2017年11月、同年4月にプロサバンナ事業対象州の住民11名がJICAに提出した、事業が環境社会配慮ガイドラインに違反するとした「異議申立」に対する調査報告書の日本語版が公表された。※注(1)
本稿でもお伝えしてきたJICAによる現地農民・市民社会組織への「介入」とその結果の「分断」、あるいはその他の異議申立内容については、いずれも「ガイドライン違反なし」との結論が出され、残念な結果となった。
今回はその後の事業を取り巻く状況についてお伝えする。
外務省による「一定の理解」
今年の3月1日、プロサバンナ事業に関する「河野太郎外務大臣の指示」が外務省からNGOに伝えられた※注(2)。「反対派を含む参加型意思決定ルールに基づく議論の実現」をプロサバンナ事業における今後の支援の条件とする内容で、その条件が整わなければ事業は「ゴーじゃない」との確認もなされた。
これより前の昨年11月、プロサバンナ事業がJICA環境社会配慮ガイドラインに「違反なし」との結論が出た直後、早速モザンビークでは、事業に関連して新たな人権侵害が生じていた(事業対象州の農務局長による事業に反対の意を唱える人びとに対する抑圧的な発言)。これに対し、12月の外務省・NGOによるODA政策協議会で、外務省の事業担当課長は「録音があれば対応する」と約束※注(3)。その後、今年1月に当該録音データをNGOから外務省に提出、3月1日の協議会において、外務省はこの農務局長の発言を「人権侵害にあたる」と認めた。また、12月の協議会に同席していた前担当課長から外務省判断により事業(マスタープラン策定)が一時中断されていた旨の発言も伝えられた。
こうしたことから、モザンビークおよび私たち日本の市民社会は、プロサバンナ事業の抱える課題について同省から一定の理解が示されたのだと認識した。前出の「大臣の指示」には「本邦NGOの皆様から、プロサバンナ事業について率直かつ忌憚のないご意見、具体的ご提案をいただきたい。また現地の市民社会・農民・住民からも同様にご意見・具体的なご提案をいただきたい」ともあり、これらの提案と人権侵害などへの対応がなされる前には事業は再開されないのだと理解した。
条件が整わないままに事業が再開される
しかし同じ3月の下旬、モザンビークにおいて前出の「大臣の指示」に反して=「条件が整わず」して事業が「再開」された。さらに、これにJICAが資金援助をしていることが明らかになった。
具体的には、①反対の声をあげる農民・市民社会組織との話し合いもないままに、JICAの資金援助で事業に関する会議開催の予定が発覚、②モザンビークと日本の市民社会組織から各政府に対し抗議と会議中止の申し入れがなされた。③しかし、4月4日、会議は開催され、④会議議事録に「一部の人々は(プロサバンナの)前進を望まないかもしれないが、私たちは前に進まなくてはならない」と書かれていることが確認され、⑤JICAの資金提供により、5月末からマスタープラン策定作業を進め、8月に完成させる意図が明らかになった。
並行して日本では、⑥3月下旬、前出の農務局長の発言を「人権侵害」と認めた協議会時の発言が、外務省によって議事録上で改ざんされ※注(4)、⑦「録音」に関しては、JICA・外務省ともに声の主が同農務局長であると認めながらも、「誰がいつどこで録音したものかがわからなければ対応できない」とされた※注(5)。改ざん、録音...まさに国会の縮図だ。
「大臣の指示」がここまで反故にされている事態を、河野太郎外務大臣自身は把握しているだろうか。
問われる「日本側のガバナンス」
これまで、ODAを改善すべく努力を払ってきた。特に、現地で生じる人権侵害を受け、援助対象国政府のガバナンスに対する日本政府としての取り組みのあり方を問うてきた。しかし振り返ってみ ると、果たしてプロサバンナ事業は、「日本のガバナンスの問題」が他国に悪影響を与える典型的な事例だ。これまでモザンビークの農民たちが、この事態に対応するために多くの時間と労力を奪われてきた結果がこれだ。その結果として、彼ら・彼女らは分断され、現地政府から脅され、命の危険すら感じる状況に追い込まれている。こうした現状を見るにつけ、仮にこのプロサバンナ事業を止められたところで、日本政府のガバナンスが変わらない限りは、またどこか他の国で同様のことが起こるだけだ。有意義な支援活動とは、その実施側が自らの足元を問い、自らの課題を乗り越えて変わっていくこととセットでしか成しえないことがよくわかる。それは、一事業の政策改善を通じて、そこから見えてきたものを仕組みやシステムに還元・普遍化していくこと、つまりは私たち一人ひとりが日本をどんな社会にしてくのかということと密接につながっている。一方で、市民が国境を越えて連帯し、自ら実践し、社会変革を求めて世界を変えていくことも欠かせない。いずれにしても、生涯をかけて闘い続けるしか方法がないのだ。
※注(1)JICAサイトより。https://ngo-jvc.info/2ml0ORP
※注(2) モザンビーク開発を考える市民の会の公式ブログより。https://ngo-jvc.info/2Nil6GQ
※注(3)2017年度第二回NGO外務省定期協議会/ODA政策協議会議事録より。https://ngo-jvc.info/2uCsgOz
※注(4)モザンビーク開発を考える市民の会の公式ブログより。https://ngo-jvc.info/2uqcjfd、https://ngo-jvc.info/2zJfcge
※注(5)録音は、提供してくれた方の身の安全を守るために提供者本人の発言部分を削除して提出していた。