今回は、プロサバンナ事業の対象であるモザンビークの国家財政の状況と、それに関連しての日本政府の外交姿勢に関して取り上げる。ただでさえ遠いアフリカの、日本が関わっている援助事業とは言えその背景にある事柄、と捉えてしまえば、自身との関わりを見出すのは難しいかもしれない。
しかし、人々の暮らしが時の政治や経済に大きく左右されるのはどこの国でも変わりはない。私たちはそれを、どこまで意識できるだろうか。
深刻な財政問題とガバナンスの欠如を抱えるモザンビーク
今年3月、ニュシ・モザンビーク大統領が急遽、来日した(注1)。外務大臣、農業大臣など閣僚を伴った大きな公式訪問だったが、同時期のサウジアラビア王様の「大名行列」によって、影に隠れてしまった。しかし、同国政府にとっては急を要した重要な来日だった。なぜなら、モザンビークは今、深刻な借金状態にあり、信頼回復のためにどうしても日本からの投資と支援の約束が必要だったからだ。
この数年でモザンビークの対外債務は急増した。現在、民間を含め債務残高は100億ドルを超え、対GDP比130%に接近するに至る。そして今年1月、600億円の金利が返済できず、同国はアフリカでは2011年のコートジボワール以来のデフォルト(返済不能状態)に突入した。
債務急増の主たる理由は、一次産品(主に鉱物資源)の価格低迷である。鉱物輸出は外国資金に依存するモザンビークの外貨獲得の唯一の資金源だが、価格低迷で為替が下落し、債務が一気に膨れ上がったのだ。同国経済は外国資金と資源輸出に依存する脆弱な基盤の上になりたっているため、債務超過に陥りやすい。そして、それに拍車をかけているのが政権の政治運営の拙さである。未熟なマネジメントや不透明な財政運営にも関わらず、外国投資家が急速に資金を流入したため汚職や腐敗を招きやすい環境をつくってしまったのである。先の金利返済ができなかった債務、20億ドル(約2200億円)も政府関係者が関与するマグロ漁業会社が借り受けたもので、現地報道によればその金が紛失し、一部では与党フレリモの軍事活動費に回ったと言われている。これでは、穴 の空いたバケツにカネをつぎ込むようなものだ。IMFも、債務急増の根底にあるガバナンスに改善の余地が見込まれないとして融資を凍結した。そして、とうとう民間投資家も1月の不払いでそっぽを向いてしまった。八方ふさがりとなったモザンビークが救いを求めたのが日本である。
◎注1...外務省サイトより。「政治的判断」のしわ寄せが他国の農民へ
案の定、モザンビークを足がかりにアフリカ進出を果たしたい日本は彼らを歓迎した。しかし、日本政府も一枚岩ではない。来日直前、財務省の担当者と話をする機会を得たが、彼らは債務状況だけでなく、ガバナンスの悪さに憤っていた。モザンビーク政府が提案する改善計画も、鉱物資源頼りでバブルの再来を願うようなもので、素人がみても健全性や可能性は低い。担当官も「日本の民間投資家も、そこまでバカではない」とまで言っていた。しかし、外務省は別である。年度内というタイミングでもあり、振り分けられた外務省予算の活用と将来への約束で関係維持を図った。
34億円相当の無償資金協力による橋梁整備計画に関する書簡を交換し、3月15日に発表した日・モザンビーク共同声明では、わずかに債務問題に言及したもののガバナンス問題は不問に付し、安保理改革や北朝鮮問題などの「国際場裡における協力」を含めて「アフリカの一票」を確保したのである(注2)。プロサバンナ事業についても、農業開発と食料安全保障にとって重要であると言及し、実施継続の可能性を匂わせている。あれだけ問題を孕みながら見直す気がないらしい。
ガバナンス悪化と債務超過は、早晩、市民の暮らしにしわ寄せとなって表れるだろう。治安が悪化し、物価が高騰するからだ。加えて、プロサバンナ事業によって生業を破壊された小農たちの生計手段を奪っていくだろう。農民の声を聞かず、丁寧なプロセスも踏まず、援助がもたらす影響を慎重に考えず、ガバナンス問題にも毅然と対応せず、ご都合主義的外交で政府支援を続ければ、農民や庶民の暮らしを直接/間接に苦しめる。援助が外交ツールであることによって、人々に二重の苦しみを味あわせることになることへの自覚と責任意識を欠いてはいけない。
そう言えば、日本は、サウジアラビア国王訪問の際、国内で酷い人権侵害を続けている問題やイエメンなど他国で犯している戦争犯罪を問い質したのだろうか。メディアの報じないところで数多くの歪みが生まれている。私たちはもっと意識を向けなければいけないようだ。
◎注2...外務省サイトより。