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ODA ウォッチ: プロサバンナ事業 第24回

ODA事業実施に欠かせない 「相手国政府」との信頼関係

地域開発グループマネージャー/南アフリカ事業担当 渡辺 直子
2019年10月16日 更新
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ついにモザンビークの司法が動いた。現地の裁判所が、プロサバンナ事業が「人びとの『知る』という根本的な権利を侵害している」 として、「プロサバンナ事業の影響を受ける市民の自由と権利を侵害する可能性のある計画・組織および決定に関する公益にかなう情報」の全面公開を命じる判決を下した(注1)
事業下ではJICAによる資料も多く作成されてきた。いま、日本政府が果たすべき責任とは。

「知る権利」を侵害する事業

2018年8月1日、モザンビークのマプト市行政地方裁判所が、プロサバンナ事業が「人びとの知る権利を侵害している」として、事業に関する情報の全面公開を命じる判決を下した。「プロサバンナにノー!キャンペーン(注2)」の相談を受けたモザンビーク弁護士協会が、事業の管轄省である農業食料安全保障省(以下MASA)大臣を相手に提訴、これが全面的に認められてのことだ。判決は情報の「10日以内の全面公開」を命じている。また、MASAが裁判において一切の反対論述も陳述もしておらず、反論や異議の不在がモザンビークの法律で「事実の告白を意味」する旨も記載されている。

これを受けて、12月5日のNGO・外務省定期協議会/ODA政策協議会で、外務省の見解と対応について質問した。その結果、外務省・JICAは、①9月27日にモザンビーク弁護士協会のプレスリリースに基づく現地報道で裁判と判決について初めて知り、②10月29日に駐モザンビーク大使館と現地JICA事務所がMASAに照会、その結果、③MASAが判決の10日以内に、プロサバンナ事業に関する情報を開示してきた旨説明する書簡を、根拠となる資料とともにMASA大臣名で発出したとの説明を受けたことが確認された。また、④行政裁判についてはモザンビーク国内の手続きであり、情報開示についてはモザンビーク政府が適切に対応するものとの見解が示され、故に⑤「根拠となる資料」の内容は確認していない旨も説明があった。

なお、判決以降、19年1月現在まで、新たな情報は何ら開示されていない。

責任放棄する日本政府

JICAの「環境社会配慮ガイドライン」では、様々な項目において、情報公開の重要性が繰り返し強調され、そのためのJICAの役割が明記されている。例えば「Ⅱ 環境社会配慮のプロセス 2・1 情報の公開」には、情報公開は「相手国等が主体的に行うこと」を原則としつつも、JICAは「適切な方法で自ら情報公開する」、「情報が現地ステークホルダーに対して公開・提供されるよう、相手国等に対して積極的に働きかける」とある。また「2・6 参照する法令と基準」には、JICAは「相手国及び当該地方の政府等が定めた環境や地域社会に関する法令や基準を遵守しているかを確認する」とある。すなわち、現地における環境社会配慮の実現にとって、情報公開と、そのためのJICAによる相手国政府への積極的な働きかけと関与が欠かせないものとして定義されている。

これに照らせば、判決について知ってから1ヵ月以上経ってMASAに照会、「これまで情報開示してきた」というMASAによる説明を、根拠となる書類の確認もせずに聞いてきただけのJICA・外務省の対応は、環境社会配慮実現のための責任を放棄していると言っても過言ではない。一方、判決文には「政策事項への参加の権利の特徴は、公的な情報の入手によって得られる理解を前提としている」ともある。「事業は反対派も含む人びとの参加型で進める」とする外務省・JICAが、情報公開に全面的に応じる必要があることは言うまでもない。

「政府」との信頼関係の不在

さらに、上記①で確認される、モザンビーク政府が裁判と判決について日本政府に何ら共有していなかったという事実は重大だ。これまで、外務省・JICAは、「モザンビーク政府のオーナーシップの尊重」を主張してきたが、その実態が、「都合の悪い事実が隠される関係性」であることが今回の件で明らかになった。これまで、市民社会からの様々な指摘と対応の要請に対し、日本政府が「オーナーシップの尊重」を隠れ蓑に、都合の悪いことは全て「モザンビーク政府の責任」に擦り付けてきたことを思えば、当 然の帰結ともいえるだろう。

だが現地では、事業に反対の声をあげる人びとに対するモザンビーク政府による弾圧等の人権侵害が生じ続けており、早急に対応する必要がある。都合の悪い事実が隠される関係性の下では、相手国政府によるガイドライン遵守を確保することは不可能であり、現地の人びとを人権侵害から守ることなどできない。

外務省・JICAには、自分たちが、ODAの相手国の人々だけではなく、政府とも信頼関係が築けていないのだということに、そろそろ気づいてほしい。日本政府の無責任な態度が、現地政府による人権侵害を可能にするだけではなく、むしろ助長している。そんな状況下で、貴重な税金を投じられ続けるのは(注3)、市民として迷惑以外の何物でもない。

※注(1)判決文日本語仮訳(全文)https://www.farmlandgrab.org/post/view/28573-

※注(2)現地小農・市民社会組織からなるネットワークで、JVCの提言活動の現地パートナーでもある。

※注(3)プロサバンナ事業全体で、これまで32億円の税金が投じられている。

No.334 3ヵ国民衆会議 危機の21世紀を超えて、つながりあい、食の幸せを未来に手わたすために (2019年1月20日発行) に掲載】