\n"; ?> JVC - イラク・ブリーフィング 第2号 - イラク・ヨルダン現地情報

イラク・ブリーフィング 第2号

イラク事業担当 原 文次郎
2006年6月13日 更新

〜ヨルダン発、イラクの声〜

<はじめに>

イラクではこの5月20日にようやく本格政権が発足しましたが、国防相や内務相という治安を司る主要閣僚のポストを空席とし、首相と副首相による兼任での立ち上がりとなりました。その後、調整に難航し、きょう(6月8日)になってやっと、空席としていた閣僚のポストが議会で承認されました。
いっぽう、イラク国内の治安の悪化はさらに深刻化し、南部バスラでのシーア派同士の抗争を受けて、マリキ首相は5月30日付けで、バスラに1ヶ月の非常事態宣言を発令する事態となっています。

このような治安情勢の悪化がありながらも、しかしそれでも非暴力の国づくりが可能なのか。これを話し合うための会合が5月末に開かれ、最終日の国際会合にJVCより2名が参加しました。今回のブリーフィングはこの会合の模様を中心にヨルダンからお送りします。

INDEX
【1】特報:
「イラクで非暴力を広め平和を主導するためのネットワーキング会合」
イラク支援の国際NGOと現地NGOが、非暴力の国づくりに向けて会議。
異なる立場での「対話」の重要性が強調された。
【2】イラクからの声(番外編) 〜NGOイラク人スタッフと米国人の対話〜
【3】6月21日に、今回の会議の報告会を開催します。
JVC水曜講座「イラク市民社会からのメッセージ」のお知らせ

【1】特報:

イラク支援の国際NGOと現地NGOによる
「イラクで非暴力を広め平和を主導するためのネットワーキング会合」
(Promoting Non-Violence and Networking Peace Initiatives in Iraq)
   2006年5月28日〜31日

5月28日(日)から31日(水)にかけて、イラクの隣国ヨルダンの首都アンマンで「NCCI(イラクにおけるNGO調整委員会/約80団体が参加)」の主催で、イラクでの非暴力の国づくりに向けてのワークショップと国際会議("Promoting Non-Violence and Networking peace Initiatives in Iraq)が開催されました。

イラクのほぼ全ての人々が治安の安定を望み、平和と和解の道筋が必要であるという考えでは参加者の意見は一致しています。「それではどうやって暴力を止めるのか?」という課題に対して、社会的、経済的、宗教的な立場の違いや見解の違いを超え、あらゆるレベルでの「対話」の重要性が確認されました。

今回のワークショップ、および国際会議の目的は、暴力を止めさせる、もしくは暴力のレベルを下げ、非暴力の概念の受け入れてもらうと共に広めること、そして意見の異なるイラクの様々な地域の人々同士の対話の機会を設けることにありました。

5月28-29日の2日間にわたって非公開で行われた最初のワークショップはアラビア語のみで行われ、イラク議会や政治家の関係者、報道関係者、イラク国内NGOのスタッフ、地域に根ざした団体のスタッフ、国際NGOのイラク人ローカルスタッフ等、計26名が参加しました。

31日の最終会議は、国連や国際機関、国際NGOの外国人スタッフも加えた公開会合として、アラビア語−>英語の同時通訳を交えて開催され、最初の2日間の議論を踏まえた4点の提案/指針が発表され、議論が展開されました。日本からはJVCをはじめとするNGOとJICAの関係者が参加しました。
(最終会議のイラク国内NGOからの参加登録数は16団体、国際NGOの参加登録数は19団体、国際機関、大使館の関係者も含めた参加者総数は約100名)

*今回のワークショップの趣旨と会議での提案事項はNCCIウェブサイトに英語/アラビア語で掲載されています。

1-1.会議の成果(4つの提案/指針)
今回の会議の議論から統一見解をまとめ上げるには至りませんでしたが、会合の参加団体から、次のような4つの提案/指針が発表されています。

(1)Iraq Al-Amal Foundation(イラク国内NGO)提案
暴力を止めさせるために、以下のそれぞれの立場で考慮すべき項目を列挙。この提案を元にイラク市民社会提案をまとめ、6月にイラク国内で開かれるアラブ連盟のイラク支援会合に提出することを狙う。
(A)宗教と政治家の役割
■理解と寛容の精神で対話を促進し、暴力と憎悪を退けること
■暴力やテロを避ける宗教的価値を支持すること
■人命の尊厳性を重んじること
■党派間の分裂の元となるような宗教や政治的利害の誤用を絶対的に拒否すること、 など
(B)メディアの役割
公正中立な報道、報道の自由を守るための法制度、公正中立な報道機関(公共放送機関)の設立、非暴力のためのメディアトレーニングなど
(C)市民社会とNGOの役割 
復興に果たす役割の重要性、人権尊重のための政策提言、非暴力の対話の促進、法の支配を当局に求めること、など
(D)法的権威の役割
法の支配を徹底し、憲法の条項をより民主的なものにするための改訂など

(2)Center for Human Development (イラク国内NGO)提案
暴力の停止そのものは不正義の解決に結びつかないとして、変化をもたらす手段として抵抗の権利は放棄しない立場。その上で、将来を担う立場として学生の主導権を重視し、学生による一時的な非暴力キャンペーン(期間:5月27日より6月2日まで)を提案。

(3)UNAMI (国連イラク支援ミッション)提案(=Baghdad Peace Accord/バグダッド平和協定)
■全ての社会階層の人々(政治リーダーのみならず地域の人々も)を巻き込んだ包括的な提案。
■警察、政党、民兵、メディアなど紛争の原因となり得る関係者に詳細な行動規範を求める。
■協定にもとづき非暴力が遵守されているかモニターするシステムを構築する。
■バグダッド平和委員会、執行委員会、地方の平和委員会の仕組みを作り、協定を履行させる。
■ただし、取り決めに米軍やアルカイダなどを取り込むことが難しいというこの提案の限界も指摘された。

(4)UNESCO/在ヨルダンイラク大使館文化担当官による合同提案
イラクの将来を担うべき高学歴の人々が脅迫を受けたり生命に危害を加えられることのないよう安全を保障すべきとする提案

1-2.議論のまとめ
政治的、経済的、社会的な安定の道筋が見えない現在のイラクの国内情勢を反映してか、議論でもさまざまな意見が出され、問題解決に向けての提案にしても、ひとつにまとめることはできませんでしたが、全ての人々が治安の安定を望み、平和と和解の道筋が必要であるという考えでは一致しています。「それではどうやって暴力を止めるのか?」という課題に対して、個人、団体を問わずあらゆるレベルでの対話の重要性が強調されています。

そこではモノローグ(一人語り)から始めて対話へと進めること、違いを強調することを止め、類似点を強調すること、そして対話の中で共通の立脚点を見出し、対話を継続することこそが非暴力と平和への道筋であることが語られています。非暴力の文化を対話により創造することが求められているのです。

また、今回の会合を出発点として、このような対話が行われたことをイラクの国内、国外を問わず広く知ってもらうことも非暴力の国づくりのための一歩であると確認されました。

1-3.会議最終日に参加して (JVCイラク担当 原 文次郎)
イラク国内情勢の混乱を象徴してか、参加者の間の立場の違い、見解の相違も大きいものでした。例えば、現在続いているイラク国内暴力の起源を2003年のイラク戦争後の占領体制に問題があるとする立場がある一方で、暴力の起源を近代のイギリスからの独立以前のイラクの歴史の中に見る立場もありました。
また、自分たちの宗派や部族・民族の苦難を強調する余りにその苦難の原因を国内の異なる宗派や部族・民族に求め、イラクの分裂状況を訴える立場もあれば、宗派や部族・民族の違いは大きな問題ではないとしてイラクの統合を訴え、暴力の原因はイラク人同士の争いではなく、隣国をはじめとする外国勢力の介入によるものだとする立場もあると言う具合です。

今回のワークショップでは、このように異なる意見を持つ多様な参加者を得たこと自体が成果と言えます。また、これらの参加者の間で「対話」の重要性が確認できたことも今後の非暴力の国づくりに向けての成果であると言えます。
しかしながら、これらの多様な意見を持つ参加者が一致して承認できる統一した見解を取りまとめるには至らず、4つの提案が並列する結果となりました。

また、参加者の中には抵抗の権利を認めながらもその手段として暴力の行使を否定しない見解も見られるなど、非暴力の精神と相容れない考えもあり、NGOの行動規範に照らしてこれを承認することはできず、問題であるとして、主催者や参加NGOがこのような意見に対して一定の距離を置くなど、戸惑いが見られました。

最終的には暴力の解決策としてひとつの統一見解をまとめるには至りませんでしたが、まずは今回の形で対話を持ったことを前向きに評価し、これを出発点としてイラク市民社会とそれに関わる内外のNGOや支援関係者の間で今後の議論が深まることを期待します。

【2】イラクからの声(イラクの人々の声を直接拾い、お届けします)番外編

〜NGOイラク人スタッフと米国人の対話〜

5月31日に【1】で紹介したアンマンでの国際会合に参加したバクダッドの住民で、国際NGOのイラク人ローカルスタッフのモハメッドさん(仮名:30代男性)とアメリカ人平和運動家のジョディーさん(仮名:50代女性)の会話より

モハメッドさん
「バクダッド市内で自分の住むの地域では100人から150人の警察が警備しているが、毎日平均住民5人ほどが殺されている。誰が殺しているかはっきりしていないが、職業や出身を尋ねることなく、シーア派か、スンニ派かそれだけを聞いて殺す。
これまでシーアかスンニの違いなんて、日常意識していなかった。自分はシーアだが、妻はスンニだ。親戚の中にはシーア、スンニそれぞれだよ。4歳と6歳の 子どもがいるが、ある日妻が子どもを連れて行ったら、幼稚園が閉まっていた。
危険で子どもを幼稚園であずかることはできないと言われた。でも家も安全ではない。5月後半の2週間だけでバクダッドの治安悪化を理由に一般市民1500家族が南部に非難したと言われているよ。」

かつてバクダッドで戦争直前にイラク攻撃反対の平和行進をしたこともあるジョディーさんは、モハメッドさんにこう言いました。
「アメリカ人としてイラクの人々に本当にすまないと思っている。多くのアメリカ市民もこれまでアメリカが行ったことをイラクの人々に謝りたいと思っている。
でもそれを声にできない。私はそれらのアメリカ市民を代表する立場でここにいるの。・・・・・・今、米軍駐留には多くの問題もあるが、イラク人同士で殺しあう状況になっている。ただ、米軍撤退といってもだめなのではないか?
われわれ平和運動家にできることはなにか?教えてほしい。」

モハメッドさん
「あなたがた米国市民にお願いしたいことは、アメリカの大統領を代えることだ。
しかし、もうすべてが遅すぎる。他に方法があるとしたら今のイラク政府をすべて変えて、首相の首をすげ替えることだ。」

<ふたりの対話を聞いて>             (JVCイラクチーム)

モハメッドさんはアンマンからバクダッドに戻る途中、シリアに住んでいる両親に会いに行くと言っていました。バクダッドは大変危険ですが、モハメッドさんの妻と子ども2人が待っています。イラク人のモハメッドさん、アメリカ人のジョディーさん。ほんのわずかな間の会話でしたが、ここに国を超えた個人と個人のつながりがあり、絶望の中から平和を求める声がありました。 (長谷部)

「イラクはひとつ。もともとスンニだシーアだという違いはない」という言葉を聞くのは珍しいことではなく、このモハメッドさんに限らず、これまでに出会ったイラク人のほとんど、そして今回のアンマン滞在中に会ったイラクからの人々が口を揃えて訴えていることです。
そして、「サダム政権時代の方が生活状況はましだった。今、サダムが復権すれ
ば、○○時間(人によって数字が変わります)以内に治安も収まるし、状況は好転する」ということばもまた多くのイラクの人々から共通に聞かれる言葉です。
これは政治的な立場でサダムの復権を期待すると言うよりも、旧政権時代の生活水準が現在よりもましであり、せめてその状態までは戻りたいと言う願いの現われでしょう。                  
米国の平和運動家も、現実には米軍の即時撤退は治安の更なる悪化を招くことを知りながら、スローガンとしては即時撤退を叫ばざるを得ない苦悩を抱えていることがわかりました。日本のわたしたちもまた彼女と同様に、率直にイラクの人々が私たちに期待するものを聞く耳を持たなければならないと痛感しました。(原)

【3】今回の会議の報告会を開催します。

JVC水曜講座「イラク市民社会からのメッセージ」

今回の会議や、これまでの医療支援を通して得たイラクの人々の声をお伝えします。イラクに生きる人たちが新しい国づくりに抱く思いを、ぜひ多くの方々と共有したいと思います。
【日 時】6月21日(水) 19:00〜21:00
【報告者】原 文次郎(JVCイラク担当)
【場 所】文京シビックセンター 3階 区民会議室
【住 所】東京都文京区春日1-16-21  Tel 03-3812-7111
         地下鉄 後楽園駅・春日駅 徒歩1分
         JR 水道橋駅 徒歩8分
【地 図】http://www.city.bunkyo.lg.jp/shisetsu/civic/index.html
【定 員】50名
【参加費】500円(JVC会員の方は無料)
【お申し込み】日本国際ボランティアセンター(JVC)
TEL 03-3834-2388/FAX 03-3835-0519 hirose@ngo-jvc.net 担当:広瀬
※事前にお申込ください
◆JVCでは毎月第3水曜に、「水曜講座」として様々なテーマで入門編の講座を開いています。毎月お楽しみに!

<発行> 日本国際ボランティアセンター(JVC)イラクチーム
<編集責任者> JVCイラク担当: 原 文次郎

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