アフガニスタンの治安状況には、依然として改善の気配が見られません。多くの市民が自爆攻撃の犠牲となっています。国連の今年上半期の報告が発表されましたので、概要をお伝えします(※本翻訳は JVCによる非公式のものです)。
■[この翻訳の原文であるプレスリリースはこちら] "Extreme harm to Afghan civilians continues as suicide attacks worsen, latest UN report shows"
■[報告書本文はこちら] https://unama.unmissions.org/protection-of-civilians-reports
「自爆攻撃の悪化でアフガン市民へ重大な危害」
カブール 2017年7月17日
国連の2017年中間報告によれば、2017年上半期に紛争によって死傷した市民の数は昨年と同じく過去最悪レベルになっています。市民は自爆攻撃などの重大な危害にさらされており、特に女性や子どもに被害が拡大しています。
国連アフガニスタン支援ミッション(United Nations Assistance Mission in Afghanistan, UNAMA)の統計によれば、2017年1月1日から6月30日までの半年間における市民の死者は1,662人に達し、昨年の同時期にくらべて2%増加しました。一方、負傷者は1%減の3,581人となっています。
「アフガニスタンにおけるこのひどい戦争によって失われた人命、破壊と苦しみなど、その人的被害はあまりにも大きい」と山本忠通アフガニスタン担当国連事務総長特別代表 兼UNAMA代表は語っています。「無差別で過度に被害をもたらす違法な即席爆弾(Improvised Explosive Device, IED、注1)はとりわけひどいものであり、すぐに使用をやめなければならない」と彼は続けています。
今回の報告によれば、この6ヶ月間における一般市民の死傷者の40%(死者596人、負傷者1,483人)が、自爆攻撃や圧力板式即席爆弾注2のような即席爆弾を使用した反政府勢力によるによる犠牲者です。このうち自爆攻撃や複合攻撃(複数の実行者と自爆即席爆弾を含む複数形態の兵器を伴うもの)による死者は259人、負傷者は892人で、これは2016年の同時期にくらべて15%増加しています。
死傷者の多くは、今年5月31日にカブールで起きたトラック爆弾によるもので、少なくとも92人が死亡、約500人が負傷しました。UNAMAが統計を取り始めて以来、最悪の事件です。
報告書は、反政府勢力に市民への攻撃をやめること、タリバン指導者にもそうした攻撃停止を働きかけることなどの提案を行っています。また政府側に対しては、市民の多く住む地域で甚大な被害を及ぼすような迫撃砲やロケット弾などの兵器の使用をやめ、違法な民兵組織等を解散させることを求めています。一方、国際部隊に対しては、アフガン政府軍に対する支援と訓練を継続することを求めています。
ザイド・ラード・アル・フセイン国連人権高等弁務官は以下のように述べています。
「報告書の数字はすさまじいが、アフガニスタンの人々の苦痛をすべて伝えてはいない。犠牲者の数字の一つ一つが、壊された家族、想像を絶するトラウマ、苦痛、人権に対する暴力的侵害を現している。」
「多くのアフガニスタン市民は家族や友だちを亡くして心理的トラウマを抱え、日常の危険を認識し、恐れの中で生きている。より多くの人が家を離れることを余儀なくされ、健康と教育そして生活に消えることのない被害をこうむっている。今も続くアフガニスタンの悲劇を見過ごしてはならない。」
統計の数字は、2016年に減少していた女性と子どもの死傷者数が再び増加していることを示しています。174人の女性が死亡、462人が負傷しており、昨年の同時期にくらべて23%増加しました。子どもの死傷者は1%増加し、死者が436人、負傷者が1,141人となっています。死者数は9%増加しています。UNAMAの解析によれば、市民の多く住む地域での圧力板式即席爆弾の使用と空からの攻撃が女性と子どもの犠牲者が増えた大きな原因になっています。
反政府勢力による攻撃で市民の1,141人が死亡、2,348人が負傷し、昨年にくらべて12%ふえています。これら死傷者は市民の死傷者全体の67%で、そのうちタリバンによるものが43%、「ホラサン注3のイスラム国(ISKP)」によるものが5%、残りが未確認の主体となっています。
報告書はアフガン政府軍が地上戦による市民の死傷者を減らす努力を続けていることを評価しています。地上戦は死傷者を引き起こす二番目の要因ですが、統計によれば地上戦での死傷者は昨年の同時期にくらべ10%減少、確認された死者数は434人、負傷者は1,375人となっています。減少の原因には、地上戦のうち政府側の軍の迫撃砲等、間接的かつ/もしくは爆発性の兵器による死傷者が減ったことがあげられます。UNAMAによれば、政府側の軍の攻撃による市民の死傷者は、死者327人、負傷者618人でした。昨年にくらべて21%減少していますが、その中の航空機攻撃による市民の死傷者数は43%増加しています(死者95人、負傷者137人)。
地域別に見た場合、死傷者の19%が首都カブールの自爆や複合攻撃でおきています。アフガニスタンの34の県のうち、15の県で市民の死傷者がふえており、主な原因は反政府勢力による攻撃の増加です。死傷者の多い県は、カブール、ヘルマンド、カンダハル、ナンガルハル、ウルズガン、ファリヤブ、ヘラート、ラグマン、クンドゥズ、そしてファラーです。
今回の報告書は、個々の事例における複数の確認過程を必要とする綿密な検証作業を経て完全に確証がとれた事例だけをのせており、そのことから、実際の数字はもっと多いと思われます。国連のデータによれば、2009年1月から現在(2017年7月)までに、アフガニスタンでは武力紛争により、26,500人以上の市民が死亡、49,000人近くが負傷しています。
※注(1)身近な物で手作りした爆発装置。別名「即席爆発装置」。
※注(2)人や車が踏むと圧力を感じて起爆する即席爆弾(Pressure-plate IED)
※注(3)アフガニスタン一帯を含む歴史上の地名。