マンスール教育病院に行くと、Drマーゼンが忙しそうに
「これからCPAの人たちが来るので…」
と打ち合わせが中断になった。病室に林医師を案内していたら、CPA関連やアメリカのガン協会のお偉いさんやらがどかどかとやって来る。みんな防弾チョッキを着ているし、銃を持った護衛がついている。
「病院の中でも彼らは狙われるんだろうか。だとすると危なくてしょうがない。流れ弾でも患者に当たったらどうするんだろう。」
と首をかしげてしまう。

看護師のラスミーエさんは、30年以上この病院で働いているベテランだ。
「アメリカ人は怖いわ。だってみんな身体が大きいでしょう。日本人は小さくて安心する」
「日本にだってでかいやつはいますよ」
「フィリピン人やベトナム人の看護師と一緒に働いていたけど、経済制裁が続くとみんないなくなってしまったの。イラクでは看護師の人材が不足しています」
戦前の給料は月3ドル程度。それが今では300ドルもらえるようになった。
「それでも物価が上昇してやっていけないわ」と言う。
あくる日、中央教育病院に行く。Drイブラヒムに話を聞いた。
「劣化ウラン弾ですか?私たちは1993年頃からガンや白血病が増えていることに気がつきました。何か環境が変化していることが考えられますが、尿や血液の中に劣化ウランが含まれているかどうか、イラクでは検査できません。
私たちはヒロシマと比べています。広島でも原爆の放射能による白血病かどうかは確定できませんでした。しかし原爆で被爆した人に圧倒的に白血病が多いのは事実です。そうすると、当然イラクでは劣化ウランの影響が疫学的に考えられます。」
ちょうどそんな話をしていたときに、またもやアメリカ人の一行が護衛を連れてやってきた。CPAのシニアアドバイザー達である。彼らもガンの子どもたちの支援をするのだろうか。
それにしても驚いたのが護衛だ。アメリカ人だが米軍ではない。民間のガードマンである。なんとカラシュニコフを持っているのだ。カラシュニコフはソ連が開発した自動小銃でイラク軍が使っていた。イラク軍からふんだくったものだろうか。

ガードマンは、タバコを加えていた若者からいきなりタバコを奪うと、床に投げ捨てて靴でもみ消した。
「ここでタバコをすうんじゃねえ」
と銃を持って怒鳴りつけた。
若者は、あっけに取られてきょとんとしてしまった。
「ここに来てどれくらいですか」と私が聞くと
「10分だ」と言う。
「そうじゃなくて、イラクにはどれぐらいいます?」
「お前に応える筋合いはねぇ」
実に横柄な態度だ。
私は何でカラシュニコフを持っているのか聞きたかったのだが、やめにした。
「ここにタバコを捨てるなよ」
と注意してやったら良かったと後悔する。
ともかくアメリカ人は偉そうだ。