イードおめでとう!
11月16日。電話に出たバグダード在住のアフマドさん(仮名)の声は弾んでいた。
彼の声の調子は、今年のイード(犠牲祭、イード・アル・アドハ)を迎えるバグダードの住人の多数の声と思って良いのだろうか、気になるこちらの思いはお構いなしに、アフマドさんの声の調子はどこまでも明るかった。
3月に行われた国民議会選挙の後、政党各派の合意づくりに手間取り、新政権の首相指名までこぎ着けたのが11月11日のことであるから、この間に8ヶ月もの時間が経っている。
これだけの時間がかかっている間に、イスラームの中でも大事なラマダン(断食月)やラマダン明けの祝祭日(イード・アル・フィトル)も過ぎていった。ようやく次の大事な祝祭日の前に駆け込みで新政権が決まった形だ。
この間も爆破事件は目立って減る傾向にはなく、キリスト教徒などの少数派を狙った事件が逆に目立つようになった。ついこの間の11月初旬にもバグダードでは同時多発爆破事件により多数の市民が支障している。一般市民はもう暴力にはうんざりしているのだとアフマドさんをはじめとして、私が連絡を取っているイラクの知人は口を揃えて言う。それでも暴力がなくならないのが問題であるが。
新しい政権ができ、祝祭日の賑わいの中につかの間、暴力を忘れていられるという期待がある。アフマドさんの声が明るいのにもそのような訳がある。しかし、つかの間の幸せが長続きして欲しいとの願いに、確信を持った答えが用意できないのが現状だ。新政権も重要な閣僚の指名を前にして、今にも各党の連合が崩れそうだ。
イードの祝祭日の間には、親戚や親しい者が互いの家を訪問し合って祝うのが慣わしだが、中には、治安が悪いことを心配して外出を控えて、電話やメールで済ます人々もあるようだ。子どもたちも新しいおもちゃや新しい服を買って貰い、遊びに外に出るのを楽しみにしている。アフマドさんは言う、「どこに出かけようとしても警察や軍などの治安部隊だらけだ」。確かにこの祝祭の季節に不測の事態があってはいけないとして大量に駆り出された治安部隊の警護のもとに薄氷の安全は保たれている様だ。

