朝方、ルウェイシェッドのホテルで仮眠を取る。3時30分、車がやってきた。吉野がイラクに届ける白血病の薬を持ってきた。
ムスタファ君は車の中。長ズボンをはくとちょっと大人びて見える。
「眠い?」
「ううん。バグダッドまでは寝ないよ」
いよいよ出発。吉野やムラッド、JVCの運転手アイマンが見送ってくれる。ムスタファ親子とレストランでスープを飲んでいよいよ国境を目指す。星がきれいだ。まるで、宇宙を飛んでいるような感じ。
まだ日が昇らないうちに出国審査を済ませる。ここまでは実にスムーズにいった。

イラクに入国する。今はアメリカ兵がいなくなってイラク人が国境を管理している。
「ヨルダンで治療したのか?それはよかった。よかったね。」
人情たっぷりの気のいいイラク人の兵隊が喜んで通してくれる。バグダッドまで寝ないと言っていたムスタファ君も安心して寝てしまった。
途中、米軍のヘリコプターが飛んでくると父のエマッドは不機嫌になる。
「アメリカは一体どういうつもりなんだ。イラク人をこれだけ苦しめておいて」
エマッドの脳裏にはムスタファが攻撃されたときの悪夢がよみがえる。ドライバーはそうだそうだとつぶやくばかり。

看板にバグダッドの文字がみつかるとエマッドは興奮気味に、
「ムスタファ!おきろ。バグダッドと書いてあるぞ」
ムスタファは眠そうにたたき起こされる。でもこの子はたたき起こされてもすぐにパッチリと大きなお目目になる。寝起きは良いようだ。
「万歳!バグダッドだ」
ムスタファ君の家に着くと家族親戚が出迎える。泣きじゃくる妹のスースー。お母さんは全速力で車に向かってきてムスタファ君を抱きかかえて部屋に連れて行ってしまった。あまりの勢いに感動的なシーンをビデオに撮ろうと思っていた私はすかされた。大騒ぎ。キス攻めにあったムスタファ君は少し照れていた。
夕方、ムスタファ君の家に行くとなんと羊が1頭準備されていた。お祝いだという。
