2014年4月5日、アフガニスタンでは大統領選挙と地方議会選挙が行われました。9・11を受けた多国籍軍による侵攻の後、2期務めたカルザイ大統領に代わる新たな大統領の誕生は、予定されている今年末までの外国軍撤退と加え、アフガニスタンに大きな転換点をもたらすことになります。
一方、反政府勢力のタリバンは、この選挙はまやかしで、侵略者の企みであるとして反対しています。選挙日前から、選挙に行かないようにという呼びかけや脅迫のほかに、さまざまな妨害活動や攻撃も見られ、選管本部も攻撃にあったほか、JVCの事務所がある東部ナンガルハル県の中心都市ジャララバードでも警察署を標的にした自爆攻撃がありました。
そうした中で行われた投票ですが、推定投票率は60%と前回の40%を大幅に上回ったと報じられています。人びとは文字通り命をかけて、将来のために一票を投じたのです。
一方、私たちJVCも選挙中さまざまな事件が報告される中で、人びとの命を守る活動をつづけました。JVCは、東部ナンガルハル県の農村部で医療・健康指導や教育の活動に従事し、二つの診療所を運営しています。長くつづく戦争と治安の悪さから医療環境は依然としてきびしく(とくに農村部でそうです)、診療所は人びとの命を守る大事な拠点となっているのです。
政府の指示で、このJVCの診療所が投票所に指定されました。人びとが集まりやすく、一定の施設を備えた診療所は投票所に指定されるケースが多いのです。しかし、選挙や投票自体が標的にされており、投票所となること自体が政治的な色合いを帯びてしまうこと、人道的な活動を行わなければならない施設が、万が一の時には活動に支障をきたしてしまうまことが危惧されます。JVCでは、なんとか投票所としての使用を避けるべく、村人や他の団体とともにさまざまな働きかけを行いました。
その結果、選挙数日前になって投票所としての使用を避けることができました。「投票所としてではなく、医療施設としての診療所」という備えは、選挙に向かう人びとにとっても安心を与えるものであったはずです。
じっさいの運営ですが、現地行政からの指示で、選挙当日、緊急の患者や負傷者などにも備え、診療所をあけることになりました。スタッフ自身の安全を考えるとむずかしい判断となりましたが、最低限の人員体制と万全の安全対策をもって対応しました。 選挙前からも対策を取っており、地域での保健活動や事務所に関わる職員は選挙を挟んで4-5日の自宅待機とし、診療所のみ通常運営、選挙当日は診療所の人員も最小限とし、緊急の患者や負傷者などのためのスタンバイとしました。
選挙当日は、朝から事件を知らせる連絡がひっきりなしに入ってきました。
JVC事務所のあるジャララバードでは、朝から爆発が6件、爆発物の発見が2件との情報が入りました。その後、事件を恐れ、町中から人の姿が消えてしまったようです。事件が頻発していること、軍や警察などによるチェックや道路封鎖が多いことから、診療所スタッフが移動するための車両を2台から1台に減らすことにし、出発時間も調整しました。
また、安全管理担当のスタッフは、移動する診療所スタッフの安全を確認するため、市内から診療所のある村に向かう橋まで車を見届けた後、事務所に戻って警備員とともに待機することとしました。
JVCの診療所がある二つの場所では、双方とも学校が投票所として使用されました。警察官が目を光らせ、うち1カ所には軍隊も配置されたようです。幸いにも事件なく投票は終わりましたが、診療所スタッフが村から戻る途中には爆発音が聞こえ、煙も見えたとのことでした。
選挙という大きな転換期にあっても、生命を守るという務めを果たせたと考えています。JVCではこれからも人びとが安心して暮らせるようサポートができればと思っています。
*『まなぶ』5(2014/No.685)(発行:労働大学出版センター)への寄稿文章を許可を得て転載。