追うごとに増加傾向にある。このため、日々の犠牲者数の報道を数え上げても数限りないので、今回は正式政権発足の段階での治安状況を概観する記事と、警察の治安対策の記事を挙げた。

(3)復興関係、日本の関与

空自、バグダッド輸送検討・外相「国連要望なら」(日本経済新聞、5月6日)

訪欧中の麻生太郎外相は4日夜、ブリュッセル市内のホテルで日本経済新聞社のインタビューに応じ、イラク復興支援でクウェートを拠点に活動中の航空自衛隊について「バグダッドへの物資や隊員の輸送などに国連の要望が強い場合、それに応えても問題はない」と述べ、バグダッド国際空港への輸送を検討する考えを示した。

イラク経済支援、拡充検討──本格政権の発足にらむ(日本経済新聞、5月13日)

イラク空自が国連の人員・物資輸送、政府検討(読売新聞、5月16日)

小泉首相:アナン氏と会談 イラク国連輸送に応じる考え(毎日新聞 5月17日)

(4)保健・医療分野

栄養失調の子供、戦後倍増 イラクでユニセフ調査(5月16日 共同通信)

イラク戦争や旧フセイン政権崩壊後の治安悪化で、深刻な栄養失調状態にあるイラクの子供が同戦争前と比べ倍増したことが15日、国連児童基金(ユニセフ)とイラク政府などの調査で分かった。

Food insecurity in Iraq persists: Children suffer (Relief Web / Source: United Nations Children's Fund (UNICEF))

PDS(注:公共配給システム。詳しくは後述の解説参照)の賞賛に値するほどの努力にもかかわらず、多くのイラクの貧困家庭では食料確保が不安定であることが、2005年の最新のデータに基づき本日発表された「食料安全保障と脆弱性分析」によって明らかになった。

<解説> (JVCイラク担当 原文次郎
PDS = Public Distribution System(公共配給システム)による食料配給

1990年代に湾岸戦争後の国連による経済制裁が始まった後にイラク政府が開始。各家庭ごとに毎月一定量の米、小麦粉、お茶、砂糖、食料油などが提供される。政府の発行する配給券と引き換えに配給所で手に入れる。これらの物資の配給にはイラク通商省(Ministry of Trade)が責任を負う。

96年より国連による「食料のための石油プログラムOil for Food Programにより経済制裁が一部緩和されたことにより、イラクの石油収入を食料の購入に当てることで、食料の安定的な供給を図ることができるようになった。

2003年のイラク戦争後、国連の枠組みでの食料配給は2003年11月に終了したが、その後もイラク通商省による食料配給が継続している。ただし配給される食料の質の悪化と遅配が問題とされている。

【3】JVCイラクでの支援活動

■JVCとは
日本国際ボランティアセンター(JVC)は、1980年にタイでカンボジア難民支援のために設立された団体で、現在はアジア・アフリカ・中東の11カ国で活動する国際協力NGOです。

■イラクでの支援活動
【1】湾岸戦争直後(1991〜1992年):給水設備復旧の支援など緊急支援活動
【2】2002年:イラクでの活動を再開。イラクの子どもたちと絵画を通じた交流を行い、戦争を回避して平和的な解決を求めるキャンペーンを行いました。

また、経済制裁の影響を受けている病院へ医療機材を提供しました。   
【3】2003年4月16日(サダム政権崩壊後)には再びバグダッドに足を踏み入れ、野戦病院に医薬品を提供したほか、戦争やその後の略奪で破壊された病院や文化施設の再開に向けての支援を行いました。

同年8月以降はバグダッドを中心とした小児病院の白血病病棟へ医薬品を支援しており、現在も「日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)」のメンバーとして、医薬品支援を続けています。(JVCイラクの活動内容はこちら

<発行> 日本国際ボランティアセンター(JVC)イラクチーム
 <編集責任者> JVCイラク担当: 原 文次郎
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