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祝祭日を過ごすバグダードの人々

イラク事業担当 原 文次郎
2009年12月17日 更新

今年もあっという間に年末が近くなり、やり残したことが気になるこの頃、ヨルダンでは「クル・アーム・ワ・アントン・ビヘイル(あなた方一同に平穏がありますように)」の挨拶に季節感を感じます。イスラームの二大祭りの一つ、イード・アル・アドハー(犠牲祭)の挨拶の声が、11月末の街のあちこちで聞かれました。
イラクは11月27日(金)から12月1日までの5連休。スンニ派は27日から30日までが祭日、シーア派は一日ずれていて28日から12月1日まで。もともと金曜は礼拝日で祝日なので、ちょうど両方に都合の良い形。
犠牲祭は、神の試練により自分の息子を犠牲として殺すことになった預言者イブラヒムが、最後は神の思し召しで、息子の代わりに羊を差し出すことになったという故事に基づいています。
まだまだ治安が安定しないバグダードでは、祝日前の買い出しで賑わう市場での事件発生が懸念されましたが、今年は大きな事件にはならず、とりあえずは無事に祝日を迎えたようです。

1.買えない羊肉〜物価の高騰〜

祝日の初日は早朝から、家族みんなで礼拝の後、羊を供にして食事をするのが慣わしと聞きました。街頭でもそのための羊を売っています。
2004年2月のイードの時には、羊一匹の値段が約100ドルちょっと。当時の一般市民の平均月収と、ちょうど同じくらいの値段でした。それが2009年11月のイードでは、安い方でも300ドルからだとか。この約6年間の間に市民の平均月収も300ドルに上がっていますが、物価の高騰はそれを上回っています。
おかげでせっかくのお祝いの季節にもかかわらず、羊肉は高価で庶民の手には入り難いと、バグダード在住のアフメドさん(仮名)は言います。イラク人はイラク産の羊肉の品質の高さをいつも自慢しているのですが、その自分の国の自慢の品が庶民には手が届かず、代わりに羊肉は量り売りでキロ当たり12ドルと言った値段で買うか、あるいは国産でなくもっと安いインドやUAE(アラブ首長国連邦)などから輸入された冷凍肉を買うのだとか。それも手が届かない人々は、羊肉の3分の1から4分の1の値段で買える鶏肉で我慢しています。

公園で遊ぶ子どもたち(バグダード市内 11月28日)イード休日2日目。公園でブランコ遊びをする子どもたち。公園はたくさんの人であふれていた。公園で遊ぶ子どもたち(バグダード市内 11月28日)イード休日2日目。公園でブランコ遊びをする子どもたち。公園はたくさんの人であふれていた。

2.薄氷の治安確保

お祭りの時期は、子どもたちにも楽しみな季節です。少子化が心配される日本とは違って、子だくさんの社会なので、親戚同士が集まると、子どもがたくさん集まり大賑わいです。裕福な家庭では、日本のお年玉のようにいくらかのお金ももらえるそうです。
羊肉が買えない家庭でも、そこは子どもたちを大切にしたい親心。なけなしのお金で新しい服を買ってもらった子どもたちは、着飾って遊びに出かけます。
バグダード市内の公園も、そのような子どもたちや引率の大人たちで賑わっていて、一見平和な風景です。2年前の、内戦状態と言われた最悪の治安状況の時期には、このような風景を想像することが難しかったと言います。バグダード出身のドクターのアリさん(仮名)は、「市民同士のいがみ合いはもう終わった。街の雰囲気も一時は殺伐としていたが、最近はだいぶ良くなってきた。」と、前向きの変化を強調します。確かに、もともと一般市民同士の間には対立がなかった、対立が生まれたのは政党や宗派で権力を持つ者同士の争いがあってからのことだ、と言う声はイラクの人々の間ではよく聞かれます。
しかし、よく見ると、子どもたちで賑わう公園も、警察のパトカーやイラク軍の兵士によって厳重に警護されていることに気がつきます。アフメドさんも、少なくとも休みの最初の3日間は、このような厳戒態勢もあってか、市内で爆発物の事件や襲撃の事件は一時的に止まったと言います。しかし、その後の話では、バグダード市内のある地区で礼拝中の人々がアル・カーイダ系とも言われる武装集団に襲われ、これに対して地元の住民が武器を持って応戦するという不幸な事件があったことを聞かされました。
ちょうどこの祝祭日の前後には、来年に予定されているイラク議会選挙の進め方を巡る選挙法の扱いが政治的な焦点になっており、当初の予定通りの1月末までの議会選挙実施はほぼ無理という情勢になっています。
市民が何とかして争いを収めて平和な生活を取り戻そうと懸命に努力している一方で、政治的な争いから事態がまた悪化することを懸念します。

救急車も待機(バグダード市内 11月28日)万一に備えて公園の外の街路では救急車が待機していた。救急車も待機(バグダード市内 11月28日)万一に備えて公園の外の街路では救急車が待機していた。

以上